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第8話 新展開

 翌朝。

 俺が昨日と同様にひとりで登校すると、クラスメイトたちから驚いたような視線を注がれた。

 しかし今日は、英樹や瀬名は大袈裟に騒いでこなかった。「おはよう」とだけ、軽く挨拶を交わしたのみ。

 そのまま俺が自分の隣の席につくと、隣の恋歌が自習をしながら、


「ね、ねえ。秋人……」


「あぁ。おはよう、恋歌」


「あ……う、うん。おはよ……」


 なんとなく気まずそうに、恋歌は俺から目を背けた。そして恋歌は、ふたたび教科書とノートに目線を戻す。

 味気ない時間だな、と思う。だけど恋歌のためを思えば、これで良いはずだ。大嫌いな俺と、朝から会話などしたくないだろうし。


   ◇◇◇


 授業を終えて、昼休み。

 今日からはもう、恋歌の手作り弁当はない。……正直かなり寂しいが、我慢だ我慢。

 ともかく、まずはどこかで昼食を確保しなくては。そういえばこの学校の購買にはめちゃくちゃうまいカレーパンがあるらしい。せっかくなら、それを買っていくことにしようか。


「あ……秋人。その、お昼……」


 俺が席を立ったのと同時に、恋歌が話しかけてくる。

 恋歌の上目遣いが、俺を見つめてきていた。ヤバい、可愛すぎる……。

 何度だって言うが、恋歌は超絶美少女だ。そんな彼女の綺麗な金色の瞳をじっと見ていたら、うっかり恋歌のことがもっと好きになってしまいそうになる。だから俺は、あえて恋歌から視線を切って、


「心配しなくても大丈夫だ。昨日言ったとおり、今日からは自分で用意するから」


「っ、そ、そう。でも……あんた、ちゃんと栄養のこと考えなさいよ? カップ焼きそばばっかりだったら、私、怒るからね?」


「安心してくれ。ちゃんと野菜も取るよ」


 と、俺は財布を手に取りながら、英樹へと声を飛ばした。


「英樹。購買に寄っていくから、今日は先に行っててくれ」


「ん? おう、了解だ」


 さて、待ってろ絶品カレーパン。

 記憶上にある恋歌のカレーとどっちがうまいか、ジャッジメントタイムと行こうか。


   ◇◇◇


 ――カレーパンは売り切れだった。

 仕方なくツナとレタスのサンドイッチを購入した俺は、食堂のテラス席にとぼとぼ向かう。

 ……まさか一日、先着十人しか買えないとは。これはもう、相当な覚悟がないと入手は無理だな。


「はあ。すっかりカレーパンの胃になってたんだけどな……」


 と、そんな負け組の思考を抱えたまま、食堂の前まで来たところで、


「――――あれっ、綾田っちじゃん!」


 後ろから、女子生徒の声が飛んでくる。

 というか……綾田っち? 新種のたま○っちか何かだろうか。まあ、とりあえず無視しておこう。


「ちょっ、綾田っち? ねえ、聞こえてるよねっ。ねえ!」


 ……しまった。やはりというか、綾田っちとは俺のことだったか。

 振り向く、と――ウェーブのかかった金髪をサイドテールにした、ギャルっぽい美少女がそこにいた。


「――あ、目が合った。やっほ、綾田っち」


「えっと……鈴北さん、だっけ?」


「お! ウチの名前、覚えててくれたんだ! 偉い偉いっ、プラス10ポイントっ!」


 よくわからないことを宣言しながら、金髪の美少女――鈴北美雪が、目もとで横向きのピースをした。

 彼女はいちおう、俺と同じ二年Bクラスの生徒である。

 しかし……彼女みたいな陽キャのギャルが、俺みたいな陰キャのモブ生徒にいったい何の用だろうか。


「……鈴北さん。すいませんが、今日はこれで勘弁してください」


「え? 綾田っち、なんで千円札取り出したの? ウチ、綾田っちにお金貸してたっけ?」


「今月、スマホゲームに課金しすぎて金がないんです。どうかこれで許してもらえないでしょうか」


「もしかしてウチ、カツアゲだと思われてるっ!?」


 ……あれ、違ったか?

 俺はちらり、と鈴北さんの様子を伺う。

 すると彼女は、くすくすと笑いをこぼしていた。


「ふふふっ。やっぱりいいねぇ、綾田っちは。いつもレンレンと夫婦漫才してるの見て、面白いな~って思ってたんだよねぇ」


「レンレン? ……あぁ、恋歌のことか」


「そ、レンレン。で、君は綾田っちは綾田っち」


 なるほど、意味がわからない。ギャルって怖い。


「それでさっ、綾田っち。じつはウチ、ずっと前から綾田っちに聞きたいことがあったんだよね~っ!」


「俺に? あ……鈴北さん、もしかして英樹狙い?」


 英樹はモテる。それも異常なくらいに。

 その幼なじみである俺から英樹のことを聞き出そうとしてくる女子は、決して少なくない。だから鈴北さんも、そういう用事かなと思ったのだが――、


「違うってば。ウチはシンプルにっ、綾田っちと話がしたくて声かけたの」


 にっこり、と眩しいくらいの笑みを鈴北さんは浮かべて、


「ね、綾田っち。――いつも放課後にさ、教室でエンフィルやってるよね?」


「……え?」


 エンフィル。正式名称はエンゼルフィールド――今もっとも日本でアツいとされている、オープンワールド探索型のスマホゲームだ。

 そして俺もまた、そんなエンフィルの魅力に心を奪われた者のひとりである。……そのせいでうっかり夜更かしや課金を重ねてしまい、よく恋歌に怒られているが。


「じつはさっ。ウチもね、エンフィルの大ファンなんだよね~っ!」


 そう言って鈴北さんは、俺にスマホの画面を見せてきた。

 そこには紛れもなく、ランク上限までプレイされたエンフィルのデータが映し出されており――彼女が本当にエンフィル好きであることを、俺はすぐに理解させられる。


「だからさっ、綾田っちとエンフィルトークしたくて! ねねっ、いいでしょ?」


 ま、まさか……実在していたとは。

 伝説上の存在とされる、オタクに優しいギャルが。

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