表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/71

第7話 もしかして、嫌われた?

 クラシックギター部の練習を終えた私は、瀬名に「ね、スイーツ食べに行こっ」と誘われた。

 私はすぐにOKを返して、瀬名とふたりで近所のファミレスに向かった。

 秋人は……本当に、先に帰っちゃったんだ。

 なんなのよ、もう。秋人の、ばか。


「はあ……」


 頼んだイチゴパフェにスプーンを伸ばしながら、私は思わず、ため息をついていた。

 ……いけない、と思った。今は瀬名とふたりきりなんだから、こういう態度は良くないよね。


「ごめん、瀬名っ。今のは、そのっ……」


「いいよ、気にしないで? 恋歌の考えてること、あたし、なんとなくわかるからっ」


 私のよりも三倍くらい大きなサイズのパフェを食べ進める瀬名が、幸せそうな笑顔を見せてくる。

 瀬名は私の幼なじみで、大親友だ。明るく前向きな性格の彼女と過ごす時間はとても楽しくて、何より癒やされる。


「ね、恋歌。――秋人くんと、何かあったの?」


 しれっとした調子で、聞いてくる瀬名。

 と……私の胸の奥が、ずきり、と傷んだ。

 思い出すのは――秋人の、態度や言葉の数々。

 今日の秋人は、どう見ても様子がおかしかった。これからは私とは別々に登下校すると言い出したり、お弁当はもういらないと言ってきたり。

 だけど、どうして秋人があんなことを言ってきたのかは、私には見当もつかなかった。


「……何もない、と思う」


「そっか。でも秋人くんの様子がヘンだったのは、恋歌もわかるよね?」


「うん。でも……べ、べつに気にしてないから。あいつだって年ごろの男の子なんだし、いつまでも私と一緒にいるのが恥ずかしくなったんじゃない?」


「あははっ。ま、そうかもねっ」


 無邪気な笑み。瀬名はパフェを堪能しているようだった。


「もしかしてだけど、さ。恋歌――秋人くんに、嫌われちゃったんじゃない?」


 あむ、とパフェを口に運びながら。

 瀬名は、本当に悪気も何もなく、さらっとそう言い放ってきた。


「だって、最近の恋歌って、いつも秋人くんにだけキツく当たるでしょ? じつは秋人くん、そういうのを前から嫌がってたりしてっ」


「……………そう、なのかな」


「あっ……も、もしかしたらって話だからねっ? ぜったいそう、ってわけじゃないし…………っ!」


 あははと笑いながら、慌てて訂正してくる瀬名。

 だけど……ごめんね、瀬名。私は今、彼女の話に集中できていなかった。


 ねえ、秋人。

 秋人は――私のこと、嫌いになったの?


 そう考えはじめると……どうしてだろう。胸が、ぎゅっと苦しくなってくる。


(……わ、私は、べつに……秋人に嫌われても、なんともないし……っ) 


 秋人と私は……そう、腐れ縁ってやつだ。

 彼はいつもだらしなくて、不真面目で、自堕落で。そんな秋人のことを、幼なじみの私が放っておくわけにはいかないから――だから私はいつも、秋人の面倒を見てあげていた。

 秋人は、私がいないとダメなんだ。そんなふうに思って、仕方なく彼の世話を焼いてあげていた。私と秋人は、ただ、それだけの関係なはず。


「――――ねえ、恋歌? 聞いてるの? ねえ、ねえってばぁ!」


「……え!? ご、ごめんっ。どうしたの、瀬名……?」


「はあ、こりゃ重傷だなぁ。まったくもう、秋人くんも罪な男なんだから」


「ど、どうして秋人の話になるのよっ」


「もーっ、またツンツンしちゃって。小さいころの恋歌は、あんなに秋人くんにべったりだったのになぁ」


 むすっとして、私はパフェを一気に口の中へとかきこんだ。

 ……案の定というか、キーンと頭が痛くなる。それで涙目になった私の様子を見ながら、瀬名はくすくすと楽しげに微笑んで、


「ね、恋歌。親友の私から、恋歌にひとつアドバイスしたげるね」


「……う、うん」


「恋歌はさ、もっと素直にならないと。あたしたちももう高校二年生なんだし、いつまでも子供みたいにツンツンしてたら、いつか本当に秋人くんに嫌われちゃうかもよ?」


「それは……でも、あんなバカ秋人に嫌われたところで、私はべつに……」


「だから、そういうところだってば。恋歌のばか」


 珍しく辛辣な物言いになる瀬名。はあ、と彼女は息をついて、


「ま、恋歌の気持ちもわかるけどね。好きな人にはイジワルしちゃう、的な?」


「なっ……ち、違うってば! 私は秋人のこと、好きなんかじゃないし……っ!」


「ふふっ。じゃあ、秋人くんは私がもらっちゃおうかな」


「…………え?」


「あぁもう、真に受けないでってば! もー、大丈夫だからっ。あたしは親友の好きな人を取ったりしないからさっ」


 と、瀬名はパフェの最後のひとくちを幸せそうに食べ終えて、


「ま、もし何かあったらさ、あたしに相談してよ。あたしはいつでも、恋歌の味方だからっ」


「……うん。ありがと、瀬名」


「う、可愛い……くうぅ、その素直さを秋人くんの前で出せてたらなぁ……!」


 がしがしと自分の黒髪をかき混ぜる瀬名。

 だから、どうしてそこで秋人の名前が出てくるのよ……とは思ったけど、口にはしなかった。


(素直に、か……)


 もちろん、私だってわかっている。

 あんなやつでも……秋人は、私にとって大切な幼なじみだ。いつも彼に辛辣なことを言ってしまうのは、小さいころのころからの癖とか慣れとか、そういうのが抜けていないだけ。私はべつに、本心から彼らのことを嫌っているわけじゃないんだと思う。

 それどころか、ほんとは――、


(――いやいやっ。何考えてるのよ、私……っ!)


 ほとんど無理やり、私は自分の思考を打ち切って。

 そっと、自分の左胸に手を添える――どうしてか私の心臓は、どきどきと激しく脈を打っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