バトン
「……いつも通り、寝たな」
バニーが小さく呟く。
静かな寝息。
そのまま時間が過ぎる。
――一時間後。
「……ごめん……」
かすれた声。
「捨てないで……置いてかないで……」
バニーが目を細める。
「……やっぱりか」
小さく息を吐く。
「最近、ずっとこれだな」
隣にいる気配へ視線を向ける。
「なぁ」
沈黙。
「……ほんとに一回だけですよ」
少し間があって。
「……分かってる。」
ゲヒュールが、そっとイヌの頭に触れる。
――
夢の中。
「……ごめんなさい」
小さな声。
「元気出して」
優しい声が降りる。
「……え?」
気づいた時には、抱きしめられていた。
「よしよし。いい子いい子」
ゆっくりと頭を撫でられる。
「……嫌いじゃないの?」
震える声。
「嫌いになんてならないよ」
少しだけ笑う気配。
「大好きだよ」
間。
「……僕も、大好き」
掠れる。
「だから……離れないで」
「ずっと側に居てよ」
一瞬だけ、抱きしめる力が強くなる。
でも。
「……駄目だよ」
優しく、でもはっきりと。
「前に進もうよ」
「今、大事な人は誰?」
沈黙。
「……それは」
言葉が詰まる。
「……いるでしょ」
静かに促す。
「大事な人」
「……うん」
「なら」
そっと額に触れる。
「大切にして、守ってあげないと」
「いい子だから、できるよね」
小さく頷く。
「……頑張る」
「うん」
優しく笑う。
「やっぱり可愛くて、いい子」
涙が滲む。
「……泣かないの」
もう一度、撫でる。
「大丈夫だから」
「……うん」
少しだけ、間。
「……私、もう行くね」
手が離れる。
「……」
声が出ない。
「バイバイ」
――
「よく出来ました」
――
現実。
ゲヒュールが、そっと離れる。
「……これで、よし」
バニーが静かに言う。
「落ち着いたな」
「ええ」
短く返す。
「後は、任せますね」
一拍。
「バニーさんが、ちゃんとやってください」
バニーは少しだけ目を伏せる。
「……分かってる」
小さく頷く。
「バトンは、渡しましたから」




