可愛い??
イヌがふと足を止める。
「お?黒崎、それお前の子供か?」
「いや。神代夫婦が用事あるらしくてな、その間預かってるだけだ」
黒崎の隣で、小さな影が一歩前に出る。
「こんにちは……」
「お、ちゃんとしてる。偉いな」
イヌが目を細める。
「可愛いじゃないですか」
「ワンちゃんたちも、あいさつして」
その一言で。
足元の影が、じわりと膨らむ。
黒い揺らぎが広がり、無数の気配が滲み出る。
「……は?」
イヌの声が一段低くなる。
「紫苑は突然変異体でな。ゲヒュールを手懐けて、影に飼ってる」
黒崎が淡々と補足する。
「可愛くねぇな」
「さっきまでの評価どこいった」
「いや、だってこれ――」
イヌは影を指差す。
「普通に怖いだろ」
「え?」
紫苑がきょとんとする。
「ワンちゃん、可愛いよ?」
影の奥で、何かがゆらりと揺れた。
「……いや、まぁ」
イヌは少しだけ視線を逸らす。
「可愛い……のか?」
「そうだよ。この前もね、変な人に声かけられた時、ワンちゃんたちが助けてくれたの」
「へぇ」
黒崎が相槌を打つ。
「いい子だな」
「うん。でもね」
紫苑は少しだけ首を傾げる。
「その後、その人――」
一瞬、間が落ちる。
「なんか、ずっとビクビクしてて動かなくなっちゃった」
沈黙。
「……」
イヌはゆっくり口を開く。
「可愛いの定義、見直した方がいいぞ」
「いやまぁ……」
黒崎が苦笑する。
「助かったのは事実だしな」
「まぁまぁじゃねぇよ」
イヌはため息をつく。
「普通に怖ぇわ」




