表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/89

幕間 幼なじみの様子が……

 球技大会のプチ打ち上げをしよう――幼なじみ五人のグループチャットに、そんな通知が届いていた。

 提案してきたのは瀬名だった。勇利は別のクラスだろと思ったが、まあ、本人が良いのなら良いのだろう。

 どうしよっか、と、俺の隣を歩く恋歌に聞かれた。

 俺は少しだけ悩んだけれど……せっかくだし行くか、と、そう答えることにした。 


 いつものファミレスに向かうと、すでに英樹たちは揃っていた。

 俺たちが到着したのと同時に、瀬名がニヤニヤと笑みを漏らして、


「やっほー、秋人くんに恋歌っ。ふっふっふっ、やっぱり一緒にいたんだぁ?」


 そう言われて、俺と恋歌はそれぞれ反対側に視線を逃がす。

 時刻は20時。球技大会が終わってから、すでに三時間以上が経過している。

 俺は河川敷で恋歌と、その、いろいろあった結果……ふと冷静になった今は、もう、恥ずかしくて仕方ない状態に入っていた。


「その様子だと、今度こそ無事に仲直りしたってわけか。いやぁ、よかったよかった!」


 ヒュー。と、わざとらしく口笛を吹いて茶化してくる英樹。

 続けて、勇利が俺たちを交互に見ながら、


「どうやら、そうらしいな。これにて一件落着、というところか」


「……だから俺たち、べつに喧嘩してたわけじゃないんだけど。なあ、恋歌?」


「え? あ、う、うん。そう、だよね……」


 恋歌の目が泳ぐ。

 正直なところ……俺はいまだに、恋歌が何を考えているのかわからずにいた。

 俺のことを罵ってきたり、大嫌いと告げてきたり。

 かと思えば、一緒にバスケの練習がしたいと言ってきたり、俺のことを抱きしめてきたり。


 極めつけは、さっきのアレだ。

 恋歌の優しい声音から告げられた言葉の数々が、ぐるぐると頭の中で回り続ける。


『私は、ね――秋人の、そんなところが好き。大好きなの』


『私、ほんとはね――秋人の、そういうダメなところも好きなんだよ?』


 あれは……本当に、いったい何だったんだろうか。

 わからない。あれが恋歌の本音? 大嫌いだ、という言葉のほうが建前?

 というか、そう、そもそも――、


(好きって、どういう意味なんだ……っ! 幼なじみとして? それとも、異性として……?)


 ぐるぐる。ぐるぐるぐる。

 脳みそがこんがらがって、何ひとつ思考が進まない。


「ま、とりあえずふたりとも座りなよっ。ほら、ご飯たのもっ?」


「お、おう……」


 瀬名の誘導に頷きを返して、俺はソファー状の椅子に腰かける。

 と、その隣に……恋歌が、座ってくる。

 甘い匂いがする。さんざん嗅いだばかりの、学園一の美少女の香り。


「ね、秋人。今、ヘンなこと考えたでしょ?」


「えっ……いやっ、今のは不可抗力っていうか……っ」


「そういうの、視線でわかるんだからね? 秋人の……えっち」


 ……あれ?

 恋歌の調子が、いつも通りに戻っている?

