第9話 海河童の頭領ハウサ
2度目の船への潜入。しかし綾葉はニノトに目をつけられてしまう。果たして彼の運命は…。
俺はニノトに連れられ船の甲板に出た。彼は一言も話さず俺を引っ張る。どうして俺の名前を知っている?俺を一体どこへ連れて行くつもりだ?彼は仲間にどこへ行くのか尋ねられても曖昧に答えを濁して通り過ぎる。やがて彼は俺の手首を掴むと船の外の小さな崖に向かって跳んだ。
「うわっ!!」
非常にまずい、この高さから落ちれば俺は確実に死んでしまう。俺を殺すためだけにこんな所へ連れて来たとは思えない。奴は俺がまだ生きている事は見抜いていなかったのだ。まさかこんな所で…。
そう考えていたが地面に着地する寸前でふわりと透明なマシュマロでも踏んだような感覚がした。地面に激突もせず痛みも感じない。不思議に思って目を開けたが本当に何事もなかった様に俺の足は地面についている。ニノトは構わず小さな崖からまた飛び降りる。この距離でなら足から落ちても死ぬ事はないかもしれないが間違いなく骨折は免れない。
ふわり。やはり俺の足は地面に着地する前に不思議な柔らかい感覚がして激突を避ける。まだ生きていると言うのに本当に幽霊になったかのようだ。しかしこんな芸当ができる可能性があるとすればコンコさんぐらいだ。本来コンコさんは俺を船に連れて行くまで行ったら脱出して鍾音岬の集合場所で待機する事になっているがどうやら俺の身を案じて近くにいてくれたらしい。おかげで死なずに済んだ。
ニノトが連れて行ったのは前回あの船を偵察した際にニノトが俺達を追いかけて来た所だった。船から見下ろしてもここは死角になっていて見えない。だから俺達は撤退時にここに身を隠した訳だが、彼は何の思惑があってここに来たのだろう。
とにかく、コンコさんは俺をサポートできる範囲にいる。しかしまだ具体的にどこにいるかまでは分からない。まだ船かもしれないしもう傍に来ているかもしれない。いずれにせよ少し時間を稼いでおいた方がいいだろう。ニノトは俺の頭を掴みながら話しかけて来た。
「お前、あの船に来たのは2回目だろう?誰の差し金だ」
どうやらニノトは俺のバックに誰がいるのかまでは掴めていないらしい。情報は命だ。あまりいい加減な事を言っても危ないが、素直に話しても危ない。今は時間を稼がなければ。
「俺の知り合いにお前みたいな海河童いた覚えがないんだが、どこかで会ったか?」
「質問するのは俺だ」
そう言うとニノトは舌で首元を嘗めた。まるで大きな剣山で力強く撫でられた様な激痛が走る。患部に手を当てるが外傷はない。今のが魂を啜ると言う事なのかもしれない。
「お前…幽霊じゃないな?ますますおかしい」
あまりの激痛に苦しむ俺の顔を見るとニノトはニヤリと笑う。
「死に急ぐことはないだろう。話せよ」
コンコさんはまだだろうか…。さりげない仕草をしながら周りを見るがこの辺りには地面と岩肌とボール遊びをしているコムロぐらいしかいない。あるいは近くにいるが機会をうかがっているのだろうか。確かに何をするにしたって俺が奴の傍にいるのでは巻き添えをくらってしまう。だから助けようにも助けられないのかもしれない。
仕方がない、ここは何とかハッタリをかまして隙を作るか。俺は覚悟を決めてニノトに放つ言葉を選ぶ。…そうだ、あの名前がいい。こ一か八かだ。
「…ヒラエツキ様」
その名前を出すと俺の頭を掴む手の力が緩んだ。ゆっくり振り返るとニノトが苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべているのが見えた。
「…ヒラエツキ様、だとぉ…」
効いている。しかしまだ疑念は拭えていない。もう一押しだ。
「ネズミを捕らえたつもりで得意になっていた様だが勇み足だったなぁニノト。ハウサからは何も聞かされていなかったのか??あるいは特使をこんな風に扱うのが海河童の作法だとハウサに教わったのか??」
「く、う……」
海河童の頭領の名前を出されるとその赤い肌から赤みが薄れる。完全に握る手の力を弱め2歩、3歩と後ろに下がる。
