親の苦労
バニーはふと思い立って、受話器を耳に当てる。
イヌの母親は、穏やかな声で応じた。
息子の扱い方を尋ねると、少し困ったように笑う。
「正直、難しかったですね。やれば出来るのにやらない子だったので」
バニーは小さく頷く。
「分かります、それ」
母親は続ける。
「だから基本的に、お小遣いは渡していませんでした」
「へぇ……それでお金好きに?」
「いえ、渡してはいましたよ」
一瞬、間。
「例えば、テスト二週間前に“学年一位取れたら”って条件付きで」
「それ、難易度高くないですか?」
「そうなんですけど、授業をほとんど聞いていなくても達成するんですよ」
バニーは思わず苦笑する。
「それなら、普通に渡しても良さそうですけど」
「一度それをやったら、見事に成績が落ちまして」
少しだけ、声に呆れが混じる。
「なるほど……」
「だから毎回、条件を付けて交渉していました」
「……お金が好きなんですね」
「いえ、お金というより“ご褒美”ですね」
バニーは納得したように息を吐く。
「餌で動くのは、昔からですか」
「そうですね。小さいお願いはお菓子やご飯で釣っていました」
一拍。
「あと、あの子……常識が無いんです」
「それは本当に分かります」
母親は少しだけ困ったように笑う。
「教えはしたんですけどね。頭は良いのに、常識になると全くで」
「理由ってあると思います?」
「常識って、結果に直結しないじゃないですか」
静かに言い切る。
「あの子は、無くても結果を出せてしまうので」
バニーは苦く笑う。
「……天才って面倒ですね」
「でも、甘えてくる時の笑顔が好きで」
少しだけ柔らかい声になる。
「どこかで、変わらないで欲しいとも思っていたのかもしれません」
その言葉に、バニーは少しだけ黙る。
「中学生の頃の話、聞きましたよ」
「どんな話です?」
「盗まれたお金を取り返したってやつです」
「あぁ……あれは問題にもなりましたけど、同時に評価もされましたね」
「暴力の方は?」
「注意しましたが、響きませんでした」
即答だった。
「やっぱり」
「結果を出せば手段は問わない、あれが一番の問題です」
静かに言葉が落ちる。
バニーは小さく息を吐く。
「そろそろ帰ってくるので、失礼します」
「ええ、また」
通話が切れる。
少しの静寂。
バニーは天井を見上げて呟く。
「……親も苦労してたんだな」




