バニーちゃんとイヌ
「お姉さん。僕と勝負しましょうよ」
男が声をかける。
「いいですよ、お客様」
柔らかく笑う。
(この客……闘技場で無双してる奴だ)
(それだけじゃない。ギャンブルも負けなし)
「賭け、乗ってくれます?」
(何が目的だ)
「僕が負けたら――一生、貴方の言うことに従います」
一拍。
「代わりに僕が勝ったら……」
(何を要求する?)
「……まぁ、特に何もいらないや」
(舐めてるな……潰す)
勝負はポーカー。
イカサマでカードを配る。
――その瞬間。
「お姉さん」
(……気付いたか?)
「前から思ってたんですけど」
男が微笑む。
「手、綺麗ですよね」
(このタイミングでそれ?)
(……違う。“見てる”)
わずかに手を止める。
流れが、切られた。
「フラッシュです。お兄さんは?」
(予定通り。こいつは豚のはず――)
「いやぁ、勝ったと思ったんだけどなぁ」
カードが開かれる。
「ストレート」
(――は?)
(すり替えた? いつ?)
(見えてない……それに)
(わざわざ“一個下”で止めてる)
「次は負けないぞ」
「はい、楽しみましょう」
(……煽ってるな)
(“逆転する快感”を狙ってる)
――三十分後。
「はぁ……負けたぁ」
男が肩を落とす。
「お姉さん、強いですね」
「運が良かっただけです」
(……苛つく)
(全部見えてるくせに、何回乗せてきた?)
「約束通り、言うこと聞きます」
「じゃあまず質問」
視線を逸らさず言う。
「闘技場で無双できてる理由は?」
「ゲヒュールに“尊厳”を喰べさせてるから。その影響」
(やっぱりか)
「次。なんでわざと負けたの?」
男はあっさり答える。
「お姉さんのこと、好きだから」
「一目惚れ」
一瞬、沈黙。
「……ハハ」
小さく笑う。
「本当だ。逆らえない」
肩をすくめる。
「信頼、喰わせてるんだね。契約も強制履行か」
「なんで知ってる?」
男は少しだけ目を細める。
「インスティンクト」
短く言う。
「精神の“形”が見える」
一歩、距離を詰める。
「嘘も、迷いも、全部」
(……厄介だな)
「じゃあ次、命令」
バニーちゃんは踏み込む。
「名前を捨てろ」
間を置かず、告げる。
「今からお前は――“イヌ”だ」
男は一瞬も迷わない。
「やったぁ」
嬉しそうに笑う。
「よろしくお願いします、ご主人様」
(……その呼び方は言ってない)
わずかに目を細める。
(……でもいい)
(こいつは使える)
(契約下なら、裏切りはない)
静かに息を吐く。
(復讐に使ってやる)




