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思い出のお菓子
扉が開く。
軽い足音。
「ご主人様!」
声だけで分かる上機嫌。
「おかえり」
バニーはソファに座ったまま、視線だけ向ける。
「今日は頑張りました!」
「へぇ。何を?」
「ゲヒュールの群れだったんですけど、一人で片付けました」
一瞬だけ、間。
「……それは普通にすごいな」
軽く手招きする。
「おいで」
イヌが近づく。
そのまま、頭に手を置く。
「よくやった」
撫でる。
「えへへ」
素直に笑う。
「はい、これ」
小さな袋を差し出す。
「……あ」
中身を見て、目が少しだけ開く。
「これ、好きです」
「知ってる」
肩をすくめる。
「なんか分かりやすいよね、お前」
「お金で動くのに」
「思い出があるので!」
即答。
一瞬、空気が緩む。
「……そっか」
短く返す。
その時。
スマホが震える。
「あ、黒崎さん」
通話に出る。
数秒。
無言で切る。
ゆっくりと顔を上げる。
「……おい」
「なんですか?」
「テメェ、職場に置いてた金でパチンコ行ったらしいな」
「……あ」
一拍。
「増やして返すつもりだったんで」
悪びれない。
「結果は?」
「溶けました」
即答。
沈黙。
「……正座」
「はい」
素直に座る。
そのまま説教が始まる。
さっきまでの空気は、もう残っていない。




