黒歴史は忘れた頃にやってくる 4-1
「今日も紅茶はおいしぃーのですぅ…」
「そーだねぇ…」
たとえ。ちゅどーん・ぼかーんと音が鳴り響いていても、
それは予定調和でありフルートルゥフ家は今日も平和。
けれどその国境の向こう側はハチャメチャが押し寄せてきて、
泣いてる場合じゃなくなってしまっていたのでした。
今ガファッシャルド王国はとても満たされて元気な状態なのだ。
食糧の自給自足が出来ず豊かな穀倉地帯を手に入れる事を目的として、
昔は必死に侵攻しようとしていたみたいなのだけれど、
謎の太いパイプを持つ商人がバカ安いお値段でガファッシャルド王国に
穀物を売りつけその代わりに大量の海産物を買い込んで帰っていくらしい…
食べる物に困らなくなればガファッシャルド王国もレーゼルバルドに、
侵攻する必要がなくなる訳で…
円満な関係になっていたのだけど…
それよりも問題な事が出て来てしまっていたのだ。
両側を山に挟まれた状態で3つの国は国境を接して並んでいる。
海側からガファッシャルド王国その隣にグランユール連合王国。
そしてその向こう側にオースヴァイン王国があるのだ。
ガファッシャルドは大国ではなくどちらかと言うと中堅国家止まりなのだ。
それはフツーに国土と食糧問題を抱えていたからなんだけど…
今は幸か不幸かバランスの取れた安定期となっていて、
資源余り人口不足だから成長したい放題な形で、
大国への入り口をコンコンとノックしている状態らしいよ?
一領地の領主の妻では「らしい」が限界なのだ。
これでも「悪の女幹部」がポロポロと失言してくれるお陰で、
色々と領内では手を打っている状態なんだけどね。
持つべきものは「悪の女幹部(あれ第3王子妃じゃないっけ?)」であり、
感謝感謝なのだ。
そして新しく国境となったフルートルゥフ領は国境としての役割と、
監視を目的として第3王子の進言の元で国防と偵察を兼ねて、
とある組織が立ちあげられる事にこの度なったのだ。
国の陸軍に領軍とレーゼルバルドの私兵。
色々とごちゃごちゃし過ぎで問題になったらしくて、
その統括本部がフルートルゥフ領の国境に建設され、
3大軍を纏める事になったのだ。
その名も!
ダークネスト
…悪の巣?らしいのだ。
もうちょおッと名前を考えたほーがよかったのでは?
いや何で悪の巣なの?!
国営の施設だよ?!その施設名があまりにアレな名前なのだ。
だってこの命令ってガファッシャルド王国の国王陛下である、
グレイザー国王からの命令なんだよ!?
王国軍に関わる事だから軍事に携わる王太子殿下であらせられる、
シャイ(ニ)ングレイザー閣下と、
第2王子である(ブレイブ)バーングレイザーの、
お二人が指揮を取る居城となる可能性もある場所なのに!
良いの?本当に良いの?
悪の巣って…
「うぬ。兄上達が好きにしろと仰って下さったのだ!
このご厚意に甘えずしてなんとする!
悪の女幹部(ルフェリナ姉様)の提案なのだ良い響きだろう?」
「「ソーデスネ」」
私と旦那様は口をそろえてそう言うほかなかった。
いや国の防衛拠点の名前なのだからちゃんとした国名の入った物の方が…
と考えつつ旦那様の方を見れば苦笑い。
後で聞く事になる事なのだけれど…
ギルグレイザー王子の居城の様に見えた方が色々と都合がいいみたいで、
「そう言う事」になったらしい。
ちゃんと副題?としてフルートルゥフ領ガファッシャルド王国第1砦
って名前もあるよって聞かされて私は何とか安心した。
だってさ?そのね?「ダークネスト」ってさぁ…
私がっ!私が昔姉様に言った言葉だったんだよ!
癇癪起こして苛立っていた姉様にさぁ!
ぺらぺらとなんかの資料を読み込んでいた時だったと思う。
ちょっと頭の中で計算していて、何時もの様にきゃんきゃん騒いでいた、
姉様に「イラァ」と来たのだ。
取り巻きの子があまり使えないだのなんだの。
そりゃただのご令嬢だよ。
姉様と同じ事が出来るなんて思ってたら大違いだよ。
年相応の事しか出来ないよルフェリナ姉様だから「使えない」と思うのであって、
周囲は普通に出来てる良い子しかいないよ。
そう言った子が姉様の周りには集められているんだから。
それ以上は高望みだと思うよ?
「姉さま?そんなに苛立たしいのであれば、
「悪の巣」でも御作りになられては?
取り巻きの (なにやらかすか解らない) 令嬢達を使うより、
お父様かお母様に頼んで「専門」の組織を組み立てた方が齟齬がなく、
姉様の思い通りに動く統率の取れた昆虫達のリーダーになるべきで、
今から姉さまが手を尽くせば良い巣になると思うのですよ」
「…そう、ね?平民のミトラに関わるのであれば、
相手の土俵で組織は作るべきだわ…」
「暗がりから全てを見渡す組織みたいな?
姉様を頂点としたダークネストですね」
「…ええ。とても…とてもいい考えだわ」
その時の私を殴ってやりたい。
もう少し考えて提案するべきだったんだよ。
姉様は本気でそう言った組織を作れるんだからさ!
勿論お父様は姉様に護衛を表にも裏にも付けている。
なんたって公爵令嬢だからね!
私にだって付けているらしいよ?
変な事に巻き込まれない様にする為に。
でもさ私の提案から数日後にその自分についている影を、
おびき出してお父様からプレゼントされるとは私も思わんかった。
そして影を中心にいろいろ手配するだけでお姉さまの学園生活は、
大変宜しい事になってしまったらしい。
王家の影を出し抜いてミトラ・ネールが気に食わないのならば、
会わなければ良いを徹底した結果…
パックル王子様はミトラにメロメロになり、
お姉さまを呆れさせる結果となったのだ。
そして隣国へと旅立つ準備をしてしまったのである。
あの見切りの速さは我が姉ながら凄まじい…
ちがう。
ちがうのよ?
今はそこが問題じゃないの!
その私の提案の黒歴史を掘り起こして大々的に使わないでぇぇぇぇぇ!
って叫びたいけど。
ギルグレイザー王子の横にいる姉さまはとってもニコニコ。
私もそれにつられてとってもニコニコするしかなかったのだ…
辛いっす。
数日後…
フルートルゥフ領国境の町に出来たガファッシャルド王国防衛拠点の、
入り口に
―Darknest―
と大きな看板が掲げられ誰がどう見てもギルグレイザー王子の、
拠点なのだと思われる物が完成してしまっていた。
…ああ、うん。
私の黒歴史が…中二病の鱗片がこうも大きく掲げられると、
もう吹っ切るしかない無いなぁ…なんておもってね。
「ミルマーヤ?大丈夫かい?」
「大丈夫ですカラード。
ただあの看板が出来た理由を考えると心が痛いだけです」
「そうだねぇ…でもどうしようもないからね」
「はい…」
ともかくダークネストが完成したので、
ギルグレイザー王子もルフェリナ王子妃も速やかに引っ越しする事になるのだと、
私は考えていたのだ。