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バニーと恋人
バニーが呼ばれる。
「――バニーさん」
「……誰だ?」
辺りを見回す。
「誰でもいいじゃないですか」
柔らかい声。
「……ここ、どこだよ」
「夢の中ですよ」
少しだけ間。
「……私のゲヒュールか」
「はい」
「記憶、あるのか」
「今日、思い出しました」
バニーは眉を上げる。
「それ、あいつ喜ぶぞ」
「駄目です」
即答。
「……なんで」
「それだと、あの子が前に進めないので」
静かに言い切る。
「少しだけ、お話ししましょうか」
――
イヌが好きなお菓子。
機嫌がいいときの癖。
褒めるときの言葉の選び方。
頑張るタイミング。
どれも細かくて、無駄がない。
ただ、どこかだけ――
少し寂しそうだった。
「……ありがとう」
「いえいえ」
「それでは」
声が少し遠くなる。
「起きてくださいね」
――
目が覚める。
「……夢、か」
天井を見上げる。
「ん……ご主人様」
「起きたか」
少しだけ間。
「ちょっと買い物、行ってくる」
「えー……甘えたいです」
軽く流す。
「帰ってからな」
――
戻る。
袋をテーブルに置く。
「これ、どうだ」
「……え?」
イヌの目が止まる。
「なんとなくな。買ってみた」
「……」
言葉が出ない。
「今はしまっとく」
棚に入れる。
「頑張ったときにやるよ」
一拍。
「……はい」
少しだけ、声が柔らかい。