その時、コムロが投げて遊んでいたボールが突如大男に代わって飛び出し、動揺しているニノトに猛烈なタックルを食らわせた。鈍い音がして彼は海に投げ飛ばされる。その大男は神話で見た事ある力持ちの神様だった。
「コンコさん!」
「ふう…一時はどうなるかと思いましたよ。グッジョブです、綾葉さん」
口調は変らないが大男の声色で話すので少し違和感がある。しかし彼女…今は彼?は紛れもなくコンコさんだ。
海に落ちたニノトからの反撃に備えるコンコさん。俺は後ろに下がって様子を伺う。やがて浮かんで来たニノトは手足をバタバタとさせている。何をやっているのかと2人で警戒していたがどうやら溺れているらしい。
「助け、助けてくれ…っ!」
信じられない光景だった。河童、ましてや海河童と呼ばれる種族が目の前で海で覚えれている。そんな事があるだろうか。にわかには信じがたいが事実目の前でニノトは溺れていた。コンコさんはニヤリと笑う。
「泳げない海河童ですか。しめしめ、彼がここで死んでくれればニノトに化けて潜入できますよ」
「え、ええ…そう…ですね」
「たす、助けてくれっ…たす、ガボッゴボゴボ…」
最初は情に訴えて隙を作るための演技なのかと思ったがその声にも気泡が混じり始めた。俺は目の前の光景に心が揺らぐ。
「ふむ。万が一仲間に助けられては事です。今のうちにトドメを差しておきますか」
そう言ってコンコさんは何かを探し出した。彼女は至って冷静だ。しかし…俺はそうでもなかった。気が付けば駆け出し、溺れるニノトの手を掴んでいた。
「ガボッゴボッ…!!」
相手は海河童。人間よりも一回りも二回りも大きい。体重も俺よりずっと重く、掴んだはいいが俺ごと引きずり込まれてしまった。
「綾葉さん!!」
ニノトは俺に必死にしがみつく。だ、駄目だ…これじゃ一緒に溺れてしまう。軽率だった。しかし…。
1匹の海河童が飛び込んで来たかと思えば俺とニノトを一緒に陸地に引っ張った。俺は咳き込み、ニノトはまだ海の中にいると思ってじたばたしている。コンコさんが2,3度ほど引っ叩くとようやく大人しくなった。
「あんた金槌だか何だか知りませんが、海河童は水中でも呼吸できるんですよ。そんな事も知らずに生きて来たんですか?」
静かにはなったがまだ目の焦点が定まらず呼吸も変だ。しばらくはあのままだろう。コンコさんはため息を付くとこちらにやって来て彼処さんの姿に化けると俺の頬も平手打ちした。
「あんたは助けに来たんですか、死にに来たんですか!?」
「す、すみません…」
「はぁ……。まあ、でもモロコシさんでも同じ事をしたでしょうね。でも、もしニノトのアレが演技だったら私もあなたも一緒に窮地に陥っていた所でしたよ。全くもう…」
相当焦っていたのか、本気で怒っているのか何にせよ珍しく狐の耳を隠せていない。やがて自分でも気づいた様で頭を撫でると耳が消えた。まだ少しぼーっとしている俺の手を掴んで体を起こすともう一度ニノトの方に向かった。
「ニノト、命が惜しくばもう私達に手を出さない事です。多勢に無勢では私もひとたまりもありませんが、あなた1匹ぐらいなら首をへし折るぐらい訳ないと思ってください」
返事もせずぼーっとしている彼をおいてコンコさんは船に戻って行く。途中でニノトに化けた。今度は細部までしっかりと模倣されていて全く見分けがつかない。そうして再び船内に侵入する。仲間に食べなかったのかと尋ねられると「まずくて食えたもんじゃない」と言って返事を返していた。
周りに怪しまれない様に注意しながら船を進み、モロコシさんの囚われている部屋の前までやって来た。
「待て」
声がした。振り返ると他の海河童より重厚な鎧を着た他に比べるとやや小柄な海河童が現れた。声だけの特徴で言えば非常に高齢な印象だ。左目に切り傷がある。
「久しぶりだな、コンコ。相変わらず達者な様だが俺の目は誤魔化せんぞ」
