第13話 あいつのいない昼休み
その後、私たちは食堂のテラス席で、お昼ご飯を食べはじめた。
相変わらずマイペースな勇利は、十数分の遅刻をしてきたあと、「すまん、定食のメニューで悩んでいた」と当然のように言っていた。……私と瀬名たちは、顔を見合わせて呆れ笑いを浮かべる。
そんな勇利が、もぐもぐと焼き肉定食を食べ進めながら、
「恋歌。秋人のヤツは今日もいないのか?」
「え? な、なんで私に聞くのよ……」
「逆に聞くが、なぜ秋人のことを恋歌以外に聞かねばならんのだ」
……なによそれ、と思った。
どうして秋人が、私たちと一緒にお昼ご飯を食べてくれなくなったのか――そのことをいちばん聞きたいのは、私なのに。
と、瀬名が食堂の窓の向こう側を指さして、
「秋人くんなら、今日も鈴北ちゃんと食べてるみたいよ。ほら、あっち」
そこに目を向けると、秋人の姿が見えた。
遠く、テーブル席の隅っこで、秋人は同じクラスの鈴北美雪さんと一緒にご飯を食べている。
スマホを操作して何かの話をしながら、ふたりは楽しげに笑い合っていた。……秋人、いつの間にか鈴北さんとあんなに仲良くなってたんだ。
「なんか、アレらしいぜ。いつも秋人がやってるスマホゲームあるだろ? それの繋がりで仲良くなったんだとさ」
のんきなトーンで語る英樹。
そっか、ゲームの友達なんだ。鈴北さんってああ見えて、意外とゲームとか好きなのね。
秋人は……私たちとじゃなくて、鈴北さんとお昼を食べたほうが楽しいのかな。
「どうした恋歌。箸が進んでないぞ」
と、真面目な声音で勇利が言ってくる。気づけば彼は焼き肉定食を食べ終えて、いつも通り勉強をはじめていた。
「腹がいっぱいなら、俺が食べてやろうか?」
「……だ、大丈夫。自分で食べれるから……」
「フッ、冗談だ。お前が秋人以外の男に手料理を食べさせるつもりがないことくらい、わかっているさ」
「ち、違うってば! だから私と秋人は、そういうのじゃ……っ!」
もう……勇利と話すと、いつも調子が狂うなぁ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、勇利は「それより」と話を区切って、
「それにしても秋人のヤツ、あの金髪の女子とずいぶん仲が良いんだな。まさかあいつ、俺たちに内緒で彼女を作ったのか?」
え――?
そっか……そう、なのかな。
秋人と鈴北さんって……付き合ってる、のかな。
「おい。どうしたお前ら、なぜ黙る」
「だっ、黙るのはお前だ勇利! お口チャックしろ! チャック!!」
「そうだよ勇利っ! あたしも英樹も、それだけは言わないようにしてたんだからっ!!」
と、英樹と恋歌が勢いよく同時に立ち上がり、勇利に強く言い放つ。
すると勇利はクールな表情のまま、
「すまない、確かに配慮が欠けていた。だが、いくらなんでも秋人とあの鈴北さんとやらは仲が良すぎじゃないか? 今だって、あの距離感だぞ。知り合って数日の関係だと言い張るには無理があるようにも見えるがな」
勇利がくいっと顎で秋人たちのほうを指す。
いつの間にか鈴北さんは、秋人の向かい側から隣の席に移動していて……な、なによあれ、近すぎない? あんな至近距離じゃ、いろいろと当たっちゃいそうなのに。
「…………秋人、」
ぼそり、と。
私の唇から、勝手に彼の名前がこぼれた。
すると瀬名が、私を心配するような目つきで、
「もう、恋歌。あんまり気にしちゃダメだよ? 秋人くんと鈴北ちゃん、ただのゲーム友達だって話だし。もし付き合ってるんだとしたら、あたしたち女子はともかく、英樹と勇利にくらいは報告するんじゃない?」
「……う、うん。だと、いいけど」
と、そう呟いたところで、私は。
「……って、べつに私、最初から気にしてないからっ。あのバカ秋人が誰と付き合おうと、私には関係ない、し……」
そう口では誤魔化してみるけど、私の心の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。
……ねえ、秋人。もしかして、鈴北さんのことが好きになっちゃったの?
……だったら、だったらさ――、
――私との、あの約束はどうなるの?
(って……バカみたい、私。ずっと昔の話なのに、なんで今さら思い出すのよ……)
左の手首に巻いたミサンガを、ぎゅっと握りしめながら。
鈴北さんと楽しそうに笑い合う秋人のことを、私は窓越しに眺め続けた。
今日のお昼ご飯は――どうしてかな。うまく作れたはずなのに、あんまり味がしなかった。




