都市内探索 ― 六勢力の“観測”
都市の中心へ歩を進めるたび、空気は重たく折り重なり、
音という概念そのものが薄皮を剥がされていくように消えていった。
レミルは足を止めた。
何も聞こえない。風すら息を潜めている。
「……ここが、静寂庁の領域か」
白灰色の建築群が林立し、どれも音を反射しない材質で覆われている。
靴底が地面を踏むたび、沈黙が足音ごと呑み込み、
ただ“歩いた”という事実だけが残響さえなく消える。
空気には微細な震えがあった。
眠る獣の胸奥で響く呼吸のような、低く、広い圧のうねり。
それは耳ではなく、骨で聞く静寂だった。
「なんだ、この……押される感じ……」
リゼルが額に汗をにじませながら呟いた瞬間。
空間が裂けた。
黒ではない。光でもない。
“静寂そのもの”が布のように割れて、そこから一人の男が歩み出た。
隊長――
ルオ=シェルハ。
白銀の外套をまとい、瞳は水面のような無音の蒼。
言葉を発する前から、彼の気配がレミルたちの喉奥を締めつける。
そして、乾いた呼吸の間に声が落とされた。
「沈黙の都における変動の中心……
“名に触れし者”と見受ける。
――危険因子だ。」
その声は静かだった。
だが一語ごとに、周囲の空気が強制的に押し潰される。
まるで言葉に“静音の刃”が重ねられているようだった。
リゼルは反射的に剣の柄へ手を伸ばす。
だがその瞬間――音が奪われ、鞘が揺れたはずの音さえ外界へ出なかった。
エルゴは喉元を押さえる。
「……声が……出ない?」
口は動くのに、音が生まれない。
ルオの魔術は、この空間一帯を“沈黙の支配域”に変えていた。
レミルの胸紋が微かに脈打つ。
そのたびに、じん、と空気の層が揺らぎ、静寂の圧に干渉する。
(……反応してる。私に。)
ルオの蒼い目がレミルを射抜いた。
冷静でありながら、一切の油断を許さぬ観測者の目だ。
「都市の均衡を乱す存在ならば、
我らは排除せねばならない。」
完全な警告。
しかしそこには“今はまだ刃を抜かない”という、厳密な保留の気配があった。
レミルは一歩進み出る。
胸の紋が微かに光り、沈黙の膜に波紋が広がった。
「私は都市を壊すために来たのではありません。
……ただ、見届けに来ただけです。」
ルオの眉がわずかに動いた。
その反応は、警戒を解いたわけではないし、信じたわけでもない。
ただ――言葉として受け取った、という程度の変化。
「……監視は続ける。」
それだけ言い残し、彼の姿は再び静寂の裂け目に溶けて消えた。
静寂が閉じる。
残されたのは、息を呑み直す三人と、
肌に残る細かな“音の死骸”のような圧だけだった。
リゼルが肩をすくめた。
「……なんなんだよ、あの威圧。冗談じゃねぇ。」
エルゴはまだ喉を押さえながら蒼ざめている。
「静寂そのものが魔術って……反則だろ……」
レミルは胸元に触れた。
紋の鼓動が、まだ静寂の余韻にざわついている。
「……警告は受けた。
でも、まだ始まりにすぎない。」
静寂庁との邂逅は、
都市の緊張の種を、確かに撒いていった。
静寂庁の領域を抜けた途端、
空気がやわらかくほどけた。
重たく押しつけられていた沈黙が一瞬で軽くなり、
代わりに――光が舞う。
花粉のように細かな粒子がふわりと浮遊し、
触れた肌を優しく震わせる。
温度はないのに、温もりだけが伝わってくる、不思議な光。
レミルは思わず指先をかざした。
光粒が吸い寄せられるように指先へとまとわりつき、
小さな祈りの声が、耳ではなく胸に響く。
「ここが……浮光旅団の領域か」
エルゴが驚いたように呟く。
花の香りのように甘い空気。