 いや、本当に戻っているのか? かつての恋歌なら、もっと容赦なく俺を罵倒をしてきた気がするが。

 だけど今のは、ほんのちょっとの、なんなら可愛らしいくらいの毒。

 とはいえ、毒は毒。さっきまでの恋歌の甘ったるい雰囲気とは、やっぱり別だ。

 と、英樹が頬杖をつきながら、


「にしても、すっかりいつも通りって感じで安心したぜ。瀬名のやつなんか、『あたしが余計なことしたせいで、秋人くんと恋歌がぁ~』って、わんわん泣いてたんだぜ?」


「ちょっと、英樹! あんただって、『オレ、秋人の親友失格かもしれねぇ……』って凹んでたくせにっ!」


「お、おい! ……ち、違うからな秋人っ! オレっ、ギリギリ泣かなかったから!!」


「そ、そうか。なんか、悪かったな……」


 どうやら、ふたりには心配をかけまくってしまったようだ。……今度、何かしらの埋め合わせをしないとな。


「……ま、秋人。これからはさ、何かあったらオレらを挟んでくれよ。裁判くらいならしてやるからさっ」


「なんだそりゃ。お前が遊びたいだけだろ、それ」


「へへっ、バレちまったか」


 にやけ顔の英樹をあしらっていると、今度は勇利が眼鏡をクイっとさせて、


「秋人と恋歌が今まで通りだと? フッ、笑わせるな。英樹、お前の親友力はその程度だったか」


「なっ、なんだとォ!?」


 いや、なんだよ親友力って。初耳なんだが。

 内心で呆れる俺を置いてけぼりにして、英樹と勇利は会話を続ける。


「やはり秋人の親友にふさわしいのは、お前ではなく俺だという意味だ。貴様など、しょせんはクラスが同じになっただけの下等親友に過ぎん」


「はっ、負け犬が吠えやがって! いいか、オレと秋人は運命でクラスメイトになったんだ!! それにお前っ、そんなこと言うなら昼メシもう一緒に食ってやらねぇからな!!」


「それだけは辞めてくれ。さすがに寂しい」


「お、おう。すまん……」


 ……聞くだけ無駄な会話だったな、これ。律儀に耳を傾けていた時間と労力を返してほしい。

 と、そんなことを思っていたら。 

 つんつん。右肘のあたりを、恋歌に突かれる。


「ね、ねえ。秋人……」


 甘えるような上目遣い。

 ……あれ。さっきの、ちょっとだけ辛辣な態度はどこに行ったんだ?

 ……もしかして、夕方までのデレモード(仮称)に戻ったのか?


「瀬名が先に、私たちのぶんまでドリンクバー頼んでくれてたみたいなの。ね、一緒に取りに行かない?」


 ぐ。心臓がどくんと跳ねる。

 理由は単純。恋歌という美少女のおねだりが、信じられないくらいに可愛かったからだ。

 これを断れる男がいるのなら、ぜひとも会ってみたいところだ。


「……わかった。行こうぜ、恋歌」


「……! う、うんっ!」


 にこりと笑う恋歌。

 なんだか一瞬だけ、犬みたいだなって思った。

 ハーフアップに結ばれた亜麻色の髪が、ぶんぶんと左右に振れていた……わけはないのだが、そんなふうに見えた気がした。


   ◇◇◇


 その後、ドリンクを注いできた俺と恋歌が席に戻ると。

 ……瀬名が、珍しく泣きそうな顔をしていた。


「秋人くんっ、恋歌ぁ! お願い、助けてぇ!」


「せ、瀬名? 何があったの……?」


「英樹と勇利がぁ、バカすぎるのぉ……!」


 なんていう悲痛な叫びだろうか。俺はこっそり内心で瀬名に同情する。

 そしてその犯人たちが、どんな会話をしていたかというと。


「何度も言っているだろう、英樹。秋人と恋歌は今まで通りの仲でなどなく、今まで以上の関係になっている、と」


「そりゃ何度も聞いたって!! で、肝心なのは理由だっての!! ほら、もっぺん言ってみやがれ!!」


「だから、セックスだ。秋人と恋歌は、性行為をしたに決まって――」


「――してねぇよ!?」「してないわよ……っ!?」


 思わず店内だというのに大声を出してしまう。店員さんからの、冷ややかな視線。

 ……しかしまあ、そりゃ瀬名もうんざりして泣くわけだ。勇利のことだから悪気はないんだろうけど、少なくとも公共の場でするような話じゃない。


「なんだ、そうだったのか。すまんな秋人、恋歌。俺の勘違いだったみたいだ」


「勘違いってレベルじゃないでしょっ、勇利っ!!」


 ぷくっと頬を膨らませる恋歌。めちゃくちゃ可愛い。

 そんな気持ちを誤魔化すつもりで、はあ、と俺は息を吐く。


「勇利、お前ぁ。いくらなんでも、女子の前でその話はナシだろ。俺はまだしも、恋歌からしたら屈辱も屈辱だろうし。なあ、恋歌?」


 と、隣に座る恋歌へと視線を向けると。

 恋歌は……その可愛らしい頬を、真っ赤に染めていて。


「…………る、もん……っ」


 恋歌の桜色の唇が、もじもじと動く。

 やがて、彼女は。

 意を決したかのように、すう、と大きく呼吸してから、



「わっ、私っ――秋人とだったら、えっちなことだってできるもん……っ!!」



 恋歌のソプラノボイスが、店内に響き渡る。

 俺、瀬名、英樹、勇利。そこに店員と客を含めた全員ぶんの視線が、亜麻色の髪の美少女へと集まる。

 からん。誰かが退店したのか、ベルの音が静かに鳴った。

 そんな、らしくない恋歌の姿を隣で見ながら……俺はもはや、苦笑することしかできない。



 どうやら――俺の幼なじみは、様子がおかしくなってしまったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