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第52話 夕焼けの中の告白

 昨日の放課後。

 俺は――鈴北さんに、告白をされた。


 本当に、突然の出来事だった。

 そろそろ期末テストの時期になるからと、俺は教室で自習をしていた。すると鈴北さんが、俺の勉強する姿を肴にエンフィルをしたいなどと言い出したのだ。……なんだそりゃと思ったが、べつに拒否する理由もない。だから俺は、俺の気が散らない範囲で頼むぞとだけ言葉を添えて、その申し出を了承することにした。


 二時間くらいが経ったころだろうか。そろそろ部活の時間が終わり、閉校の時間になる。

 意外にも集中力が続いた自分のことを内心で褒めつつ、広げていたテキスト集(一年生の範囲だが……)を片付けていると、


『ね、綾田っち。お昼の話さ、覚えてる?』


 鈴北さんがエンフィルで遊びながら、そんなことを俺に尋ねてきた。

 お昼の話。となると……もしかして、アレだろうか。

 俺の、思い返すだけで顔が沸騰しそうになる、歯の浮くような台詞。

 

『う……や、やめれくれ鈴北さん。あのことは、できれば忘れてほしいんだけど……』


『んーん、ダメですっ! だってウチ、すごく嬉しかったしっ。まさかあの綾田っちが、ウチのことをそんなふうに思ってくれてるなんて思ってなかったからさ~っ!』


 そう言うと鈴北さんは椅子から立ち上がり、俺の顔をじっと見つめてきた。

 そのまま彼女は、一歩、二歩……と、じっくり俺との距離を詰めてくる。


『でもね――大事な友達、ね。そっか、友達かぁ』


『……す、鈴北さん? その、顔が近いんだけど……?』


『ん~? ふふっ、うん。ね、綾田っち――』


 鈴北さんの精緻に整った目鼻立ちが、リップクリームで潤った艶のある唇が。

 太陽みたいに明るい彼女の笑顔が、今、俺のすぐ目の前にあって――、

 


『――――好きです。ウチと、付き合ってください』



 はっきりと。

 鈴北さんは、そう告げてきたのだ。


『……え? 鈴北、さん……?』


 頭の中が、一瞬で真っ白になった。

 俺は硬直して、きっと何秒も言葉を返せないままだったのだと思う。

 だけど。そんな俺に対して、鈴北さんはにっこりと明るく笑って、


『えへへ。どう、びっくりした?』


 ――当たり前だろ、と思った。

 瞬間。俺はいつかの、鈴北さんとエンフィルのコラボカフェに行ったときのことを思い出す。

 そのとき鈴北さんは確かに、思わせぶりなことを俺に言ってきた。だけどその後、とくに何かがあったわけじゃなかった。だから俺は、あれは鈴北さんが俺をからかってきただけなのだと判断することにしていた。

 俺みたいなモブ生徒のことを、鈴北さんのような美少女が好きになるはずがない――と、そう確信していたから。なのに、


『あ、返事はいらないからっ。ウチはただ、綾田っちにこの想いを伝えたかっただけだもん』


 なんでだよ、と言いたかった。

 俺なんかのどこが、と聞きたかった。

 でも、ダメだった。声の出し方を忘れてしまったかのような感覚を前にして、俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。


 ふと。

 脳裏に浮かんだのは、亜麻色の髪の美少女の顔で。


『だって――綾田っちさ。レンレンのことが好き、でしょ?』


 まるで、そんな俺の思考を覗き見たかのようなタイミングで。

 鈴北さんは笑顔を崩さずに、さっぱりとした調子で言葉を続けてくる。


『だから、《《まだ》》答えはいらないの。でも、覚えててね綾田っち。ウチは――レンレンには、負けるつもりないからっ!』


 太陽のような笑顔は、そのままに。

 鈴北さんの綺麗な金髪が、教室の窓から吹いた風になびく。

 夕焼けに照らされた彼女は、その眩しい橙色の光なんかよりも、ずっと綺麗で。


『――じゃ、そういうことだからっ! また明日ね、未来のマイダーリンっ!』


 待ってくれ、と言おうとした。

 鈴北さんに聞きたいことが山ほどあった。だけど、そのどれもが、言葉にはならなかった。

 左胸に、手を当てる。

 俺の心臓は、今までにないほどに激しく脈を打っていて。


 そして――またしても俺はロクに眠れず、この朝を迎えていた。


「……どうすりゃいいんだよ、俺は」

 

 二日連続の寝不足は、さすがにキツい。

 ずきずきと頭が痛む。まあ熱はないだろうし、鎮痛剤だけ飲んで学校に行かなくては。

 となればまずは、朝食を取らなくては。

 だるい身体を動かして、ふらふらと階段を下りていく。

 すると……どうしてだろう。リビングからは、香ばしい匂いがして――、


「――――あ、秋人っ。えへへ、おはよっ」


 キッチンにて。

 亜麻色の髪の美少女が、フライパンをふりふりと振っていた。

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