知り合い…?コンコさんはフフッと笑うと姿を3つ又の狐に姿を変えた。クリーム色の毛にまるで山の草原の様に美しい毛並み。大きさは大人の馬よりわずかに背丈が低い程度。3本の尾が扇の様に開き、ハウサを見据える。あまりに美しく思わず息を呑んだ。
「出世したなハウサ。パウチは元気にしているか?」
声は透き通った高貴な青年の様だった。
「まあな。頭領の身は引いてもまだまだ衰えんよ。まあ、積もる話もあるが今は出航準備で忙しい。また後程会おう。連れて行け!」
そう言うと駆け寄った海河童達に連れて行かれる。コンコさんは姿を彼処さんに変える。彼女が抵抗せず大人しくついて行っているので現状は言う通りにするしかないんだろう。俺も大人しく一緒に海河童に案内されるままについて行った。
俺達は牢屋に入れられた。何というか映画で見る様なイメージではなく個室に無理矢理鉄柵を設けて牢屋にしたような所だ。逃げられないと言う自信からなのか仕事か雑なのか私物は取られなかった。
「ここも元々は幽霊たちを入れておくための場所だったんでしょうか」
「いえ、恐らく何ら罪を犯した仲間を入れるための場所でしょう。今はいない様ですが」
コンコさんは鉄柵をぺちぺちと叩いている。見張りの海河童に余計な事をするなと言われ大人しく一緒に隅に座った。見張りがいるの下手な事は話せない。ここはコンコさん頼みだが…現状を打破する方法などあるのだろうか。
結局、何もできる事が無くコンコさんは無言のまま船は出航してしまった。海に逃げた所で泳げる海河童に追いつかれ捕まってしまう。俺達の救出劇は失敗に終わった。こうなる事は覚悟の上だった。モロコシさんを助ける事ができず残念には思うが仕方がない。
何時間経った頃だったか、波に揺られながらうとうとしていると料理が並べられたお盆が運ばれて来た。妖怪の食べ物と思ったが見た目はまともで人間が食べる様な普通の料理だ。
「おやおや、これはご親切に」
牢屋の下の方にある隙間から通して料理が渡される。コンコさんは料理を一切俺に渡さず1人でさっさとパクパク食べ始める。いくつか手をつけたかと思えばそれ以上手を付けずに隙間から料理をお盆に乗せて返した。
「なんだ、もういいのか?」
「毒入りじゃないですかこれ」
「遅効性だし味にも匂いにも問題はなかったはずだったんだがなぁ。まあいいや。…実はこの後、ハウサ様とあんたが決闘する話になってるんだよ。目の傷の仕返しがしたいとかそんなので。あんたに勝たれると俺達は色々と困るんだ」
「はあ。八百長やって欲しいなら最初からそう言ってくださいよ。私も命が惜しい。仲間のの面前で頭領の恥をかかせる様な真似はしませんよ」
「そうか。それを聞いて安心した。ちょっと毒の入ってない料理をちょろまかしてくるから待ってろ」
そう言って見張りの海河童は持ち場を離れた。コンコさんはため息を付いて俺の耳元で囁いた。
「大変です綾葉さん。私達、勝っても負けても殺されますよ」
「短い付き合いでしたがお供できて光栄でしたよ、コンコさん」
「肝が据わってるのは良い事ですが諦めるにはまだ早いですよ。実はこの船、潜水艇があるみたいなんです。海洋調査、逃げた河童を追うため、用途は色々みたいですが。それを使えば脱出できそうなんです」
「でも、そもそもどうやって脱獄するんです?」
「まあ耳を貸してください」
俺はコンコさんの話を聞く。極めて危険だがモロコシさんを助けて潜水艇で逃げるまでやるには他に方法がない。俺は改めてお互いに作戦を確認して見張りの海河童の帰りを待った。これが失敗すれば今度こそ命はない。深呼吸をして心を落ち着かせる。コンコさんは僅かに震える俺の手を握ってくれた。
絶対に成功させる。お互いに決意を新たにして待つ。やがて見張りの海河童が帰って来た。手には少量の料理がある。
「悪いな、悪酔いした友達に絡まれてこのぐらいしか持ってこれなかった」
コンコさんは鉄柵にもたれかかると海河童の方を見る。
「へえ。君、若いねえ。肌の張り、艶、ごつごつした筋肉。最近大人になったばかりかな」
「な、なんだ気色悪い。ご飯はここに置いとくぞ」
