バニーのゲヒュール
バニーはふと、思い出したように口を開いた。
イヌに視線を向ける。
「お前の恋人って、どんな奴だったんだ?」
何気ない問い。
イヌは少しだけ考える素振りを見せてから、あっさりと言う。
「ご主人様のゲヒュールに聞いたらどうですか?」
「……は?」
バニーの眉が寄る。
「なんでそうなる」
「僕がなんでご主人様に話しかけたと思います?」
「前に言ってたろ。顔が似てるからだって」
「それもありますけど」
一拍。
イヌの声が、少しだけ落ちる。
「ゲヒュールは、人間の成れの果てです」
空気が変わる。
バニーの思考が、一瞬遅れる。
「……おい、待て」
「ご主人様のゲヒュール」
淡々と続ける。
「僕の恋人ですよ」
沈黙。
「……なんで、分かる」
「インスティンクトで見た時に」
視線が少しだけ遠くを見る。
「最初は気のせいだと思ってました」
「でも、時間が経つほど確信に変わった」
バニーは何も言えない。
「……それで、話しかけたのか」
「はい」
少しだけ笑う。
「記憶は残ってないと思いますけど」
「面影くらいはあるかなって」
間。
「……まぁ」
イヌは肩をすくめる。
「僕のことなんて嫌いでしょうけど」
「僕のせいで死んだんで」
「いや、それは——」
言いかけた、その時。
「大好きだよ」
――空気が、凍る。
「「……は?」」
二人の声が重なる。
イヌが一歩下がる。
「今の、ご主人様の声ですよね?」
「いや、私は何も言ってない」
「……」
イヌは数秒だけ黙る。
それから、小さく息を吐いた。
「……ちょっと外、行ってきます」
「……あぁ」
背中を向ける。
扉が閉まる音だけが、やけに大きく響いた。




