黒歴史は忘れた頃にやってくる 4-2
その日私と旦那様はお姉様達に献上?したことになっている、
お屋敷の「離れ」に呼び出されたのだ。
ええと…
悪の女幹部ルフェリナの妹であるミルマーヤは、
悪の世界にも精通しており(してない!)強い言霊(たぶん口上文のこと…)を、
作る事が出来る様になってしまっていた。
そして悪の正義を貫くギルクレイザーにその強い言霊を造れることを、
気に入られてしまい日夜新しい言霊を作ることを求められている。
(も~忘れさせて!)
しかしそう簡単に強い言霊(やめてこれ以上私の羞恥心を刺激しないで!)を、
創り出す事は出来ず、仕方なしに言霊の代わりに旦那様に(公然の)秘密で、
領内の情報を漏らす役割を命令され、その資料を届け続けているのだそうな。
(そーだったっけ?わかんない。そもそもそんな不信に思う資料が、
ドバドバ出てくるほどフルートルゥフ領は治安が悪い場所じゃないよ!)
…私そんな事してたっけ?と首をかしげたくなる衝動に駆られつつ、
何時の間にやら看板が設置されていた「離れ」に向かったのだった。
そして我が家の離れはOldnestと刻み込まれた看板が作られ、
設置されていたのだ。
…え?
なんで離れにこんなものが?
等と言った言動はこれまた意味をなさず、
入り口には黒子(第3王子の親衛隊)が敬礼をして、
私とカラードを迎え入れて下さったのだ。
勿論それは何時もの事であって驚く事じゃないはずなのだけれど…
私は失言しない様に気にしなくてはいけない時間が始まるのだ。
何を言ってどうなるか解らないから仕方がないのだが…。
私と旦那様がそのOldnestの会議室に入った後、
「時間がないのだ!会議を始める」
「「「「「はっ」」」」」
5人の各部門の部下を前に悪の会議が始まるのだ。
当然何時もの「失言」と言う名の情報漏洩をしてもらって、
フルートルゥフ領内でも対策をする為だったのだけれど…
その「作戦会議」はちょっと聞きたくない事だったのである。
つつーと移動して悪の幹部千里眼のルフェリナの隣でヒソリと、
言葉を漏らすのだ。
「ね、姉様?コレは一体?」
「それがねぇ…面白い事になったのよ」
グランユール内戦地帯の向こう側。
どうゆう訳か大国オースヴァイン王国が乱れているらしくって、
その国境の兵士が激減してしまったとかなんとか?
近くて遠くの話なのだけれど?
ガファッシャルド王国からの圧力はわがフルートルゥフの抱える、
国境から仕掛けている訳だけれど基本的には流れ弾の処理だけなのだ。
そうすると今まで以上に国境に張り付ける兵士は減っていてね?
それが原因で4バカ軍はのっそりのっそりと軍を移動し始めてしまったのだ。
しーかーもーそのリーダー格にいたグループは変質して、
昔のグランユール連合王国の王子たちがそのまま代表として、
立つ形になったのだ。
まぁ…基礎も無いのに民衆が誰かをリーダーとして戦えるわけじゃないから、
ヒロインであったミトラ・ネールがいた集団は生き延びるために、
指導者を必要として王子を招き入れて結局戦う事になるのだけれどさ。
4大バカ軍はそれはそれは必死に相手を征服しようと頑張って、
戦力のすり潰しを行ってしまった訳だ。
まじかぁ…
国境からオースヴァイン国境からの兵士を引き離しての戦いは、
熾烈を極めたのだけれどこの4バカ軍の戦いはあっけなく終わる。
オースヴァイン王国だってバカじゃない。
4バカ軍が戦力を無駄に消費した結果国境に控えていた軍も、
動き出してしまったのだ。
そうなると嫌でも団結しなければいけなくなって、
また4国家は素晴らしい(笑)団結をしてオースヴァイン王国に対する、
反抗作戦を考えているらしいんだけどねぇ…
王子様達は遊びすぎたんよ。
オースヴァインへの反抗作戦を行う戦力を出し合うと、
今度は新しい国境となったフルートルゥフ家が侵攻してきてしまううぅぅぅ!
これは大変だ!有事なのだ!
そこでフルートルゥフ側には甘い罠を仕掛けることにしたのだ!
ターゲットは私のお兄様。
アールガン・レーゼルバルド公爵に対する求婚作戦でね?