コンコさんは頭に葉っぱを置くと海河童に化ける。艶めかしいボディラインの海河童だ。
「こういうの、まだ知らないんでしょ?私初物が好きでさ」
鉄柵の隙間から手を突っ込んで見張りの海河童の肌に触れる。彼の喉を鳴らす音がここまで聞こえた。
「私知ってるんだ。海河童は若いうちは苦労するって。何でもかんでもいい所は年配の海河童に取られてさ。美味しい食べ物、飲み物、お金、何でも。娯楽なんてありゃしない。飢えてるんだろう?」
そう言うと目を大きく開かせた見張りの海河童が近付いて来る。彼女は両腕を海河童の頭に回すと勢いよく手前に引っ張って鉄柵に海河童の頭をぶつける。やや作りが雑だった気がしたが飽くまで海河童を捕らえておくための牢だ。強くぶつけたのに壊れる事はなく、海河童は頭をぶつけたショックで気を失ってしまった。
俺は腰に付けた鍵を取るとそれをうまく使って鍵を開ける。コンコさんは姿を彼処さんに戻して俺が鍵を開けるのを待つ。いくつかあるので少し時間がかかる。
「手慣れてますね」
そう言うとコンコさんはニッコリ笑う。
「まあ元々私の趣味ですし」
俺は苦笑いしいた。そう言えば化け狸にモロコシさんお先祖を守る様に頼まれた後、色仕掛けをしに行ったりしたとか言ってたなあ。しばらくしてふと気になる事ができた。
「あれ、ひょっとしてその姿でモロコシさんに近付いたの…」
「種々家の長男には毎回好みを探りながらちょっかい出しに行ってますよ。全員難攻不落で落ちませんが。モロコシさんも全然ダメでしたね。この家系は難しい」
楽しそうに言うコンコさん。本当に反省してるんだろうか…。今の彼女を見ればそう基本的に善良そうに見えるが、元々悪い妖怪だった頃の性質が完全に抜け去った訳ではないようだ。モロコシさんが聞いたら何ていうだろう…。
俺が鍵を開けるのに手間取っているとコンコさんは身を屈んで独り言の様に呟く。
「モロコシさんの祖父とは一度恋仲になりましたよ。私を妖狐だと看破した上で付き合ってたみたいです。うふふ。あの頃は楽しかったなぁ」
「どうして別れたんですか?」
「振ったんですよ。私、飽き性ですから」
そう言うコンコさんは少し寂しそうだった。
「そう、ですか……。あれ?そう言えばコンコさんって元の性別って…」
「うふふ、私は相手の好みを調べて化けるんです。ハウサも例外ではありません。この意味、分かります?」
あれが本当の姿じゃないと言いたいんだろうか。あれ?でもそれだとハウサの好みが…えっ?
カチャリ。ようやく鍵穴に適した鍵を見つけ出せた。
やがて鍵が開くと葉っぱを使って俺らしい人形を牢屋に置き、海河童にも葉っぱを付けると容姿を彼処さんに変えた。その海河童を牢の中に入れると彼処さんは見張りだった海河童に化け、俺にはコムロのお面を被る様に指示する。
次の交代が来るまで待つと言う事で待っていたが俺は鉄柵の向こうにいる俺を眺めた。
「コンコさん、鉄柵の向こうの俺のクオリティ低くないですか?」
髪型だけ辛うじて似ているがそれ以外が全体的に似ていない。その辺のあり物で作った雑な案山子と言う印象だ。アレでごまかせるんだろうか。
「そうですかね?」
そんな会話をしていると牢の中の海河童が目を覚ました。ほぼ同時に交代の海河童がやって来る。
「お疲れー。交代の時間だよ」
「はいよー」
そう言って俺とコンコさんは部屋の外に出ようとする。元・見張りの海河童は鉄柵に身を乗り出して叫ぶ。
「そいつだ、そいつが化け狐だ!」
「あん?」
コンコさんは肩を竦めて呆れ笑いをする。
「こいつよほどハウサ様が怖いと見えるな。さっきからずっとこうなんだ」
「違うんだ、聞いてくれよ!ほら、化け狐が逃げちまうよ!捕まえてくれ、俺は海河童なんだ!」
「はいはい、分かったから引っ込んでろ」
「違うんだ、俺は化け狐じゃない!そいつが化け狐なんだ!」
そんなやり取りをしているのを背に俺達は牢を後にした。コンコさんもそうだがどうやらあの海河童は似ても似つかない俺の人形について全く気にもしていない様だ。何か腹立つな。
