第1話『特異点は唐突に』
また始まった。
最近ではもう抵抗するのに疲れてきた。
幸せな時期だけで終わろうとしていたときもあったけど、死に損なったときに母さんがひどく悲しんでいたのを見て自分から死ぬのは母さんがいる間はやめようと思った。
なので、今は母さんのいるときだけは母さんを大事にする一人の子どもとして過ごしている。
これが一番喜ばれるから、
あるループからの習慣になった街への散策。
屋敷の中はループごとに同じ道を辿っているけれど、街の中は少しだけ違った。
物語のようにNPCなのではなくれっきとした人間なんだ。少しだけ違う行動を取ったりするときもあったから、きっと大きな変化はないが少しずつわからない場所で変わっていたりするかもしれない。そんな希望をいだいたループだった。
そこから何回かは街へ毎日足を運んでいたと思う。けど、やっぱり大きな違いはなくて変わらないと気づいてしまった後もなんとなく続けている。
これでも一応貴族だから護衛はつく。特に母さんを慕っている騎士のロストとナット。
母さんを慕っている一部を除けば、目を見てきちんと話してくれる人は屋敷にはいない。
だからこそ、僕にとっての少し特別な存在。
まぁ、母さんが死んでしまった後は自ら出ていく人か、残っても父さんに追い出されてしまうけど。今だけは味方になってくれる人がいるのだからそれを利用しない手はないだろう。母さんを慕っている人達だからかもしれないが、母さんを助けるためと言うといろいろ用意してくれる。他の人たちだとやってもらえないからありがたい。何度目かのループでわかったのは母さんの病気は治せるほどの医者__治癒師がめったにいないらしく少なくとも2年は来れないらしい。場所的になどではなく予約がうまっているらしい。 あの人は無理やり入れ込もうとしたらしいがどうにもその医者が変わり者らしくどれだけ金を積まれたとしても診察の順番や対応を変えない人らしい。これは全て少しずつ集めた情報だ。ループで持ち越せるのは記憶のみ。これだけは、自分の記憶力を褒めたい。
何故か失っている記憶もあるがそこまで重要ではないだろう。
「レン様、あちらに向かって見ましょうか」
『わかった』
もうこの人達相手には取り繕う必要はない。もともと恐れられているのだからこの程度は問題ないと思っていたが、どうやら流石あの母さんの子だ!ともてはやされているくらいだ。この人達の存在は結構僕の心を守るのに役立っているんだと思う。だからこそ、期待に報いる必要があるのだが。
「レン様、向こうの路地でなにか騒ぎが起こったようです」
『……向かってみよう』
今までのループでは今日は特にめぼしいものはなかったはずだが。そう思いながらもナットについていく。どうやらロストが先に行っているようで、3人組とにらみあっている。3人組はいかにも荒くれ者という雰囲気を漂わせているがそのくらいなら関係ない。じきにロストが追い払う。それよりもおそらく襲われていた方の人間。身なりは整っている男で、薄水色の髪が少し乱雑に結ばれている。少し近づくとわかるがほのかに香るアルコールのにおい。そして、薬の匂い。近くで見ると爪も整っているようだ。医者だろうか。
それならいい拾い物をしたかもしれないな。
『だいじょうぶですか?』
「き、きみは」
『ぼくは、レン。
レン・クロスティです』
「クロスティ家のお子さんか。助かったよ」
『このくらいはとうぜんですよ』
「ふむ、後でお礼に伺おう」
これは、あの人に話が行くのだろうか。そのまま連れて行くてもあるが、あの人は勝手に母さんを医者に見せるとひどく怒るから。そのほうが都合がいい。
『わかりました』
「それでは失礼する」
男性が去って行ったので自分も用はなくなった。帰ろう。
今回は少し違った。もしかしたら…
なんて、希望は持ってても苦しいだけか。少しでも楽な未来になるようにするくらいしか出来ないのだからな。
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例の医者が屋敷にやってきたのはそれから3日後だった。初めて、あの人に呼び出されたと思う。部屋に向かうと母さんを診察している医者がいて、少しだけ緊張した。
「妻は、どうなんだ」
「……これならどうにかできそうです」
『は…?』
治るということは知っていた。けれど、治療なんて出来ないはずじゃなかったのか。
その後は皆さわしなく動き回っていた。子供だからと部屋の外に出された僕はしばらくほうけてしまった。あんなに何十回も繰り返して無理だったことがこうもあっさり変わるのか。もしかしたら、これによって未来がいい方向に向かうのではないか。光が差し込んだような気がした。
俺があの人の書斎に呼び出されたのは正気に戻ってすぐのことだった。あの人と話すのはほとんど初めてみたいなものだった。
どこか威圧感のあるあの人の雰囲気が少しだけマシなような気がした。
「今回はご苦労だったな。もともとあの医師に依頼を出していたが、他の患者が優先だと診察さえもかなっていなかった。が、お前が助けたことで恩返しのつもりでやってきたそうだ」
『かあさまのためだったので』
二人の間に静けさが現れる。見つめられているせいで少し居心地が悪い。なにか話を切り出したほうがいいのだろうか。
「先ほど、イリーナに怒られた」
『かあさまにですか』
「お前を産んだせいでもともと身体が弱かったイリーナが死んでしまうかと思った。そうあいつにつたえたら頬を殴られた。……俺はもともと、子供を作るつもりはなかった。後継者など養子でももらえば問題はなかったからだ」
知っている。あなたは僕に興味すらなかったことも。実子ではなく養子を後継者にすることも。僕を恨んでいたことも。全て今までのあなたに言われたことだ。
周りに控えていたあの人の側近が動揺している。本人に対して話すような内容ではないだろう。
「あいつは、二人の血が合わさってできた愛の結晶なんだとお前を言っていた。俺にはわからないことだった。イレーナに似たお前が元気に育っていく姿がまるであいつの命を吸って育っていくように見えた。だからこそお前とは距離をおいていたのだ」
それは、自分でも思ったことだ。母さんに似た自分の姿を恨んだ。忘れようと思っても忘れられなかったこともだが、あなたににていれば自分の顔を嫌いになれたことも。あなたが僕の顔に母さんの影を重ね恐れていたことも。
「それを全て咎められた。お前のことも愛してくれと言われた。
……お前の目が不吉なオッドアイをしていることを聞かされた時。やはり俺の血を継いだ悪魔が生まれたと思ったよ。兄弟を殺してイレーナを手に入れ、当主になった俺の血が。だが、よく見てみるとイレーナによくにている。それにそれぞれにイレーナと俺の色を持った瞳だ」
あの人が俺に近づいてくる。
「今からでもいい。少しずつ家族になってみないか」
『むしのいいはなし…』
けど、未来が少しでも変わるなら____
手を取ってみるのも悪くないかもしれない。
心の闇に一度だけ蓋をして母さんの顔を立ててみせようじゃないか
もし裏切るなら________
(また、皆殺しにすればいいもんナァ?)
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ツマンネェノ。また、来てくれると思っテタノニなぁ?
クソったれな神たちがナニカシヤガッタノカァ?
まァとうせ戻っテクルヨナァ?
一緒に堕ちてみせヨうゼ
俺はいつでも心の闇で待ってるぜ?
お前が満足するまでヤレバイイサァ
何時でも力は貸してやルカらヨォ?
捨てるなんてマネはしてくれるなよォ
クロナァ