都市の中とは思えないほど、呼吸が楽になる。
そして――
光が一箇所へ向かい始めた。
いや、光が“誰かに呼ばれている”。
レミルだ。
胸の紋のあたりへ、光粒がすい、と吸い込まれるように集束していく。
「え……?」
次の瞬間、白い法衣の女巫たちが静かに現れた。
まるで光の粒が凝縮して形を成したような、柔らかな姿で。
彼女たちはレミルの前に膝をつき、
手を胸の前で結んだ。
「あなたが……名を運ぶ者……」
ひとりの女巫が、陶酔した声で囁いた。
「時代を繋ぐ“巫”よ。」
レミルは後ずさる。
胸の紋が脈動するたび、光がさらに強く集まり、
まるで彼女を神像のように飾り立てていく。
「ちょ、ちょっと待って……私は……」
リゼルが眉をひそめる。
「崇められてる……? レミル、こういうの平気か?」
レミルは首を振った。
「……信仰は、人を盲目にする。」
かすかな呟き。
だがその一言の中に、彼女の恐れがすべて詰まっていた。
自分が祈りの中心となることの危険。
依存から始まる崩壊を、彼女は知っている。
光は優しい。
善意は澄んでいる。
だが――
善意は、最も制御が難しい。
旅団の団員が、まるで長年探し続けた答えを見つけたように微笑む。
「あなたの名が、この都市を導くのですね……」
「あなたが立つだけで、祈りは正しい形を得る……」
レミルの心臓が、強く跳ねた。
その鼓動に呼応し、光がまた胸紋へ吸い込まれる。
(……違う。私は救世主じゃない。)
見上げれば、都市の天井で光粒が静かに瞬き、
まるで星空がレミルへ降りてくるかのようだった。
「……信じてもらえるだろうか」
レミルは胸の奥でひっそりと呟いた。
「私は、誰の神にもなるつもりはない、と。」
浮光旅団の優しい、しかし強すぎる光に包まれながら、
レミルは一歩後ずさり、胸紋を押さえた。
その温度は、彼女にとってあまりにも危険なほど、
――心地よすぎた。
都市の下層へ降りると、
光は急激に淡くなり、代わりに“影”が濃く滲んだ。
薄闇が層を成し、
そこかしこに黒い川が流れている。
よく見ればその川は――影文字。
落下の瞬間に千切れた記憶が、
線となり、文字となり、途切れながら流れ続けていた。
「……ここが、降声会の領域……」
エルゴが息をのむ。
影は冷たい。
だが、ただ暗いわけではない。
触れれば、心の奥底の“未解決の痛み”にそっと触れてくる。
そんな繊細な気配が漂っていた。
▼低声者たちの出現
レミルが一歩踏み込んだ瞬間――
影の川がざわりと波立った。
半透明の姿をした者たちが、
影の底から浮かび上がるように姿を現す。
低声者。
落下者の声を“聞く”ことを生業とする代弁者たち。
ひとりがレミルを凝視した。
瞳の奥で、影の光が微かに揺れる。
「……聞こえるぞ……」
低く響く声。
「“落ちた声”が……お前を呼んでいる……」
その言葉に呼応するように、
レミルの胸紋が脈動する。
影文字の川がふくらみ、
ざわざわと都市中の残響が寄ってくる。
リゼルが眉をひそめた。
「……寄ってきてる、全部……レミルに。」
エルゴが震える声で続ける。
「これは……記憶の波……都市全体が増幅してる……!」
レミルは影の波を正面から受け止めるように、
胸に手を添えた。
「……聞こえる。
まだ……落ち続けている声が。」
影がゆらめき、まるで彼女の名前を掴もうとするかのように
レミルの輪郭へ伸びた。
▼協力と、危うい偏り
低声者たちは、レミルに深く頭を垂れる。
「名に触れし者よ。
我らは、お前に従おう。」
その声音は敬意に満ちている。
だが、次に続いた言葉が――
この勢力の歪みを露わにした。
