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第27話 謝らなきゃ

 ――どうしよう。

 私は今日、朝からずっと……秋人のことを、目で追っかけていた。

 だけど彼とは、一度も目が合わなかった。私のことなんか眼中にすらないって、そう言われてるみたいな感じがした。


 私……なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。

 昨日のことを考えると、涙が溢れてしまいそうになる。だから私は何度も何度も唇を噛んで、それを堪え続けていた。

 秋人は……とっくにもう、私のことなんか嫌いになっちゃったよね。


(当たり前、だよね。だって私、秋人にあんな酷いこと……っ)


 今だって、あの感覚がまだ残っている。

 大嫌い――って、思ってもない言葉を秋人に言ってしまった。

 ……少しでも早く、彼に謝りたい。

 なのに、どうしても勇気が出なくて。

 また秋人に拒絶されるかもって思うと、怖くて怖くて仕方がなくて。


「――――れーんかっ! 今日、部活休みだよね?」


 と……背中から、瀬名にいきなり抱きつかれる。

 びっくりして、私は声を返せなかった。まずは、笑顔を取り繕わないと。


「……う、うん。休み、だけど……」


「あたしも今日、休みなんだっ。ね、いつものとこ行こうよっ! パフェ食べよ、パフェ!」


 元気いっぱいに言ってくる瀬名。

 ……わかってる。私は今すぐにでも、秋人に昨日のことを謝りに行かなきゃいけない。なのに、


「うん。……行こっか、瀬名」


 あぁ、私って……本当に、最低だ。

 瀬名の誘いを、秋人と向き合うことから逃げる言い訳にして。そうやって、自分の心だけを守り続けて。


 ……ねえ、秋人。

 ……こんなに酷い幼なじみで、ごめんね。


 もう一度、私は唇をぎゅっと強く噛んだ。


   ◇◇◇


「ん~っ、新作おいしいっ! フルーツ甘くて幸せ~っ!」


 とろけるような笑顔で、パフェを食べ進める瀬名。

 対する私は……あまり食欲がなくて、小さなプリンをひとつ頼んだだけにした。

 

「恋歌。食べないの?」


「あ……えっと、うん。食べる……」


 スプーンでプリンをすくって、一口――やっぱり、あんまり味がしないな。

 喉をうまく通ってくれない。何度も何度も噛んでから、水と一緒に流し込む。

 すると瀬名は、その笑顔を保ったまま、


「ね、恋歌。――昨日さ。あのあと、秋人くんと喧嘩しちゃったの?」


 いつもと同じ、明るい声音だった。

 きっと、空気を重くしないように、私に気を遣ってくれてるのだと思う。……瀬名は、本当に優しいな。


「もし恋歌さえよければ、昨日、秋人くんと何があったのか教えてよ。あたし、相談くらいなら乗るよ?」


 瀬名には、ぜんぶお見通しみたいだった。

 私の握っていたスプーンが、震えはじめる。


「……私、は……っ」


「うん。聞かせて?」 


「私っ……酷い、ことっ……秋人に、言っちゃった……っ」


 視界が潤んだ。私の頬に、ゆっくりと一粒の水滴が流れ落ちる。

 口の中が、少しだけしょっぱくなる。


「違うの……私、あんなこと言うつもりっ、なくて……なのにっ、気づいたら、秋人のことを、私、私っ……」


「落ち着いて、恋歌。秋人くんに、何を言っちゃったの?」


「……大嫌いって、言っちゃった。それで、秋人の家から、逃げちゃって……っ」


 ――私って、すごく幼稚だ。

 自分の感情をまともに制御できず、絶対に傷つけちゃダメな相手を傷つけて。

 そのことを謝ることすらできなくて。瀬名に、こうやって話を聞いてもらって。たくさん迷惑をかけて。

 私なんか、どこかに消えていなくなくなっちゃえばいいのに。

 そうしたら……もう二度と、秋人のことを傷つけないで済むから。


「ね、恋歌。秋人くんには、謝ったの?」


「…………ううん。まだ、言えてない……」


「そっか。じゃあ、謝らないとだよね」


 瀬名は優しく微笑んで、


「でもさ、恋歌。恋歌が謝らなきゃいけないのは、昨日のことだけじゃない。そうだよね?」


「……え?」


「秋人くんさ。恋歌のキツい態度とか、やっぱり前から気にしてたんじゃないかな。いくら秋人くんが優しいからって、恋歌はちょっと甘えすぎだったと思うな」


 瀬名の、言うとおりだ。

 私は今まで、秋人に嫌われて当然のことをたくさんしてきた。

 秋人は優しいから、それを許してくれていたんだと思う。

 だけど、あんなふうに言われ続けたら、誰だって傷つくに決まってる。

 そんな簡単なこと……どうして私は、今まで気づかなかったんだろう。


「というわけでさ、恋歌。次に秋人くんに会ったときに、ちゃんと今までのこと、謝れる?」


「…………うん。頑張って、みる……」


「よし。秋人くん、そろそろ着くころだと思うから」


「…………うん。って……え?」


 そう私が聞き返したのと、同時だった。

 瀬名が席を立ち、入り口のほうに手を振りはじめた。


「秋人くんっ! こっちだよ、こっち!」


 そして。

 聞き慣れた足音とともに……秋人が、私たちの席にまで歩いてきて。

 そんな彼の目と、私の視線が重なった。

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