カッコいいイヌ
夜の散歩中。
「はぁ……」
イヌが深くため息をつく。
「なんだよ。軍資金尽きたか?」
バニーが横目で見る。
「あー……最悪です」
「まぁ落ち込むなって」
その瞬間。
「ご主人様、下がって」
イヌの声が低くなる。
「識別個体――ケッテです」
「勝てるのか?」
「当然」
次の瞬間、鎖が空を裂く。
ケッテが放った無数の鎖が一直線に迫る。
――全部、砕ける。
イヌが一歩踏み込む。
距離を潰し、そのまま蹴り飛ばす。
鈍い音。
ケッテの体が大きく揺れる。
だが、すぐに後退。
空中に弧を描くように、再び鎖が放たれる。
「ご主人様!!」
イヌは反転する。
全速力でバニーの前へ。
――叩き落とす。
金属音が夜に響く。
静寂。
気づけば、ケッテの姿は消えていた。
「……逃がしたか」
「すみません、ご主人様」
イヌは軽く頭を下げる。
「いや、私のせいだ」
肩をすくめる。
「庇わせたな」
「いえ」
イヌはすぐに返す。
「ご主人様が無事なら、それで十分です」
「……」
バニーがふっと笑う。
「ん?」
「久々に見たなって思ってさ」
「何をです?」
「お前のカッコいいとこ」
「そうですかね」
「普通にカッコよかったよ」
少しだけ間。
「……けど残念だなぁ」
「あー、逃がしたしな」
「違いますよ」
バニーが首を振る。
「ん?」
イヌはわずかに肩を落とす。
「識別個体って、倒すと結構お金入るんですよ」
一拍。
「……」
「倒してたら、しばらくパチスロ出来たんですけどね」
沈黙。
バニーが真顔になる。
「……ごめん」
一瞬だけ間。
「前言撤回するわ」