「祈りなど要らぬ。
光は虚飾。
落下の記憶こそ、真実である。」
レミルの表情がきゅっと固くなる。
「上昇者の声は、ここに届かぬ。
届かぬものは、救う価値がない。」
その瞬間、光と影の都市に潜む“火種”が
はっきりと形をもって見えた。
リゼルがぼそっと呟く。
「……偏りすぎてる。これじゃ都市が割れる。」
エルゴも同意するように頷く。
「レミル、ここ……危険だ。
落下者側の価値観が極端すぎる……!」
レミルは影の川を見下ろした。
その流れは確かに美しい。
失われた記憶を拾い上げようとする優しさがある。
だが――
その優しさは、他を排除する鋭さを孕んでいた。
「……声は届いている。
だけど……記憶だけじゃ、世界は片方に傾く。」
胸紋が淡く光り、影がざわめく。
都市の下層の空気が震えた。
この場所は協力者であり、
同時に――都市崩壊の引き金にもなり得る。
レミルは静かに息を吸った。
「……聞かせて。
落下の声の“続きを”。」
戦いではなく、聴くことから始めるために。
沈黙の都の中央層へ向かうにつれ、
街の空気は再び変質した。
ざわめきも、光も、影も薄れ、
代わりに――研ぎ澄まされた“観測の静寂”が漂い始める。
そこには、
世界の再編を誰より早く察知し、
真っ先に拠点とした者たちがいた。
学術重力院。
都市の中央軸にそびえる研究塔は、
外壁が透明な層を持ち、内部の光と影が静かに脈動している。
まるで都市自体をレンズとして世界を覗いているかのようだった。
▼ラド=トレイルの登場
塔の中央ホール。
円形の観測装置の光が淡く揺れる中、
ひとりの老人が静かに立っていた。
ラド=トレイル。
エルゴの師にして、重力理論の最高峰と呼ばれた研究者。
白髪は後ろに束ねられ、
瞳は老いてなお鋭く、観測者の光を宿していた。
エルゴが胸を張り、緊張と尊敬が混じった声で言う。
「師匠……! 無事だったんですね!」
「お前が来るのは分かっていた。
都市がこうして“揺らいで”いる以上な。」
ラドはレミルへ視線を向ける。
その眼差しは、分析者のそれだった。
敵意でも崇拝でもなく、ただ“事実を見つめる目”。
「……名に触れた者か。」
レミルは静かに頷く。
胸の紋が熱を帯びる。
▼中心核の調査結果
ラドは観測装置を指先で弾いた。
塔全体に低い振動が走り、
都市の“中心核”の映像が宙に投影される。
それは、青白い光の球――
だが、どこか“欠けて”いた。
「都市の核に……不可解な揺らぎがある。」
ラドの声は、揺らぎよりも静かに深かった。
「“名”が刻まれたあの日から、
この都の重力法則にノイズが生じ始めている。」
レミルの胸紋が微かに震える。
ラドは続けた。
▼揺らぎの症状
観測映像が乱れるように揺れ、
ラドは淡々と異変を指差す。
「ここ――重力同期が一瞬だけ切断される。
空間そのものが“上下を見失う”時間帯がある。」
「この箇所――祈りと記憶の層が逆転している。
本来は決して混ざらないはずの速度で、だ。」
「そして……ここだ。」
映像の外周に、
まるで亀裂の予兆のような黒い線が走る。
「都市の外縁に、“裂け”が生まれかけている。」
▼重すぎる結論
エルゴが息を呑む。
「裂け……都市が壊れるってことですか?」
ラドは答えを急がなかった。
そして、ゆっくり静かに告げた。
「……この都市が耐えられるかどうか、
現段階では――誰にも分からない。」
レミルは拳を握った。
胸紋が、まるで彼女に問いかけるように
“トクン”と脈を打つ。
ラドはレミルの方に向き直り、
優しくも厳しい眼差しで言った。
「名を刻んだ者よ。