この後の作戦はコンコさんが脱出用の潜水艇を確保し、俺はモロコシさんを連れて潜水艇に向かう予定だ。まずは合流地点の確認に向かう。余裕があれば潜水艇の鍵は俺が手に入れる事になっている。何でも同じメーカーの潜水艇の鍵であればどの潜水艇で使っても起動できてしまうらしい。
コンコさんの偵察によれば職務中の海河童を除けば大半の海河童は中央のホールで酒を飲んだりご飯を食べたりして騒いでるらしい。かなり盛り上がっている様でここまで聞こえる。
「「!!!!!!」」
俺達は立ち止まり目の前に現れたそれを凝視した。非常にまずい時に出くわした。ニノトだった。コンコさんは俺の袖を引っ張って後ろに下げると身構えた。
「ま、待て!俺は争いに来たんじゃない。本当だ。これを見てくれ」
そう言うとニノトは手に2つの鍵を握っていた。
「潜水艇の鍵だ。まさかもう脱獄してるとはな。だが丁度いい。こいつを使って早く逃げろ」
俺とコンコさんは顔を合わせる。
「俺は誇り高き海河童だ。同胞の裏切りにはなるが命を救ってくれた恩義に報いたい。潜水艇は2人乗りだ。俺はお前らとは別方向に逃げる。そうすれば仮にバレても追跡は分散できるはずだ」
コンコさんは無言でニノトを睨んでいる。まだ信用できていないらしい。無理もないが…。俺は前に歩み出るとニノトから潜水艇の鍵を受け取る。コンコさんは困惑しながら俺の独断行動を眺める。俺は構わずニノトに頭を深々と下げた。
「モロコシって人を助けたい。無理は承知の上だ。助けて欲しい」
「お前…」
「綾葉さん…!」
「コンコさん、彼なら多分大丈夫ですよ。職務中でもないのに上の海河童に混じって酒も飲んでません。信用できます」
『職務中だから酒を飲んでない』可能性もある。だがハウサが仕向けたのならこんな回りくどい事をせずとも俺達を直接手にかければいい。根拠は弱いが、今は少しでもモロコシさんを救出する手と情報が欲しかった。
「……分かった。だが廊下で立ち話してちゃまずい。潜水艇の使い方の説明も兼ねて地下に行くぞ。そこで作戦を練ろう」
元はと言えばモロコシさんは海河童に不当に魂を連れ去られているのだ。コンコさんが彼を信用したがらないのは無理ないが、いざとなればニノトは作戦に参加させずに逃がせばいい。警戒は解かないがひとまずは話だけでも聞く気になってくれた様だ。
海河童の作る潜水艇の操作法は思ったほど複雑ではなかった。機械には疎いらしくコンコさんはずっと首を傾げていた(潜水艇で逃げようって言い出したのコンコさんだよね?)が、俺なら操縦できそうだ。
それからいよいよ本題の救出作戦。本命のコンコさんの作戦は言わせず飽くまで俺の考えた救出法を話したがニノトは首を横に振るだけだった。
「まずは口を挟まず聞いてくれ。ハウサ様は妖狐と人間の侵入、元から募らせてる仲間への不信感からつまみ食いされない様にモロコシを自身の寝室に連れて行った。ハウサ様の寝室に向かうにはホールを通らなきゃいけない。はっきり言ってお前達がどんなに熟達の忍びだって見つからずに連れ出すのは不可能だ」
ホールにはニノトの様に妖術を見破る様なエリートがいて、壁抜けもコムロのお面を用いて誤魔化すのも難しい。俺は頭をわしゃわしゃと掻いた。
「いいか、そこで俺の提案はこうだ」
そう言うとニノトの思いついた作戦を言い出した。俺達はあまりに無謀な作戦に思わず驚いた。しかしコンコさんでもそれ以上に良い案は浮かびそうにないとの事だった。
「…しかしニノト、この作戦で本当にいいんですか?おそらくあなた死にますよ?」
「俺は死なねえさ。いいか、もうここを出たらお互いに何があってもお互いを助けない。いいな?俺はお前らと心中はごめんだからよ。それじゃ、生きてたらまたどこかで会おうぜ」
そう言ってニノトは地下を出て行った。俺達も作戦実行に進んだ。
パソコンが重くて小説執筆もままならない!次作はもうスマホで書くべきか、いっそネットへの投稿を諦めて作文用紙に書き始めるべきか…。