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その召喚聖女はちょっとヤバめです。  作者: ハラ カナウ
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2・聖女もどき召喚

「つまり、私は元の世界には帰れない、ということでよろしいですか?」


 少女の、温度を感じさせない平坦な声。

 王との拝謁のあと、少女は王城の応接室に通された。

 少女の対面に座る美貌の王太子は、申し訳なさそうに表情を曇らせる。


「そう……いうことになります。こちらの都合で呼び寄せておきながら……くっ。」

「アルベルト殿下、お気を確かに……。聖女様、こちらも切迫した事情があるのです!どうか殿下を責めないで下さいませ……。」

「いいんだ……ユリアナ。聖女様には我々を責める権利がある。」


 悲しみに耐える王太子の隣には、白銀の髪の妖精のような女性が座っており、王太子を庇うようにキッと少女を睨みつけた。


「いえ、責めてはいません。私は私の状況を正確に把握する必要があり、これは確認です。まず第一に、私は“マオウ”というターゲットを始末するために、この国に呼ばれた。でよろしいですか?」

「たっ、たーげっと?始末……、いえ、魔王は不死の魔族なので殺すことはできない。この封印の神珠で封印するのです。」


 ふむ、と少女は王太子が持つ、王家の紋章が施された箱の中の、拳サイズの水晶の玉を観察する。


「この神珠は、異世界より現れた聖女にしか使うことが出来ないと、言い伝えられているのです。」


 実はこれは真っ赤な偽物であり、この少女が本来、神より授け持たされる封印の神珠を、持っていなかったために急遽、王太子が用意した物である。

 ちなみに、これは王太子の執務室に、古くから置いてあった水晶の文鎮である。


 侍女が香り高い紅茶を淹れ、それぞれの前に音も立てずに置いていく。


「聖女様、お疲れでしょう。この茶葉はこの国の特産のひとつなのです。気に入ってくれると嬉しい。」

「いえ、結構です。敬語も必要ありません。それよりマゾクとは?」

「ッッ!アルベルト殿下のご厚意を……!」

「良さないか!……魔族とはこの世界にとって恐ろしく邪悪な種族。全ての種族……我らヒト族はもとより、獣人族、エルフやドワーフなどの亜人種族にとっての天敵。魔族はこの世界を瘴気という毒で汚染し、更には魔物をけしかけて平和な国を脅かし滅ぼす危険な者達。魔王はその種族の絶対的な王なのだ。」


 ふむふむと少女は頷いて聞いている。

 少女は召喚された直後と同じように、目元を前髪と分厚いガラスで隠し、口元を紙か布かわからない物で覆い表情がわからない。

 王太子の婚約者であり、将来の王太子妃として、半ば無理やりこの場に居座った、白銀の公爵令嬢ユリアナは少女を汚らしい虫のように思っていた。

『なんなの、この見窄らしい小娘は。コレが我がカーデン王国が呼び出した聖女だなんて!他国に嘲笑れるわ。』


「理解しました。魔王という者を、その玉に封印するのが私の仕事。なるほど。それでは第2に、私は元の世界には帰ることができない。でよろしいですか。」

「そうだ。残念ながら元の世界に戻る術はない。伝承で伝えられている聖女は、当時の魔王封印後、この国で一生を過ごしたとある。……当代の魔王を封印した後の聖女様の生活は、教会が責任を持って支えていく。もちろん我ら王家もだ。」

「そうですか。理解しました。」


 なるほどなるほどと、頷く少女。

 何を考えているかさっぱり読めない少女に、王太子は落ち着かない。

『何なのだ、この娘は……全く気味が悪い。まあ、いい。適当に煽てて、この偽の神珠を持たせ、派手に魔王国に送り出せば、多少は面目も立つ。こんな魔力も戦う術もない、ハズレの異世界人など国を出た瞬間、魔物の餌になってくれるだろう』


 王太子は内心をおくびにも出さず、少女を労るように微笑みながら侍女を呼ぶ。


「聖女様、今日の所はこの辺りで。部屋と食事を用意させたので、どうかゆっくり休んでほしい。」

「ありがとうございます。折角ですが、食事は用意して頂かなくて、結構です。」


 窓の外は、すでに橙色に染まっていた。

 少女は侍女に促され、座っていたソファから立ち上がる。

 退出する際、厚意を無下にする聖女に憤る公爵令嬢と、それを抑える王太子に向き直り、深々と頭を下げた。


「聖女様?」


 慌てて立ち上がる王太子を見据え、少女は淡々と言った。


「魔王封印のご依頼、確かにお受けしました。近日中に必ず、達成しお知らせいたします。」

「はっ?え……ああ……」


 戸惑いつつも、何とか返事を返す王太子。


「それと、“聖女”という役割は理解しましたが、私には恐れ多い呼び名です。」


 少女は、ですが、名がないのは不便ですかねと呟き、


「私のことは、“ヤマダ(仮)”と呼んでください。」


 大真面目な声で言った。



 そしてその夜、ハズレ聖女である少女は、王城から姿を消したのだった。




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