インスティンクトのデメリット
「ワン」
突然、イヌが飛びついてきた。
「おい、何してんだお前」
そのまま、ぎゅっと抱きついて離れない。
「……いや、待て」
バニーは眉をひそめる。
「様子、おかしいな」
腕を軽く引いて、袖をめくる。
「いつも“剃るの面倒”とか言ってるレベルじゃねぇぞ、これ」
違和感が確信に変わる。
その瞬間、イヌが体重をかけて押し倒してきた。
「……っ」
「インスティンクト……本能……」
バニーは天井を見ながら呟く。
「これがデメリットってやつか」
思い出す。
「そういやコイツ、ほぼ常時使ってたな……」
少しだけ視線を横にやる。
イヌは無邪気に、ただくっついているだけだ。
「……戻るのか、これ」
返事はない。
ただ、嬉しそうに擦り寄ってくる。
「……はは」
小さく笑う。
「よしよし。いい子いい子」
頭を撫でると、素直に甘えてくる。
「なんだよ……」
その様子に、少しだけ頬が緩む。
「可愛いな」
ぽつりと漏れる。
「……このままでも、別にいいか」
「はいはい、ぎゅー」
軽く抱き返す。
――二時間後。
「……ん」
イヌがゆっくり目を開ける。
「あれ、寝てた……?」
「あー……うん。おはよう」
バニーは平静を装う。
「……あ、これ」
イヌはすぐに気づく。
「インスティンクトの副作用ですね」
「え、知ってたのか?」
「まぁ、常時発動みたいな馬鹿やるとたまに起きます」
淡々と説明する。
「二時間くらい、本能優先で動くんですよ」
「へぇ……」
バニーは短く相槌を打つ。
「……ご主人様」
イヌが少しだけ首を傾げる。
「僕、何か変なことしてませんでした?」
一瞬。
(……してたけど)
ほんの少しだけ、視線を逸らす。
(……私の方が、な)
「いや?」
何事もなかったように言う。
「普通に寝てただけだ」
「なら良かったです」
イヌは安心したように息を吐く。




