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第59話 運命?

「す、鈴北さん? なんでここに……?」


 運命――と鈴北さんは言っていたが、いくらなんでも、こんな偶然はありえないだろう。

 俺は驚きを完全に通り越して、なぜか逆に冷静になれていた。


「んふふっ、ヘンな綾田っち。遊びに来た以外にあるわけないじゃんっ。ね、マエちゃん?」


 そう言うと鈴北さんは、隣に立つ黒髪の女子へと視線を送る。

 マエちゃんと呼ばれたその女子は、メガネ越しにニコっと笑って、


「ねー、美雪ちゃんっ。こんな偶然あるんだねぇ」


 どこかで見たことのある女子生徒だ。

 同じクラスではないけれど……そうだ。たしかに鈴北さんは、この子と一緒に登下校をしていたような気がする。

 と、そこで瀬名が、構えていたスマホを下ろしながら、


「す、鈴北ちゃんっ。それに、前田ちゃんも。奇遇だね、あはは……」


 なんとなく気まずそうな喋り方だった。まさかの遭遇に、さすがの瀬名も驚いているのだろうか。


「そ、それじゃあたしたちは、もう行くからっ! また学校でねっ、鈴北ちゃ――」


「えーっ、せなりん冷たぁい! ね、いいじゃん! せっかくなんだしさっ、みんなで遊ぼうよっ」


 季節は夏、時刻は午前十一時。

 さんさんと輝く太陽の光りを浴びた鈴北さんの全力スマイルを前に、瀬名が「うっ……!?」とダメージを受けたような声を漏らした。……さすがの瀬名も、鈴北さんの陽キャパワーには敵わないか。


「ま、待ってくれ鈴北っ!」


 そんな瀬名を庇うかのように、英樹が前へと躍り出る。


「鈴北だけならまだしも、そっちの前田さんはオレらと接点ないわけだろ? さすがに気まずいだろうし、ここはお互い別々に――」


「んー、それもそっか。どうする、マエちゃん?」


「はいはいっ! 私っ、恋歌ちゃんたちと遊んでみたいっ! だって、あの学園のアイドル恋歌ちゃんだよ? こんな機会、ゼッタイ逃せないって!」


 その地味そうな見た目と違って(シンプルに失礼だが)、きゃっきゃと明るい声で喋るマエちゃんこと前田さん。

 彼女はそのまま、どういうわけか、勇利のことをまっすぐに見て、


「接点だって、なくないもんっ。ね、長谷川くん?」


「ん? あぁ、そうだな」


「なっ……お、おい! どういうことだよ、勇利っ!」


 焦った様子で、英樹が勇利に問い詰める。

 だが一方の勇利は、いつものクールな態度を崩さない。


「どういうも何も、俺と前田さんは同じクラスの友人だ。休み時間に俺と話してくれる唯一の相手でもある」


 クイっとメガネを持ち上げる勇利。その落ち着いた横顔からは、嬉しそうな笑みが漏れてしまっている。……そうか、唯一の話し相手か。これからはもっと、勇利には優しくしてやらないとな。


「……はあ。勇利のばか」


「あ――そ、そうか、そういうことか。すまない、つい嬉しくて話してしまったんだ……」


 ぷくっと頬を膨らませる瀬名に、申し訳なさそうに少しだけ俯く勇利。

 しかし……なんだろうな、この空気感は。

 瀬名、英樹、勇利、鈴北さん、前田さん。彼らのあいだには、なんというか、その、何かを牽制し合うような謎のピリつきがあった。意味はさっぱり不明だが。

 ……非常に気まずい。ちらっ、と恋歌のほうを見る。

 すると恋歌は、ちょこん、と俺の服の袖をつまんできた。小動物みたいな仕草である。可愛いかよ。


「……鈴北さん。ひさしぶり、だね」


 恋歌の、震えた声。

 緊張しているのだろうか? だとしたら何でだよ、と思う。

 それに、ひさしぶりか。このふたりって、じつは俺の知らないところで意外と仲良くなっていたりするのだろうか。


「うん。ひさしぶりだね、レンレンっ」


「………………」


「………………」


 恋歌と、鈴北さん。

 ふたりの美少女が、無言で、笑顔で、睨み合っている。


(……え。なにこれ……?)


 この状況に馴染めていないのは、どうやら俺だけらしい。

 蚊帳の外とは、まさにこのことだろう。彼らの中に入り込む隙が、一切として存在していなかった。


「――うん、鈴北さんの言うとおりだよね。せっかくだもん、一緒に遊ぼっか。いいよね、瀬名?」


 やがて沈黙を破ったのは、恋歌だった。

 瀬名はむすっとした表情のまま、今度はぷいっと視線をどこかへと向けた。

 そんな瀬名の肩を、ぽんぽんと英樹が優しく叩く。


「恋歌がああ言ってんだ、従おうぜ」


「……、でも……」


「ってわけだ、よろしくな鈴北。それに、前田さんだっけ?」


 露骨に拗ねる瀬名を制して、英樹が柔和な空気を作ろうとする。

 と、前田さんがぱあっと笑顔を咲かせて、


「うんっ、よろしくね悠塚くんっ! 綾田くんも、よろしくね?」


「え? お、おう。よろしくな……」


 それにしても、偶然とは凄まじいなと思う。

 いや――本当に、これは偶然なのか?

 どうしても俺は、鈴北さんからのあの告白を連想せずにはいられなかった。もしかして鈴北さんは、何かしらの手段で俺たちの旅行を知り、偶然を装って合流する作戦でも立てたんじゃないか? 俺と、夏休みを過ごすために。


(……うん、わからん。もう考えるのはやめておこう……)


 恋歌の態度といい、鈴北さんの言動といい。

 ここ最近、俺は自分の推察能力の低さを思い知らされてばっかりだった。

 その代償として、諦めが肝心だということを学べていた。……学んでしまった、と言うべきだろうか。


「それじゃ、秋人。チェックイン、しよ?」


 恋歌が上目遣いで言ってくる。

 そんな彼女の後方では、前田さんの黒い瞳が、じっと恋歌のことを見つめていた。


(あれ……なんだろ、この感じ……)


 それは、何かを思い出させる視線だった。

 どうしてか――ぞくり、と背筋が冷たくなる。

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