5・ヤマダ(仮)は自由になる
「これで私は、ヤマダ(仮)は自由になりました。」
満足気なヤマダ(仮)の様子に、金色の玉……封印の神珠の魔王は、あの衝撃的な出会いを思い出す。
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「ふむ、上手く封印できましたね。」
手の中の金色に輝く“神珠”を見て、ホッとしたように呟く女の声。
その女……ヤマダ(仮)に背後を取られ、己を封印しようとする。、強烈な力を背に感じたその時。
黙ってやられるわけにはいかないと、魔王は最後の悪足掻きに出た。
あの一瞬で魔力を最大出力し、“防御”のみに全力をかけたのだ。
しかも、ヤケクソ気味に肉体を捨て、魂と精神のみを守ることに全フリする。
結果、肉体だけがヤマダ(仮)の持つ、神珠の深層に封じられ、魂と精神は浅い表層部分に留まった。
身動きは取れないが、意識はあり、通常通り思考が可能な状態になった。
魔力も完全には封印されておらず、初級程度の魔法が使えた。その為、感知系と探知系の魔法で、外の状況を、狭い範囲だが把握する事が出来た。
『この娘、聖女と名乗ったな。となると、我を封じたのは神が作った神珠か。かつての魔王を封じた物と同じ物……。ヒト族め、またしても神の意に背き、愚かな使い方をするものだ。しかし魂と精神が残せたのは重畳。流石は我!このまま完全に封印されたフリをして、いつしか封印を破壊し目にもの見せてくれるわ。』
ヤマダ(仮)は、そんな事を企んでいる魔王イン神珠を懐にしまい、魔王城を脱出する為、移動し始めた。
魔王は驚愕することになる。
ヤマダ(仮)は、厳重な監視や警備の死角を巧みに利用して身を隠し、完璧に気配を殺して回避していった。
エゲツのない魔法トラップさえも、潔癖なほどの慎重さで看破し、時には凹凸の殆どない壁を素手で登り下りし、道なき道を大胆に進んでいく。
魔法や特殊なスキルなどは一切、使わずにである。
一見して、小柄で貧弱そうな体に見えるが、しなやか筋肉と無駄のない動作、磨き抜かれた技術がそこにあった。
『何なのだ、この娘……怖っ……。わ…ァ…ァ…。』
この世界の生き物は、大小の差があれど、必ず魔力を持って生まれてくる。
その魔力を元に、“魔法”や“特殊スキル”を使用し、それに依存して生活している。
戦いにおいても、筋力体力技術は鍛えるが、このヤマダ(仮)ほど変態的にではない。
ある程度、筋力等を鍛えたら、魔法や特殊スキルを伸ばす方に、注力していくのがセオリーである。
その方が手っ取り早く強くなれるからだ。
魔王が怯えている間に、ヤマダ(仮)はあっさりと、城の外に出ていた。
魔力に依存せず、己の肉体を極限まで鍛え上げ、無駄の削がれた技術を身につける。
どれほどの時間と血の滲む修練が必要か、魔王には想像も出来なかった。
ヤマダ(仮)は、懐から金色に輝く神珠と叩き折った魔王の角を出した。
ここで初めて、真っ正面からヤマダ(仮)と向き合う形となった。
「さて、依頼主に報告しなくては。達成の信憑性を高めるために、この角とこの金色の、金◯を、」
「若い娘が言ってよい言葉ではない!!!」
思わず魔王はツッ込んだ。
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それからヤマダ(仮)の奇行を、ツッ込まずにいられなかった魔王は、何やかんやあり、少しずつ話すようになって今に至る。
「そうでした。魔王さん、はいお土産です。」
「ほう。我に土産とは、殊勝な心がけだが、何だこれは…文鎮か?」
魔王イン神珠の前に、カーデン王家の紋章が施された箱を置く。
中には水晶でできた文鎮が入っていた。
「依頼主が、魔王さんを封印するための神珠と言っていました。私は神様に無理やり渡された本物を隠し持っていたので、必要なかったのですが。何となく今回の報酬として頂戴してきました。」
「一応聞くが、どこに隠していたのだ?確か、着の身着のままで召喚されたと言っていなかったか?」
「召喚先がどんな所かわからなかったので、安全の為に神様から頂戴して、すぐ丸飲……いえ、乙女の秘密です。」
ヤマダ(仮)は、恥ずかしそうにモジモジして言葉を濁した。
『この大きさを丸飲みにしたのか……さぞかし神も驚いただろうな。え、待て。丸飲みしたヤツに、我入れられてるの?出す時、此奴どこから出したの?』
上から?下から……?
魔王は考えるのをやめた。
「自由になったと言ったが、これからどうするのだ?ヤマダ(仮)よ。教会にでも身を寄せるのか?」
「いえ、宗教だの政治だのに、関わってもよいことはないので。幸運な事に、私を死んだ事にしてくれたようなので、このまま関わらない方向性でいきたいです。」
「ふん、この魔王を封じた聖女を……。貴様はそれでいいのか?」
「良いも何も。私をこちらの世界に呼んで下さったお陰で、“厄介なシガラミ”をすべて捨てることができました。感謝しかありません。まぁ、そのお礼にしっかり“仕事”をこなしたので、さっくりお役御免させてもらい、私はこのまま自由ライフに突入したいと思います。」
ヤマダ(仮)は、ふむと思案しながら、藁が詰まったベッドからシーツを剥ぎ取る。
「しかし、キラキラ自由ライフにも、まずは資金が必要ですね。Hey、シ◯!この世界で手っ取り早く、稼ぐ方法を教えてください。」
「我を何故、臀部呼ばわりするのだ。……それならば、冒険者にでもなればよかろう。冒険者ギルドというものに加入すれば、身分証も手に入る上に、強ければ金も稼げる。貴様にピッタリだろう。」
「こんなか弱い少女に、そんな厳つい職業を斡旋するとは。これだから一昔前に流行ったような、AIシステムは駄目なんですよ。」
「我は今を生きる最新の魔王ぞ!?訳の分からんモノと一緒にするな!」
剥がしたシーツをゆるく体に巻くと、ヤマダ(仮)は壁に寄りかかり、膝を立てて床に座り込んだ。
ヤマダ(仮)はベッドで眠らないし、寝転がらない。
「キラキラ自由素敵ライフについての詳細は、明日考える事にします。今日はもう休みます。」
「うむ、よく休め。」
「ヤマダ(仮)の、キラキラ自由ハッピーライフはこれからだ…ぐぅ〜。」
ヤマダ(仮)は目を瞑った瞬間、眠りに落ちたのだった。