お前の意志が、この都市の寿命を左右する。
観測者として……私は、それを見届けよう。」
重力塔に漂う静寂が、
未来を予言するように沈み込んだ。
都市は生まれたばかりだ。
――だが、その寿命はすでに揺らぎ始めていた。
沈黙の都のさらに奥。
光の粒が届かず、祈りの風すら滑り落ちる深層――
都市の最も低い裂け目に、
“影”だけが溜まってゆく場所があった。
そこは、
世界の誰にも認識されていなかったはずの空間。
しかし、都市が生まれた瞬間に形を得た“新しい底”。
その底に、彼らは潜んでいた。
淵の使徒。
記憶を神格化し、
祈りを偽りと断じる者たち。
都市が“祈りと記憶の合流点”として成立したことで、
最も反発し、最も激しく揺らいだ勢力でもあった。
▼裂層の描写
レミルたちは、周囲の空気の異常さに気づいた。
・影が液体のように床を流れている
・天井から雫のように黒い光が滴る
・音が“反響せずに”吸い込まれる
・壁面に浮かぶ影文字が、乱れ、歪み、時に噛み合わなくなる
この場所だけは、都市の他の層とは異質だった。
重力が揺れ、記憶が偏り、祈りが沈む。
まるで、世界の“拒絶反応”。
レミルの胸紋が低く震えた。
レミル(心)
「……ここ、だけは……名が届いていない?」
▼声の出現
影の流れの奥で、
何かの輪郭が揺れた。
人でも影でもなく――“記憶の形をした意志”。
そして、声が重なり合って響いた。
「偽りの記録者め。」
「祈りに耳を貸すとは……堕落だ。」
「落ちた声だけが真実。
祈りなど、上昇の幻想にすぎぬ。」
それは単独の声ではなかった。
無数の記憶の、怨嗟と断絶が混じった合唱だった。
淵の使徒が、こちらを観測している。
▼影の使徒が姿を成す
闇の中から、
ひとりの男が形を取った。
輪郭は揺れ続け、
顔は影文字の集合体のように構成されている。
その存在が、レミルを指差した。
「――名を記した者よ。
お前は記憶を裏切った。」
レミルは眉をひそめる。
「裏切っていません。
私は祈りも記憶も……どちらも救いたいだけ。」
影の男が歪んだ笑みを刻む。
「だから偽りだ。
世界を二重に保とうとする欺瞞。」
「記憶だけが残れば、嘘は消える。
祈りは人間の願望――歪められた歴史だ。」
影の床がざわめき、波紋が走った。
▼都市破壊の兆候
レミルが一歩下がった瞬間――
足場の下で、
「裂け目」がわずかに開いた。
重力の層が悲鳴のように軋む。
その裂け目から、影の声が流れ出す。
「我らは都市の均衡など求めぬ。
祈りも要らぬ。
記憶だけが世界だ。」
「――ゆえに、沈黙の都を壊す。」
リゼルが瞬時に剣へ手を伸ばし、
エルゴが蒼白な顔で後ずさる。
そしてレミルだけが、胸の紋の脈動に合わせて息を吸う。
レミル
「やめさせる……。
この都市は壊させない。」
淵の使徒は応えず、
ただ影の奥へ消え、
不穏な震動だけを残した。
都市最深部――
そこには確かに、“破壊の火種”が生まれつつあった。
沈黙の都はまだ新しい。
だからこそ、揺れやすい。
揺らぎを利用し、
“記憶だけの世界”に書き換えようとする者がいる。
その事実が、
レミルの胸紋をさらに強く脈打たせた。
沈黙の都の中心核へ向かう階段は、
まるで空間そのものが眠りについたように静かだった。
音がない。
風がない。
影さえ動かない。
塔の内部を登るたび、世界の“層”が何かを待っているように、
緊張で微かに震えている。
レミルは胸紋の鼓動が、いつもより規則正しく感じられるのを確かめながら歩いた。
ここだけ、都市の力が均等に流れている。
その均等さが逆に、不気味だった。
そして――
