第15話 怖かったり、嬉しかったり
ファミレスで軽くスイーツだけ食べて解散した私たちは、その日の夜に、RINGのグループチャットでGWの予定を決めることにした。
私はお風呂上がりにドライヤーで髪を乾かしながら、ベッドに腰かけてスマホの画面を眺める。
『(瀬名)はい、というわけで!』
『(瀬名)ゴールデンウィークが来ます!』
『(瀬名)なので!』
『(瀬名)私たち仲良し幼なじみ5人で、ウィンディーネランドに行きたいと思います!』
瀬名のいつものパンダのスタンプが挟まって、
『(英樹)いぇーい!』
『(英樹)テンション上がるぅ!』
……もう。英樹ってば、相変わらずだなぁ。
と、続けざまに瀬名からのチャットが。
『(瀬名)そういうわけなんだけどさ』
『(瀬名)秋人くん、予定は大丈夫?』
そんな瀬名のメッセージから、数分が経過する。
そのあいだ、私はずっとスマホを凝視してしまっていた。なんだか緊張する。もし断られたらどうしよう、と、つい怖くなってしまう。
『(秋人)すまん、今見た』
と、秋人からの返信。
もしかして、今までずっと勉強してたのかな。だとしたら……すごく偉いね、秋人。
『(秋人)てか、またウィンディーネランドかよ』
『(秋人)瀬名が行きたいだけだろ』
『(瀬名)秋人くん大正解』
『(瀬名)100ポイント贈呈です』
『(秋人)何に使うポイントだよ……』
秋人と瀬名のやり取りは、なんだか楽しそうで。
(……いいな。私も、秋人と喋りたい……)
だけどやっぱり、彼にメッセージを送る勇気すら、私にはなかった。
自分のメンタルの弱さに、ちょっとだけ凹む。
『(秋人)で、日付は?』
『(勇利)6日の火曜の予定だ』
『(勇利)俺たち全員の部活の休みが合う日が、そこだけだった』
淡々とした勇利の返信。
ちなみに日付については、予めファミレスで話し合っておいた。
私たち四人の部活が共通して休みだった日が、火曜日だけだったのだ。だからここがダメなら、遊びに行くのは難しくなっちゃうけど……秋人は帰宅部だし、きっと大丈夫だよね。
と、思っていたのだけれど――、
『(秋人)悪い、そこは予定がある』
――え。
心臓が止まるような感覚。
……そっか。秋人、予定あるんだ。
『(瀬名)え~~~!』
『(瀬名)何でよ、秋人くん!』
『(秋人)そう言われてもなぁ、すまん』
『(秋人)まあ今回は俺のことは気にせず、四人で行ってきてくれ』
四人で、か。
もしかして……私がいるから、避けてるのかな。
秋人はもう、私なんかとは一緒に遊びたくないのかな。
『(瀬名)ヤダ! ゼッタイ五人で行く!』
だけど一方の瀬名は、子供みたいに駄々をこねていた。
でも、瀬名だけじゃなくて私も……、
(……秋人と、一緒に行きたかったな)
なんて、そんなふうに考えていると。
ピロン。またしても、スマホに通知が。
『(秋人)瀬名、お前なぁ……』
『(秋人)でも、そこまで言うならわかったよ』
『(秋人)予定ズラしてもらえるように、ちょっと頼んでみる』
秋人からの、そのチャットを見て。
私はうっかり、手の中のドライヤーを落としてしまった。そして私の素足にぶつかって、
「――――痛ぁっ!?」
思わず、大声で悲鳴を上げてしまう。
だけど……そんな痛みのことなんて、私は一瞬で忘れていた。
代わりに感じていたのは、高揚感に似た何か。心がふわふわと浮つくような、なんだか心地のいい感覚が私の全身を撫でる。
「……そっか。秋人と、遊びに行けるんだ……」
嬉しいな、と思った。
幼なじみ五人で遊びに行くのは、いつ以来かな。春休みにお花見に行ったのが最後だったはずだから、一ヶ月前くらいのはずだけど……でも私には、それが遙か昔のことに思えた。
(もし秋人が私のこと嫌いなら、この誘いも断ってる……はず、だよね?)
ぽふん、と、ベッドに背中を預ける。
ふかふかの感触が身体に嬉しい。その体勢のまま、私はスマホのチャット画面を見上げ続ける。
『(英樹)よし、なら6日で決まりだな!』
『(瀬名)じゃあ秋人くん、予定空いたらすぐ教えてね』
またしても瀬名はパンダのスタンプを挟んで、
『(瀬名)あ、チケットはあたしが取ります!』
『(瀬名)てか、もちろん開園待ちするよね?』
『(秋人)無茶言うなよ。いいけどさ』
『(勇利)了解した。寝坊したらすまん』
『(瀬名)そしたら絶交だから』
『(英樹)処罰が重すぎるだろ……』
なんて、楽しそうに会話する四人の様子を見て、
(わ、私も、今度こそ……っ)
さっきの高揚感に身を任せて、私はスマホを操作。
『(恋歌)秋人も寝坊しちゃダメだからね?』
『(恋歌)前の日はちゃんと早く寝ること』
『(恋歌)あと、朝ご飯抜いたりしたらダメよ』
『(恋歌)向こうで体調崩したら、面倒見るのは私なんだからね』
そこまで言って、ふと我に返る。
……ちょっと言い過ぎちゃったかも。これじゃ、秋人のこと怒らせちゃうかな?
だけど、すでに既読はついてしまっていた。秋人からの返信が、ちょっとだけ怖くなる。
『(秋人)了解』
やがて送られてきたのは、たったそれだけの二文字。
なんだか冷たい返信に見えた。やっぱり、私とはもう話したくないの……?
いや……きっと、気にしすぎだよね。
遊びに行けば、いつもみたいに接してくれるよね。
「ふふっ。楽しみだなぁ」
ぎゅっと私は枕を抱きかかえて、ばたばたとベッドの上で足を遊ばせる。
頭の中は、やっぱり秋人のことでいっぱいだった。だけどさっきまでと違って、私の胸のモヤモヤは綺麗さっぱりなくなっていた。
「秋人……ふふっ、秋人っ」
意味もなく、彼の名前を呼んでしまう。
それがどうしてか、とても楽しくて……今の私、なんだか子供みたいだな。そんなふうに思いながら、私は秋人からのチャットを何度も読み返した。




