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毒された
玄関の扉が開く音に、イヌが顔を上げる。
「ご主人様、おかえりなさい」
「あー……ただいま」
バニーは靴を脱ぎながら、少しだけ肩を落とす。
「今日は遅かったですね」
「仕事で疲れたからな……パチンコ行ってた」
一瞬、空気が止まる。
「……え?」
「ん?なんだよ」
「ご主人様が、パチンコ?」
イヌは目を丸くする。
「僕が誘ってないのに?」
「自分から行っただけだろ。悪いか」
「いやぁ……」
じわじわと口元が緩む。
「ちょっと毒されてきました?」
「うるせぇ」
「はーい」
軽く流しながらも、イヌの視線は外れない。
「……なんかニヤついてんな」
「だって、顔暗いじゃないですか」
「殺すぞ」
「アハハ。それで?」
少しだけ身を乗り出す。
「いくら負けたんですか?」
「は?」
「その顔、結構いってますよね」
バニーは一瞬だけ黙って、それからあっさりと言う。
「いや。普通に五万勝ったけど」
「……」
時間が止まる。
「……は?」
「いや、だから勝った」
「……」
イヌの顔から表情が消える。
そして。
「理不尽です!!」
「何がだよ」
「僕、ご主人様が負けてるとこ見たことないんですけど!」
「あー……」
バニーは思い出すように言う。
「私も、お前が勝ってるとこ見たことねぇな」
「……っ」
イヌはそっぽを向く。
「ふん」
そのまま黙り込む。
バニーは少しだけ笑った。
「あー……拗ねた」




