バニーとイヌの母親
バニーがふと手を差し出す。
「なぁ、ちょっとスマホ貸してくれ」
「いいですよ、ご主人様」
イヌは何も疑わず、スマホを渡す。
「ちょっと外出るわ」
「はーい」
扉が閉まる。
バニーは画面を見下ろす。
「……この番号か」
一呼吸置いて、発信。
――通話。
「はい、――です」
「あ、すみません。――のお母様でしょうか」
「はい、そうですが……どちら様で?」
「……あー……」
(適当に嘘つくか)
一瞬考えて、口を開く。
「あれ?もしかして、――のご主人様ですか?」
「え?」
「いつも楽しそうに話してるんですよ」
「あー……まぁ、そうですけど」
「やっぱり!お話できて嬉しいです」
(なんだこの流れ……)
バニーは少しだけ戸惑いながら続ける。
「えっと……その、息子さんって……あの性格、どこから来てるんですか?」
「ん?特に変わったことはないですよ。物心ついた頃からずっとあんな感じです」
(え?)
(この礼儀正しい親から、あのクズが?)
「……へぇ」
「困ったりはしましたけどね」
「やっぱり……」
「警察に入ったあたりで、もう諦めました」
(ちゃんと矯正しようとしてたのかよ!!)
「でも、成績が一位って聞いて安心しました」
「てっきりご迷惑をおかけしてるかと」
(めちゃくちゃかけてるわ)
(才能で全部ゴリ押してるだけだぞあいつ)
「あー……まぁ……」
言葉が濁る。
「そういえば」
「はい?」
「いつ籍を入れるんですか?」
「っ……」
(は?)
(いや待てどうするこれ)
「もしかして、息子のこと嫌いになりました?」
「それはないです」
即答してしまう。
「安心しました」
「前の恋人のこともありますし……」
「あ、それは聞いてます」
「あ、そうなんですね」
一瞬、間。
「……では最後に一つ」
「はい」
「息子のこと、どう思ってます?」
(逃げ場ないなこれ)
バニーは小さく息を吐く。
「……どうしようもないクズで、クソ野郎です」
沈黙。
ほんの一拍。
「それを聞いて安心しました」
「え?」
「またお話しましょうね」
「……はい」
――通話終了。
「…………」
しばらく無言。
それから、ぽつり。
「……あいつ」
空を見上げる。
「ガチで“理由のないクズ”だったのかよ……」




