謝罪
黒崎は深く頭を下げた。
「……申し訳ございません」
目の前の管理職は、露骨に疲れた顔でこめかみを押さえる。
「いや……本当に、勘弁してくれないかな……」
ため息が重い。
「こちらの管理不足です」
黒崎は表情を変えずに続ける。
「……まぁいい」
相手は椅子に体を預けた。
「それで? どうして到着が遅れたんだ、――は」
一瞬の間。
黒崎の思考が走る。
(パチ屋見つけて打ってました、なんて言えるかボケ。アイツ……マジで覚えとけよ)
「……手配した車が渋滞に巻き込まれたようで」
口から出たのは無難な嘘。
(バレたら普通に終わるぞ……)
管理職の眉が僅かに動く。
「――は、走れば車より速いだろ」
沈黙。
(……詰んだ)
空気が一瞬で固まる。
黒崎は言葉を探すが、出てこない。
数秒。
やがて――
「……はぁ」
相手が小さく息を吐く。
「黒崎君も大変だね。責めて悪かった」
(……あ)
向けられるのは追及ではなく、同情。
(助かった……けど、これ普通にキツいな)
「それで、あと何箇所だ?」
「……ここで三箇所目です。残り、五箇所になります」
一瞬、間。
「……そうか」
管理職は静かに頷いた。
「本当にお疲れ様。頑張って」
「……ありがとうございます」
黒崎は再び頭を下げる。
部屋を出る。
扉が閉まった瞬間、わずかに肩が落ちた。
(……マジでアイツ、後で覚えてろよ)
その日の黒崎の仕事は――
戦闘ではなく、謝罪で終わった。