階段の最上層に辿り着いたとき。
白い影のような人々が、無音のまま立ち塞がった。
▼静観者の出現
彼らは顔を持っていなかった。
いや、あるのかもしれないが、
見るそばから薄くかき消えてゆく。
衣の縁は揺れているのに音を立てない。
“記録するためだけの存在”。
世界の変動を見届け、
どちらにも肩入れしない観測者たち。
静観者。
レミルが足を止めると、
彼らは微かに光る眼孔のようなものを、ゆっくりと彼女へ向けた。
その視線は温度も色もなく、
ただ「事象を確認している」という意志だけがあった。
▼静かなる宣告
最前列のひとりが、ひと呼吸の間を空けて口を開く。
声なのに音が響かず、
頭の内に直接落ちてくる感覚。
「……もうすぐ、都市が“揺り返し”を起こす。」
レミルの眉がぴくりと動く。
「揺り返し……?」
静観者は首をわずかに傾けた。
説明ではなく“記述”の調子で言葉を積む。
「世界法則を更新したあとの必然的な反動だ。
祈りと記憶の均衡が新たに設定されたが――
その差分がまだ整合していない。」
レミルの呼吸が浅くなる。
「……暴発する、と?」
静観者たちは、揺らぎもしない声で重ねた。
「はい。
均衡が破れた瞬間、都市は自己修正に入る。
結果――“都市そのものが崩落”する。」
リゼルが息を呑む気配がした。
エルゴは声を失ったまま、ただレミルの背を見守っている。
だがレミルは、胸の紋を押さえたまま、静観者たちを見据えた。
「止める方法は……?」
静観者は、答えの中に感情をひとつすら含めず告げる。
「記述者よ。
都市の揺れは、あなたの記した“名”に反応している。
中心核へ触れれば、揺り返しの規模は変わる――
だが成功するかどうかは、観測できない。」
彼らは使命を告げ終えると、
空気に溶けるように、音もなく姿を消した。
まるで「ここから先は、あなたの領域だ」とでも言うように。
静寂だけが残った。
都市全体が、胸の紋に呼応するように震えている。
その震えはもはや警告ではなく、
――“カウントダウン”だった。
沈黙の都の中心街路は、
どの勢力の音も届かない“中間”の層だった。
祈りの光も、落下者の影も、
重力の揺らぎも、静寂の圧も――
すべてが均等に薄まり、どこかへ吸い込まれていく。
そこはまるで、
都市そのものが深呼吸の合間に残した「無色の肺」。
レミルはその中央に立ち、
自分の胸へそっと手を当てた。
胸紋が、不規則に震えていた。
まるで六つの勢力の声がぶつかり合い、
その衝突が心臓に反響しているかのように。
浮光旅団の祈りが引き寄せ、
降声会の影が囁き、
淵の使徒の憤怒が刺し、
重力院の警告が響き、
静寂庁の無音が締めつけ、
静観者の未来予測が重くのしかかる。
都市全体が、
彼女ひとりの中に集まってくる。
リゼルが横顔をのぞくと、
レミルの瞳はまっすぐ前を向いていた。
揺れている。
でも、その奥には――折れない光がある。
レミルは静かに息を吸い、吐いた。
そして、胸の紋の脈動に逆らうように、
言葉をひとつ、落とす。
「……この都市は、まだ“つなぎ目”のまま。」
声は小さかった。
けれど、崩れかけた均衡のどこか深い層へ届いた。
レミルは歩み出す。
中心核へ向かう道――
都市の心臓へと続く唯一の道へ。
振り返らず、ただ前へ。
「でも――必ず繋げる。」
胸紋が一瞬、強く光る。
それは祈りとも記憶ともつかない、
レミルだけの意思の灯。
彼女はその光を抱えながら、最後の一言を紡ぐ。
「断絶しない世界へ。」
沈黙の都の空気が、
かすかに震えた。
まるで都市そのものが、
その決意を“記録”したかのように。




