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第24話 どうしたら

「………………ぁ、」


 私の喉から、声にすらなっていない、音みたいな何かが漏れた。

 同時――今、秋人に何を言い放ったのかを、ようやく理解する。


「っ、ちがっ……今っ、私……っ」


 心が、痺れるように痛んだ。

 だけど。きっと、秋人はもっと痛いと思う。

 ――彼は呆然と、色のない瞳で私を見てきている。

 その視線が、すごく辛くて。


 私は……どうすることも、できないまま。

 秋人の部屋から、逃げ出していた。


「…………っ!」


 階段を駆けおりて、玄関から飛び出して。

 いつの間にか、大雨が降り出していた。お気に入りの洋服が、ぐしょぐしょに濡れていく。

 水たまりを踏みつけて、走りながら……さっきのことを、何度も思い返す。


 あぁ――取り返しのつかないことを、してしまった。


 自分でも知らないうちに、声を出していた。

 感情のやり場がなくて、気づけば秋人にぶつけていた。


「なんで……っ、なんでよ、私……っ」


 ……わかっている。秋人には、きっと何かの事情があったんだ。

 鈴北さんと一緒に居たのも、楽しそうにゲームをしていたのも、絶対に何か理由があったはず。

 だって秋人は、こんな酷い嘘をついたりするようなひとじゃないから。つまり間違っているのは、秋人の話を聞かずに怒ってしまった私のほうだ。


 ……そう。あのとき私は、秋人と話をしなきゃいけなかったんだ。 

 どうして鈴北さんと一緒にいたの、って。

 どうして私には何も言ってくれなかったの、って。

 お互いに落ち着いた状態で、きちんと目を見て、自分の気持ちを伝え合うべきだった。

 なのに。なのに、私は――、


「なんで、私っ……秋人の前だと、あんなふうになっちゃうの……?」


 大嫌い――そんなの、一瞬だって思ったことはない。

 友達とかに秋人との関係を聞かれたときに、そういうふうに言ってしまうことはある。

 でも、それは……本当の気持ちを話すのが、恥ずかしかったから。そんな感情を誤魔化すために、大嫌いだなんて言ってしまっていた。


 だけど――それを私は、秋人の目の前で言い放った。

 ……謝らないと。そのくらい、わかってる。

 けれど、臆病な私が、今さら彼のところに戻れるはずがなくて。

 

「……ごめん、なさい。ごめんなさい、秋人、秋人……っ」


 その声は、雨の音にかき消される。

 だからもちろん、私の声は、誰にも届かない。

 でも、そのときだった。

 私の背後に、誰かの気配があるような気がして――、


「――――――秋人?」


 雨に打たれながら、その場で振り向く。

 が――そこに、秋人の姿はない。

 ……当たり前、だよね。私みたいな最低な幼なじみのこと、追いかけてくれてるはずないよね。


「……っ、私、わたし……っ」


 ぎゅっ、と。

 自分の左手首に巻いてあるミサンガを、強く握りしめて。

 空を、見る。ざあざあと雨の降り続ける、真っ暗な曇り空を。


「やだよ、私……秋人に、嫌われたくないよ……っ」


 ねえ……お願い。誰か、教えてよ。

 私は、どうしたらいいの?


「私……っ、どうしたら、素直になれるのかな……?」


 どうしたら――私は秋人に、本当の気持ちを伝えられるの?

 いつも強がって、彼に酷いことばかり言ってしまう最低な自分を、どうしたら変えられるの?


 ぼろぼろと流れた涙が、大粒の雨に紛れて落ちていく。

 どれだけ身体が濡れても……心臓のあたりに残った痺れるような感触だけは、どうしても忘れられなかった。

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