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第29話 それから

 ファミレスを出て家へと帰った俺は、とりあえず勉強をすることにした。

 二週間後には、中間テストが始まる。最近は真面目に授業を聞いているし、赤点祭りにはならない……と思いたいが、うちは進学校であり、テストはめちゃくちゃ難しい。平均点が四十点を下回るときもあったくらいだ。


「数学がいちばんヤバイな……ぜんっぜん理解できてないぞ、俺……」


 しかし今回は、以前のように恋歌――いや、藤咲に教えてもらうことはできない。

 勇利なら頼めば快く了承してくれそうだが、しかしあいつは、勉強はできるが教えるのは下手くそなタイプである。瀬名と英樹は俺よりマシくらいの成績だし、彼らだって自分の勉強に集中したいはず。

 鈴北さんは……成績の良し悪しは不明だが、彼女と一緒にいるとエンフィルをやりたくなってしまう気がする。そうなれば勉強どころじゃなくなるだろう。


「……頑張れ、俺。俺ひとりでも大丈夫だってところを、藤咲に見せてやらないと」


 ここで俺が酷い成績を取れば、きっとまた藤咲に心配されてしまう。

 とはいえ、まあ……さっき俺は藤咲に「これからは俺のことは気にしないでくれ」と、そうはっきり伝えた。だからもう、俺がどうなろうと関係ないかもしれないけどな。


  ◇◇◇


 あっという間に二週間が過ぎて、中間テストの当日。

 俺は俺なりに、全力を尽くすことができたと思う。たまに英樹と遊びに行ったり、鈴北さんとエンフィルで遊んだりもしたが……あくまでも、息抜きの範囲内に収めた。自堕落な俺にしては、かなり頑張ったほうだと思う。


 ――ちなみにこの二週間で、俺は一度も、藤咲とは話さなかった。

 俺たちはついに、挨拶すらしなくなったのだ。クラスメイトたちには何があったんだよと何度か聞かれたが、「まあちょっとな」みたいな感じで誤魔化している。



 翌週の月曜日には、成績が発表されていた。

 うちの高校には、全生徒の順位と得点を廊下に張り出すという古き悪しき最低の文化がある。

 朝のホームルーム前の空き時間に、俺は英樹と勇利と三人で成績を確認しに向かう。と、


「俺は今回も一位か。まあ、当然だな」


 そうクールに告げて、眼鏡をクイっとさせる勇利。

 ……長い付き合いだから、俺にはわかる。こいつ、内心ではめちゃくちゃホッとしてるな。二位の生徒とはけっこう肉薄してるし。


「オレは……げ、155位っ。最悪だぁ、また母ちゃんにケツ叩かれちまう……」


 はあぁ、と英樹は重いため息をついた。

 対する俺は、というと……、


「……82位、か。どうなんだ、これ……」


 なんとも言えない順位である。

 前回よりは高い。だがあれだけ勉強して、50位に掠ってすらなかったか。

 とはいえ、俺にしては頑張ったほうだろう。赤点もなさそうだし、今は自分を褒めることにする。


「すげぇじゃん、秋人っ! なんだよお前、マジでちゃんと勉強してたんだなっ」


 英樹は俺の肩へと手を回すと、爽やかな笑顔で言ってきた。


「まあな。でも、また二ヶ月後には期末テストか……うげ、想像すると地獄だな……」


「そう思うなら、今度こそオレらと勉強会しとこうぜ。みんなでやりゃ、ちょっとはマシに感じるはずだろ?」


「気持ちは嬉しいけどさ、俺が参加したら藤咲に迷惑だろ」


 と、英樹たちと話しながら一覧表を眺めていると、たまたま鈴北美雪の名前を見つける。

 彼女の順名前の横には、12位という順位が。


「鈴北さん、めっちゃ頭良かったんだな……」


 すごいな、と純粋に思う。

 オタクに優しくて家庭的な一面もあって勉強もできる、イケオジ推しのゲーマー美少女ギャル。どれだけ属性を持てば気が済むんだろうか、鈴北さんは。


「英樹、秋人。よければ今日、俺の祝勝会をやらないか? 費用は俺が持とう」


 しれっと誘ってくる勇利。……自分の祝勝会を自分で企画し、自分で金を出すのか。あいかわらず、勇利は勇利だな。けれど、


「悪い、勇利。俺は遠慮しとくよ。四人で楽しくやってくれ」


 やんわりと断る。

 しかし勇利は調子を崩さず、クールな声音で続けてきた。


「瀬名と恋歌には声をかけない。たまには男三人で集まるのも悪くないと思ってな」


「……そっか。悪いな、気を遣わせて」

 

 俺がそう言うと、今度は英樹がぽんぽんと俺の背中を叩いて、


「秋人。せっかくの機会だから言っておくけどさ、お前と恋歌がどうなろうと、オレはお前の親友で居続けるぜ。だからお前こそ、オレらには気を遣わないでくれ」


「その通りだ、秋人。お前らの仲違いは残念だが、それで俺が秋人との時間を奪われるのは心外だ。悪いが俺の親友として、祝勝会には付き合ってもらうぞ」


 あれ……なんだよ、こいつら。

 英樹も勇利も優しいやつだってことは、ずっと昔から知っている。

 だけど面と向かって、そんなふうに言われると……、


「やべ……なんか俺、泣きそうなんだけど」


「おう、泣け泣け。そんときゃ、オレがお前を抱きしめてやるよ」


「……英樹。お前、やっぱり俺のことが好きなのか?」


「だから違ぇよ!! オレをそういう属性にしようとすんのやめてくれ!! たまにクラスの女子に言われんだからなっ、『綾田くんと付き合ってるの?』って!!」


「あぁ、その手の話なら俺もクラスメイトに聞かれたことがあるぞ。『綾田くんって、恋歌ちゃんと英樹くんのどっちが本命なの?』とな」


 真面目な声音で言ってくる勇利。俺は苦笑いを浮かべて、


「……勇利。お前、それちゃんと否定したんだろうな」


「いや、してないぞ。想像に任せるとだけ返しておいた」


「だと思ったよ。でもそれじゃあ藤咲に迷惑がかかるから、今度からはきっぱり否定してくれ。英樹はどうでもいいが」


「どうでもいいのかよっ、オレ! さっきまであんな感動的な雰囲気だったってたのにっ!」


 そんなふうに騒がしく会話している途中で、ふと、俺は思った。

 ……そういえば、藤咲の名前が見当たらないな。

 彼女は勇利ほどじゃないにしろ、かなり成績優秀だ。一桁順位を逃したことはなかったはず。


「ん? あれ、30位……?」


 ようやく見つけた藤咲の名前は、いつもよりも、かなり下のほうにあって。

 珍しいこともあるもんだな、と思った。とはいえ、30位も十分に優秀なほうだ。まあ、たまにはこういうこともあるということか。

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