電話
電話が鳴る。
「ご主人様! 電話出ますね!」
「スピーカーにして、ここで出ろ」
「……はい」
通話が繋がる。
「どうした、黒崎」
(雰囲気が変わった……誰だ、こいつ)
「潜入調査の調子はどうだ?」
(……警察か)
「対象のゲヒュールは“トイシェン”。手がかりはまだ少ない」
「ふーん……なるほどな」
軽く鼻で笑う。
「識別個体に追加しておく」
「ギャンブル好きらしい。こっちに手駒も回してきた」
「丁度いいじゃねぇか」
即答だった。
「お前、ギャンブル好きだろ?」
「あ? パチスロは好きだけど、他は微妙だな」
「勝つのが確定してるギャンブルとか、つまんねぇし」
「なんだそれ」
「てかさ」
少しだけ声色が変わる。
「十年前のヴェーラー戦、参加してくれても良かったんじゃねぇの?」
「はぁ……?」
露骨にため息。
「面倒くせぇからやるわけねぇだろ」
「命賭けるとか以前に、ただの博打だ」
「泥舟には乗らねぇよ」
「……否定はしないがな」
「そうだ」
軽く話を切り替える。
「インスティンクトってやつ、今度教えてくれよ」
「お前じゃ十年はかかる」
「貶すなよ」
「褒めてんだよ」
間を置かず返す。
「使える素質があるってだけで十分だ」
「……そうかよ。ありがとな」
「じゃあ切るぞ」
通話が途切れる。
沈黙。
次の瞬間。
「――っ」
イヌの体が横に弾かれる。
「テメェ」
バニーの足が、そのまま踏みつける。
「大事なこと、隠してたな」
「えー……」
イヌは笑ったまま答える。
「言わなくてもいいかなって思って」
「潜入調査、ねぇ」
わずかに目を細める。
「テメェが私に惚れてんのも、嘘か?」
「嘘じゃないですよ!」
即答だった。
「最初は、トイシェンを追ってる人間だと思ってました」
「でも――」
少しだけ楽しそうに笑う。
「心を見たら、“ペットにされたいな”って思って」
「……は?」
「尊厳を喰わせた影響か」
「まぁ、そんなところです」
「……で?」
踏みつける力がわずかに強くなる。
「他に隠してることは?」
「えへへ」
イヌは目を細める。
「今の電話で、だいたいバレちゃいました」
沈黙。
(イヌの素性は割れた)
(……警察側の人間)
(トイシェンにも関わってる可能性あり)
(でも――)
(使える)
バニーは静かに息を吐く。
(利用するに越したことはない)




