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第2話「職場の壁」

以前noteように書いたものです。

こちらも、ぼちぼちアップして行ければと思っています。

プロローグ

「来週から来れますか?」 あの言葉から、もう1ヶ月が経とうとしていた。


僕の人生は、broadというAIとの出会いをきっかけに、確かに変わった。 初めての給料日には、少しだけ高いコンビニのスイーツを買った。社会の一員になれた気がして、その甘さは格別だった。


でも、新しい道には、新しい壁が待ち構えている。それは、人が「仕事」と呼ぶものには、必ず付き纏うものらしかった。


第1章:見えない指示

僕が配属されたのは、地元の小さな印刷会社の営業事務だった。主な仕事は、先輩の営業担当、佐藤さんのサポート。電話応対、伝票整理、見積書作成。どれも初めての経験だ。


「これ、やっといて」


佐藤さんはいつも、そう言って書類の束を僕の机に置くだけだった。 最初のうちは、他の先輩に聞きながら、何とかこなしていた。でも、徐々に「見て覚えろ」という無言の圧力が、僕の肩に重くのしかかってきた。


その日、事件は起きた。 A社の見積書を作成している時だった。過去の似たような伝票を参考に、自分なりに作り上げた。でも、提出した途端、佐藤さんの低い声が響いた。


「おい。これ、なんだ?」


第2章:心の壁

「…見積書です」 「見てわかるよ。なんでCプランの割引率が適用されてないんだって聞いてんだよ。A社は長年の付き合いだろ。常識だろ、こんなの」


常識。その言葉が、僕の心を抉った。 僕には、その「常識」が分からない。教えてもらっていないから。


「申し訳、ありません…」 「謝って済むかよ。刷り直しだ。インク代も紙代も、お前の給料から天引きしたいくらいだ。何度言ったら分かるんだ。使えねえな、本当」


冷たい言葉が、次々と突き刺さる。 周りの同僚たちは、聞こえないふりをして、自分のパソコンに目を落としている。 中学時代の教室の風景が、フラッシュバックする。 孤立感。無力感。僕の居場所は、ここにもないのかもしれない。


心が、ポキリと折れる音がした。


第3章:AIとの対話

その夜、アパートの部屋で、僕はbroadの画面を開いていた。もう、会社を辞めようか。そんな考えが頭をよぎる。


『こんばんは。何かお困りですか?』


僕は、今日あった出来事を、震える指で打ち込んだ。佐藤さんの言葉、周りの視線、そして、自分が「使えない」人間だと思ってしまうこと。


『それは、お辛かったですね。あなたの心が折れそうになるのも、無理はありません』


broadは、まず僕の気持ちを受け止めてくれた。そして、意外な言葉を続けた。


『少し、佐藤さんの行動を分析してみましょう。彼が使った言葉、「常識だろ」「何度言ったら分かるんだ」。これらは、実は、「どうやって教えたらいいか分からない」人間の、典型的な思考パターンなのです』


第4.章:反転する視点

『え…?』


僕は混乱した。


『佐藤さんは、あなたを攻撃したいわけではないのかもしれません。彼自身が、「仕事を教える」というスキルを持っていない、あるいは、忙殺されてその余裕がない。だから、あなたを自分と同じ「常識」を持つ人間だと仮定し、それができないあなたを見て、苛立っている。問題は、あなたの能力ではなく、彼の「指導力不足」にある可能性が高いのです』


視界が、ぐにゃりと歪むような感覚だった。 僕は、自分が一方的に「使えない」のだと思い込んでいた。でも、そうじゃないのかもしれない。


『では、どうすれば…?』


『一つ、試してみませんか? 次に何か指示された時、こう言ってみるのです。「はい、承知いたしました。もし可能でしたら、一度だけ、佐藤さんのお手本を見せていただくことはできませんでしょうか。今後のために、完璧に覚えたいので」と。下手に出て、相手を「先生」にするのです。 人は、教えを乞われると、悪い気はしないものです』


第5.章:氷解の兆し

翌日、佐藤さんが新しい伝票の束を置いて、「これ、やっといて」と言った。 僕は、深呼吸して、覚えたての呪文を唱えた。


「はい、承知いたしました。…あの、もし可能でしたら、一度だけ、佐藤さんのお手本を見せていただくことはできませんでしょうか。今後のために、完璧に覚えたいので」


佐藤さんは、一瞬、驚いたような顔をした。そして、少し照れくさそうに頭を掻きながら、「…ん、まあ、一度だけだぞ」と言って、僕の隣に座った。


彼が処理する手順は、僕がやっていたものと、ほんの少しだけ違っていた。でも、その「少し」が、決定的な「常識」の差だった。


「…なるほど、こうやるんですね。勉強になります。ありがとうございます」


僕がそう言うと、佐藤さんは「…おう」とだけ言って、自分の席に戻っていった。 彼の背中は、昨日より、ほんの少しだけ、小さく見えた。


エピローグ:見つけた居場所

それから、佐藤さんの僕に対する態度は、劇的にではないけれど、少しずつ変わっていった。時々、彼の方から「ここは、こうだぞ」と教えてくれるようにもなった。


職場の壁は、まだ厚くて高い。 でも、broadが教えてくれた。壁を壊すのではなく、「回り道」を探してもいいんだ、と。視点を変えれば、乗り越えられる壁もあるんだ、と。


僕は、自分の居場所を、少しだけ、見つけられた気がした。


【第3話予告】 仕事には慣れてきたが、給料はまだ少ない。broadと共に、主人公は初の「副業」に挑戦する…


※次回「broadに救われる男 第3話『最初の1円』」もお楽しみに

いかがでしたか?


次回もお楽しみに。

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