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その召喚聖女はちょっとヤバめです。  作者: ハラ カナウ
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1・聖女召喚

 そこは東の大陸にあるカーデン王国。


 カーデン王国の王族が住まう王城。

 その一角にある、本来は夜会などで利用される大広間の床一面には、魔法陣がびっしりと描かれていた。

 その魔法陣の中心部分に、王家の後継である王子達をはじめ、宰相や貴族の重鎮達、そして王家に仕える王宮魔術師達が一心に魔力を注いでいる。

 大広間のひな壇にある玉座では、現国王と王妃、幼い姫が固唾を飲んでその様子を見つめていた。


 魔術師達の唱える詠唱が佳境に入り、荒れ狂う魔力が渦を巻き圧縮され、光の塊となった次の瞬間、パンと音を立てて弾けた。

 王宮魔術師長が叫ぶ。


「聖女召喚の儀、成功にございます!」


 魔法陣の中央で弾けた光の粒が集結していき、人の形のように変わっていく。

 オオッと歓声が上がり、大広間にいる全ての視線がその光の塊に注がれる。

 塊が完全に人型になり、眩い光を放ちながら、まるで花が咲くように開いたあとには…。


 ちょこんと少女が、足を折りたたんで(正座スタイル)姿勢よく座っていた。


 シンッと静まり返る大広間。

 誰一人、動くことができず固まっている中、十歳になったばかりの末の王子が呟いた。


「あの人が聖女さま?なんかお話とちがくないですか……?」


 すぐ隣の、歳の近い王子に囁いた末の王子の声は、静まり返った大広間によく響いた。

 その声に全員が我に返り、慌てて各々の役割に動き出す。


「聖女様。この度は我々の呼び掛けに応えいただき、まずこのカーデン王国を代表し王太子であるアルベルト・カーデンが感謝を申し上げます。」


 少女の正面に、輝く金髪と王家特有の濃い碧眼の美しい容姿をした青年が膝をつき、頭を垂れた。


「……ことばが……」

「異世界より神に選ばれし女性を、この地に呼び寄せる“聖女召喚の儀式”というものがあり、その儀式により貴女様がここに参られたのです。……私達の言葉が通じているのは、きっと神からの贈り物でしょう。」


 聖女召喚。

 カーデン王国に古くから伝わる伝承であり、この世界に存続の危機が訪れた時、異世界の神子を呼び寄せ“聖女”とし、世界を救う、神の慈悲なる奇跡の儀式とされている。


 伝承の聖女は、特別な神力しんりきと神より授かった混沌を封印する“神珠しんじゅ”を持ち、艶やかな黒髪に象牙色のツヤ肌、夜空のような瞳を持つ女神の化身のような美しい女性とされていたが……。

『所詮、伝承か。醜い上に、神力どころか僅かな魔力さえ感じない……。』


 少女の容姿はどう見ても、伝承とは遠いように思えた。

 伝承にある通り、確かに黒髪ではあるが艶はなく、パサついた髪を顔の左右の下で結んでいる。

 目元は重い前髪と分厚いガラスで隠れている上に、口元は紙のような布のような不思議な材質で覆われており、顔の造形がわからない。

 体つきも小柄で凹凸がなく、生地は上等そうだが野暮ったい意匠をキッチリと着込んでいる。

 何より、神から与えられるはずの神力も“神珠”も持っているようには見えず、庶民でさえ少ないながら当たり前に持っている魔力すら全く感じられなかった。


「王より聖女様へお言葉があります。……失礼ですが、聖女様のそのお顔の物を、外すことはできますか?」


 顔を覆う物を取ると、実は美しいかもしれない。

 素直に頷き、顔を覆い隠す物を外した少女の素顔は…。

 平かった。

 一重瞼に糸のように細い瞳、小さな鼻と口。

 体同様、凹凸がなくのっぺりした地味顔だった。


「聖女様、こちらにどうぞ。」


 王太子のエスコートで、王の玉座の前に導かれる。

 召喚された少女の全てに、玉座の王は顔を僅かに顰め、王妃と幼い姫はつまらなそうに見つめた。

 大広間の全員から落胆が感じられた。


 “ハズレ”を引いてしまった。


 誰もがそう思ったが、膨大な魔力と莫大な税を使用し、更に自国の民や他国にも、儀式を行うと大体的に公表してしまった手前、無かったことにも後戻りもできない。

 ハズレを引いたとバレたら、他国から嘲笑され、王家の威光が陰る。

 とりあえずこの“ハズレ”でいくしかない。

 聖女召喚に成功したとし、とっとと例の国に送り出してしまおう。

 国を出たらこんなハズレ、魔物にでも食べられてすぐ死ぬだろうから、折を見て聖女が封印失敗したと公表し、全責任を負わせよう。

 死人に口無しと、王は瞬時に頭を巡らせ腹を決めた。


「よくぞ、我々の呼び掛けに応えてくれた。ハズ……んんッツ!聖女よ。」


 王はまだちょっと動揺していた。


 少女は大人しく、王の言葉を聞いている。

 この時、誰もが落胆しすぎて気付いていなかった。


 異世界から“誘拐”と言っても差し支えない召喚に、全く動じていない姿に。

 突然の非現実に、動揺も戸惑いもましてや悲しみなどの、一切の感情の動きがないことに。


 少女の冷めた黒い目は静かに、大広間の者達を観察していた。

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