なーにをトチ狂ったのか婚約破棄して来た令嬢がお兄様を篭絡するべく、
派遣される事になったらしいのだ…
「何と言う狡猾な作戦だ…
こんな作戦を立てられたらアールガンは心を奪われてしまうのではないか!」
こっぴどく振られて拒否されたのに?
それでも心が戻ってくるものなのかなぁ…
それ以上にアールガンお兄様にガファッシャルド王国は、
アリーシェ伯爵令嬢を宛がって良い関係が築けてしまっていて、
その仲はシャイングレイザー閣下とバーングレイザー王子が認めていて、
国からの許可まで貰っていて?婚礼まで秒読みだったはずだよね?
え?姉様も知っているはずで?
兄様の送ったドレスを着て嬉し恥ずかしそうに笑っている上に、
もうレーゼルバルドでの生活も始めているアリーシェ伯爵令嬢がこれから、
袖にされるの!?
兄様を振った婚約者だった女よりも淑やかで控え目に言っても美人だし、
良い義姉様になってくれるってルフェリナ姉様と楽しみにしていたのに?
え?我が兄から結婚式への参列のお手紙も貰っているのだけど?
あれ?来月結婚式だよね?
え?それでも「悪のギルグレイザー」的には駄目なの?
悪のギルグレイザーは旦那様に同意を求める視線を飛ばしてきたのだ。
カラードもそう考えてしまうの!?
「…ソウデスネトッテモキケンデスネ!」
「やはり参謀代理のカラードには解ってしまったんだな!
どうすればいいと思う?」
旦那様は返答に困って私に視線を向けてくる。
私は仕方なしにちょいちょいと手招きして耳打ちしてあげることにしたのだ。
てゆーか私自身がその言葉を口にしたくないだけだったのだが…
「え、ええと?愛の力は偉大なので?
アールガン公爵とアリーシェ伯爵令嬢の?
愛を見せつけれは良いと思います?」
「やはりそう言った考えに至るか…
良し分かったアールガン殿の結婚式はより盛大に盛り上げる事にしよう!」
よく言った!言ってくれた旦那様!
そしてその言葉を聞いたルフェリナ姉様は口を隠してハラハラと涙を流していた。
兄様は苦労しているからね。
私もなんだかんだ言って視界が歪んで目から何かが零れ落ちていたと思う。
…感動の様な事なんだけどね?
兄様は身内だけでひっそりと式を挙げる心算だったのだ。
けどねぇ…
兄様は物凄い苦労してたのだ。
そのお嫁さんになるアリーシェ伯爵令嬢も控えめな方でね?
とても苦労なさっていたお方なのだ。
姉様がガファッシャルドで生きるのに手を尽くして支援してくれた人で、
ギルグレイザー王子の悪に付き合っていた人でもある。
だから姉様が来て泣いて喜んだ一人でもあるらしいんよ。
その彼女が貴族としてはまともな兄に嫁いでくれるのならさ!
それそこちょおッと派手に出迎えて上げてほしいと言うのが、
未来の義姉への恩返しになると思うんだ。
何も理由が無かったら最低限の式しか挙げないと思ったからさ!
悪のギルグレイザー王子の提案なら従わない訳にはいかないもんね!
こうしてOldnestで秘密の作戦会議が開始されたのだ。
アリーシェ伯爵令嬢をその生家まで迎えに行く所から始まり…
花嫁となったアリーシェ様はそれはそれは美しく着飾って、
兄様と共にレーゼルバルドへと赴きそこではギルグレイザー王子の他、
シャイングレイザー王太子とバーングレイザー第2王子からの祝辞を、
読み上げられ夜までパーティーは続き、
何処で用意したのか解らないのだけれど数千発単位で花火が打ちあがり、
夜空に祝福の光をはためかせたのだった。
本当に…本当にいい式だったと思う。
悪のギルグレイザー王子の活躍もあって、
誰もが笑顔になれる式を挙げられたのだった。
…あれ?なんか忘れている様な気がしたけどなんだったけ?
あ、オースヴァインとの戦争は4バカ軍の力を結集して、
ミトラの愛の力で?国境線を守ったらしいよ。
ヨカッタネ!
…あ、甘い罠要員だった令嬢は結婚式を見て帰ったらしいよ?
なんか泣いてたけどさ?なんでだろうね?
自分が婚約破棄した相手の結婚式参加する何てドМだと思うよ私は。
でも甘い罠(笑)の所為で全力でオースヴァインと戦えたんだからさ。
喜ぶべきだと思うよ?
「良いお式でした…心地いい疲れがあって紅茶がおいしーのですぅ…」
「そーだねぇ…」
フルートルゥフは今日も平和。