ダブルチェス
ダブルチェス。
二対二で行う特別ルールのチェス。
盤面は通常のチェスと同じ。
ただし、プレイヤーは駒を分担して操作する。
各チームは事前に担当する駒を決める。
自分の担当する駒しか動かすことはできない。
今回の分担は――
バニーが
クイーン、ビショップ、ポーン。
イヌが
ナイト、ルーク、キングを担当する。
ターンはチームで共有されており、
一手ごとにどちらが動かすかは自由に選べる。
キングが詰めば敗北。
勝敗条件は通常のチェスと同じだ。
ただし――
一人では盤面を完結させることはできない。
攻めを担う者。
詰めを担う者。
その連携、あるいはズレさえも含めて、勝敗が決まる。
「イヌ、お前チェスは出来るか?」
「出来ますが……ご主人様は?」
「ある程度はな。多分お前より弱い」
「少し席を外しましょう」
「「いいですよ。行ってらっしゃい」」
離れる。
「作戦ってなんだ?」
「ご主人様は、駒を動かす前に――」
イヌは左手を机に置く。
「僕の手を見てください」
「指が触れていたら、その手で問題ありません」
「……サインか」
「はい」
「動かす方向は――」
「流石にそこまでのイカサマはバレるだろ」
一瞬、間。
「……分かりました」
わずかに笑う。
「では、後はこちらで調整します」
対局が始まる。
「「バレないと思った? そのサイン」」
「指摘してもいいですが、そちらのサインも指摘しますよ」
「「……まぁいい」」
「「情報量は、こちらが上だ」」
(……分からない)
(サインなんて、何も見えてない)
その時。
(……!?)
(変わった――)
(イヌのサインが、違う)
「「ハハッ、真似したんだ」」
「「でも――そいつに理解できるとは思えないけど」」
「ご主人様」
イヌの声は落ち着いている。
「信じてます」
「……正直、博打ですが」
盤面が傾く。
数分後。
劣勢。
「「もう逆転は無理だね」」
「…………」
「ごめん、イヌ」
バニーが低く言う。
「サイン――今、やっと分かった」
一瞬。
イヌが、笑う。
「間に合いましたね」
「あと数手遅れていたら、負けていました」
「「……は?」」
「逆転します」
「出来るのか?」
「勿論です」
駒が動く。
数手。
さらに数手。
そして――
「「……なんでだ」」
「「何故、あそこから負ける」」
「やりましたね、ご主人様」
「あぁ……情報を渡せ」
「「分かったよ」」
――説明が終わる。
「……なるほどな」
「「まぁいい」」
「「不可侵は解けた」」
「「ただし――お互いに、だ」」
「チッ」
バニーが舌打ちする。
「こっちが負けたら一方的に殴れる癖に」
その瞬間。
イヌが踏み込む。
距離が、一気に詰まる。
「「――ッ」」
二つの影が歪む。
本性が露わになる。
「「殺――」」
声が途切れる。
刹那。
ナイフが走る。
首が、落ちる。
「……終わりです」
「お前……」
バニーが目を細める。
「闘技場、手加減してたのか?」
「だって」
イヌは肩をすくめる。
「一方的に勝つと、オッズが壊れますから」




