第二話:ナオキ、メンズワゴンに、紛れてたレース。
第二話:メンズワゴンに、紛れてたレース。
──♡──
その女──真希さんは、隣に住んでいる。
ある朝、洗濯機を開けたら、乾ききった“それ”が混ざっていた。
レースの縁取りに、やさしいラベンダーの花柄。明らかに、女物のショーツ。
しかも──タグに「ふんわり仕上げ」の刺繍入り。
──♡──
「俺……ナオキ(仮名・23)。アパレル倉庫のバイトで、基本引きこもり体質だ。」
引っ越して半年、女性の来客どころか、会話もない。
だけど、最近やたらと部屋が“ラベンダーの香り”になってきた気がするんだよな……。
──♡──
【洗面所】
・電動シェーバーがピンクのフェイス用に置き換わっていた。
・「お肌も、ちゃんとお手入れしてあげてね♡」という手書きカードが貼られていた。
・歯磨き粉が“口元に色気”タイプのフレーバージェルに変わっていた。
「いやいや……誰だよ、俺の洗面台をこんな“女の子仕様”に改造してんの……」
──♡──
【部屋・スマホ】
・冷蔵庫の上に、ビタミンC入りコラーゲンドリンクが6本。
・テレビの履歴、“美容系YouTuber”がトップに来てる。
・通知に“脱毛サロンのクーポン”が……えっ、誰が予約したの?
「いやだいやだいやだ、俺はムダ毛と共に生きるって決めたはず……!!」
──♡──
【下着】
・スウェットの下から、レースの履き口がちらりと覗いている。
・タグには「マシュマロフィット♡」のロゴと、“ふわふわ”の着用感説明。
・小さなピンクのリボンが、ちょうど前の中心に縫い留められていた。
「……なにこれ……履いてるだけで、なんか……“女の子”って感じがして……やば……」
──♡──
そこに現れる、隣の女──真希さん。
今日の真希さんは、白のカットソーにネイビーブルーのスキニーパンツ。
フレアスリーブがひらりと揺れて、指先がこちらを誘うように伸びてくる。
「ふふ……ナオキくん、女の子の服って、着てるうちに“似合ってくる”のよ♡」
「いやいや、着てねえし!?それ、勝手に俺の引き出しに入ってたし!!」
「感触って、ほんとうに怖いのよね。“気持ちよさ”で記憶が塗り替わるんだから♡」
「おい待て、そういう催眠番組、深夜しかやってなかったぞ!?」
「さあ、“男の終わり”の時間よ」
「──どうぞ♡」
──♡──
【黒服さん突入】
ドゴオォン!!!
突如、部屋のドアが破られ、黒服の集団が乱入!
黒服1「対象、下着“自己装着”状態。抵抗なし」
黒服2「ラベンダーレース、使用感良好。情緒順応率高し」
黒服3「心拍安定。女子化プロセス“好意的”に移行中」
ナオキ「ちょっ、これちょっと試しに履いただけで──うわぁあああぁっ!!」
──♡──
【個体データ】
・識別コード:No.088
・変化初期:洗面台周辺の美容製品導入
・下着傾向:ラベンダーカラー/マシュマロフィット系レース
・感覚変化:下着着用中の“ふわふわ感”に依存傾向あり
・心理特性:「可愛いかも……?」と鏡前での自認発言あり
──♡──
【数日後】
“ラベンダー色の気配”が、すっかり日常になった。
コンビニでは無意識に女性誌コーナーを一瞥するようになっていた。
ポーチに入れたリップクリームも、もう手放せない。
ふと、自撮りした横顔を見て、照明の角度を調整し直した。
鏡の中の自分に、小さく「可愛いかも」と呟いて──その声に、微笑んだ。
──♡──
真希さんは、優しくその肩に触れた。
「ね、“あたたかさ”って、女の感覚にいちばん近いのよ」
「ナオキくん……やさしくなって、きっと“触れてほしい”って思ってる♡」
──♡──
真希さんのノートには、“No.089:ユウジ(仮)”の文字が、そっと記されていた。
完──“今日もまた女にしておしまい♡”
──♡──
「ブックマーク、評価、感想……ちゃんとつけてくれたら、私のノートに“チェック済”で記録しておくわね」
「ふふ、あなたのNo.が記されるのは──きっと、もうすぐよ♡」