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第21話 看病のお礼

 それから俺は、眠ったり起きたりを何度か繰り返した。

 そのたびに鈴北さんは、冷感シートや氷枕を持ってきてくれたり、部屋の換気をしてくれたり……と、甲斐甲斐しく俺の看病をしてくれた。


「ウチさ、弟が三人いるんだよねっ。だからこういうの、けっこう得意だったりして。意外でしょ?」


 二度目の薬のタイミングで、鈴北さんはそんなふうに話してくれた。

 ……なるほど、だから手慣れた感じだったのか。鈴北さんにはものすごく失礼だけど、ひとを見かけで判断しちゃダメだな、なんて思う。


   ◇◇◇


 次に目を覚ましたとき、カーテンの隙間から見える外の景色は夜色に染まっていた。

 そして同時に、頭痛がさっぱり消えていることに気づく。まだ身体は怠いが、寒気も感じない。枕もとの体温計を使用する……と、36.4の表示。


「……よかった、とりあえず熱は下がったっぽいな」


 とりあえず、鈴北さんに連絡しないとな。

 俺はRINGを起動し、彼女に「熱は下がった、ありがとう」とメッセージを送る。

 そういえば鈴北さんは……まあ、さすがにもう帰っただろうな。時刻は19時過ぎ。いくらなんでも、もう俺の家にはいないだろう――、


「――綾田っち、もう大丈夫なのっ!?」


 ばたん!! ……と、勢いよく扉が開かれて。

 エプロン姿の金髪美少女――鈴北さんが、俺の部屋にずかずかと入ってくる。


「……マジか。鈴北さん、こんな時間までいてくれたのか」


「当たり前じゃんっ。辛そうな綾田っちを置いて帰ったりなんて、ウチにはできないって」


 ベッドのそばまで歩いてきて、にっこりと笑う鈴北さん。


「でも、もう大丈夫そうだねっ。よかった、よかった!」


「鈴北さんのおかげだよ。本当にありがとう」


「えへへっ、いいって!」


 そうは言われるが、この恩を言葉ひとつで片づけるわけにもいかないだろう。

 ここまでしてもらったのだから、何か返させてほしいところだった。


「鈴北さん。何かさ、今日のお礼をさせてくれないかな。まあ、俺にできることならって感じにはなっちゃうけど」


「んーん、大丈夫っ。伯爵様グッズを助けてもらった恩返しなんだから、お礼なんていらないって」


「それじゃ俺の気が済まないんだ。……給料とか払おうか?」


「現金はやめてってば! でもまあ、うーん、綾田っちがそう言うなら――」


 ちらり、と鈴北さんが視線を動かした。

 その先には、さっき鈴北さんに連絡するために使った俺のスマホが置いてあって。


「――綾田っちさ。今日、まだログボ取ってないっしょ?」


「……え?」


「それとさぁ。こないだの新キャラの素材まだ集まってないんだよねぇ、ウチ」


 ニヤニヤと口もとを緩める鈴北さん。

 彼女の看病のおかげで、今の俺の思考はクリアそのものだ。だから鈴北さんが何を言おうとしているのか、俺にははっきりと伝わっていた。


「……鈴北さんらしいな。わかった、手伝うよ」


 思わず、笑みがこぼれてしまう。

 俺はスマホを手に取って、とりあえずエンフィルを起動する。


「でも俺、ご存じの通りの病み上がりなんだけど。いきなりゲームなんかして、ぶり返したりしないよな……」


「大丈夫だって! 綾田っちのデイリーとウチの素材集め終わったら、おとなしく帰るからさっ! だから、ね? ちょっとだけやろうよ、ちょっとだけ!」


「ま、お礼をする言っちゃったしな。よし、やるか」


「えへへっ、やったっ! じゃ、いつも通りウチのほうから招待するね~っ!」


 そう言って鈴北さんは、きらきらと目を輝かせた。

 これだけ喜んでくれるのなら、俺としても気分が良い。

 もちろん、この程度で鈴北さんへの借りを返せるとは考えてない。だけど、まあ……今は彼女のためにも、エンフィルを全力で楽しもうと思う。


(そういえば、そろそろ二十時か……)


 俺はもともと今日、瀬名たちとウィンディーネランドに行く予定だった。

 彼女たちは、無事に満喫できただろうか。俺のせいで、余計な気を遣ってしまったりはしていないだろうか。


(恋歌は……今ごろ、何してるんだろうな)

 

 いや――バカか、俺は。

 そんなもの、考えるまでもない話じゃないか。

 大嫌いな俺のいない遊園地を、幼なじみたちと堪能している。それ以外に、あり得るはずがないというのに。

 

 なのに、どうしてだろう。

 どうして俺は、こんなにも――寂しい、と思ってしまうのだろう。


(……最高にダサいな、俺。結局、まだ恋歌のことを諦められてないってことか……)


 ふと、カーテンの隙間から、外の景色を見上げてみる。

 夜空に浮かぶ月には、灰色の雲がかかってしまっていた。

 雨にならなければいいな――と、内心でそう願う。

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