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第56話 作戦会議

「それで、どうするの恋歌? 秋人くんに、告白するの?」


「っ、そのこと、なんだけど……」


 そして私は、鈴北さんの話をみんなに打ち明けた。

 彼女が秋人へと告白していたこと。だけど返事は保留にしてもらったということ。

 そんな鈴北さんが、私に宣戦布告をしてきたこと。

 ……戦争だって言ってきたのは、鈴北さんのほうだ。彼女のプライバシーのことを考えれば秘密にしておくべきだったのかもしれないけど、私だって負けたくないもん。だから私は、すべてを三人に話すことにした。


「――なるほどな。秋人が、鈴北にか……」


 途端に、英樹の声が重々しくなる。

 それまで笑顔だった瀬名も、どこか暗い顔をしていた。勇利は……気にせず、テキストの問題を解いてるみたいだったけど。


「うーん。鈴北ちゃんってば、けっこう策士だなぁ……」


 むむむ、と瀬名は小さく唸って、


「ほら。秋人くんって、超がつくほどのお人好しじゃん? だから鈴北ちゃんの気持ちを知ったらさ、すっごく鈴北ちゃんのことを意識しちゃうようになると思うんだよねぇ」


「……そっか。うん、そうだよね……」


「でも、だったらさ! 鈴北ちゃんに取られる前に、恋歌も早く告白しちゃおうよ! 恋歌なら、ぜったい大丈夫だって!」


「いや、瀬名。オレ的には、そりゃ悪手だと思うぜ」


 と、頭の後ろで手を組んだ英樹が、真面目な表情で天井を見上げる。


「瀬名の言うとおり、秋人はお人好しだ。だから今、恋歌が急いで告ったとしても、あいつは鈴北のことを思い浮かべちまうと思うぜ。そうなりゃ恋歌の勝率はぐっと下がるし、しかも恋歌は、二回も三回も秋人にアタックできるようなタイプじゃないだろ?」


「そ、それは……っ」


 英樹に言われて――私は、想像する。

 勇気を出して、秋人にこの気持ちを告げて。付き合ってほしいと願いを伝えて……でも、秋人の表情が曇る。


『――ごめん。俺、恋歌とは付き合えない』


 そう言って秋人は、私から離れていく。……前みたいに、私を遠ざけようとしてるんだ。

 そしてきっと、私は、もう二度と彼と話せなくて――、


「――恋歌っ、ストップ! 妄想そこまでっ、戻ってきてっ!!」


 と、いきなり瀬名にゆさゆさと肩を揺さぶられる。

 はっ……と、我に返れた。秋人に嫌われてしまう妄想の世界から、どうにか現実世界に戻ってくることができた。


「……ご、ごめん。ちょっと、想像しちゃって……」


「もーっ、よしよし。大丈夫、大丈夫だからね恋歌っ」


 いい子いい子、と瀬名が私の髪を撫でながら、


「英樹。あんたもヘンなこと言わないでよっ。恋歌がピュアなのは知ってるでしょ?」


「……悪かったよ。でもさ、オレが悪手だって言った意味はわかっただろ? 恋歌に必要なのは、鈴北みたいな速攻作戦じゃない。確実な勝利だと思うぜ」


「でもっ、それで先に鈴北ちゃんに取られちゃったらどうするのさっ」


「その鈴北は、秋人に返事は保留でいいって言ったんだ。ってことは向こうも、今はまだ秋人からのオーケーがもらえないって判断したってわけだろ? だったら恋歌にも、それなりに猶予があるって考えていいはずだ」


 瀬名と英樹が、白熱した様子で会話を続ける。……後半の話は、私にはわからなかったけど。ルールって、何のことなのかな……?

 でも、とにかく。ふたりとも、私のためにすごく真剣に話し合ってくれていているのは伝わった。そう考えると、頑張らなきゃって改めて思う。

 ぎゅっ、と私は拳を握りしめた。

 と――ふいに、勇利が勉強の手を止めて、 


「なあ恋歌。俺は今、何をしていると思う?」


「……え? 勉強……じゃない、の?」


「いや、勉強だ。だが厳密に言えば、期末試験に向けた勉強。俺は今、期末試験で一位を取る確率を上げるための努力をしているんだ」


 えっと……もしかして勇利は、つまり。


「恋愛も勉強と同じで、勝率をあげることが大事……って、言いたいの?」


「あぁ、そうだ」


「勇利、お前なぁ。そのくらい、フツーに言ってやれよ……」


 はあ。と、英樹が呆れたように息をつく。

 そのまま彼は、グラスの中のアイスコーヒーを飲み干しながら、


「とはいえ、オレも勇利に同意だ。恋歌が、鈴北よりも先に秋人のことをメロメロにさせちまえばいいだけの話だしな。鈴北のことなんざ忘れちまうくらいに、さ」


 と言うと、英樹はちらっと勇利のほうを見て、


「ってわけで、勇利――な、お前の力が輝くときが来たぜっ?」


「ん、どういう意味だ?」


「もうそろ夏休みだろ? でもって、オレらには勇利っつう幼なじみがいる。あのホテル長谷川グループ会長様の息子が、な」


「あ! もしかしてっ、ひさびさに行けるの!?」


 興奮気味に、瀬名がきらきらと表情を輝かせる。

 すると勇利は、珍しくため息をついて、


「……まあ、これも秋人と恋歌のためだ。仕方ない、俺から親父に頼んでみるとしよう。だが夏休みは最大の繁忙期だ、一泊が限界だと思うぞ」


「よしっ、さすがは勇利お坊ちゃまだぜっ! んじゃ、恋歌もそれで決まりでいいな?」


 ……勇利のお父さんは、全国的に有名なスパホテルの経営のお仕事をされている。

 この話の流れを読めないほど、私だって鈍くない。


「がんばろうねっ、恋歌! 作戦名は――『ドキドキ! 一泊二日で秋人くんのハートを射貫いちゃおう大作戦!』だねっ!」


 ニコニコと嬉しそうに盛り上がる瀬名と英樹。なんだかんだ言いながらも、勇利も楽しげに微笑んでくれていた。

 そっか。……私、秋人と泊まりで遊びに行けるのかな。

 想像する――秋人と、たくさん一緒に遊んだり、同じものを食べたりする時間。

 まだ決定したわけじゃない。だけど、ものすごく胸が踊った。

 ドリンクバーのオレンジジュースを、ちゅうちゅうとストローで吸ってしまう。

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