こうして物語は捻じ曲がる。1-2
「学園では皆平等なの!」
はいはい
「皆団結して心を一つに戦うのよ!」
何と戦うんですかね?
「悪の帝国との戦いは近いのよ!」
…帝国って何処よ?
頭が足りないのか隣国を知らないのか…
よく解らない平民の女生徒は「戦いは近いのよ」とか言いながら、
生徒をうまく先導していた。
「国内の食糧不足は国が戦争に備えて備蓄しているから」
とか、違うよ?基本的に去年は不作で伯爵家が抱える備蓄を切り崩して
調整しているから不足気味になってるんだよ。
「鉄が不足しているのは武器を作っているから」
違うよ。古い採掘場が閉鎖されて新しい採掘場に移動するだけ。
それで施設の更新とか人の移動が優先されているから、
生産が絞られているだけだよ。
「採石場が大増員されたのは城壁を新設するため」
違うよ。河川事業で洪水を防ぐ為に急いで堤防を創る事になっただけだよ。
平民の彼女には知りえない情報だけどパックル第2王子は
知る事が出来る基本的な国家事業とその運営の事なんだけどなぁ…
どれだけルフェリナ姉様に頼り切って何も知ろうとしなかったのか、
パックル王子は無知を露呈する結果となっていたけど
本人は解ってないんだろうなぁ。
パックル王子の取り巻きの一部も顔が真っ青で引きつられているから。
そして我が姉は隣国に逃げてこの国を侵攻しようとしている悪女らしい。
もう訳が解らないよ?
最上位学年になった平民の女生徒と第2王子のロマンスは続くみたいで…
誰も止めやしない。
血縁関係者で貶されている悪女の妹と言う事で、
それ相応の視線を浴びる事になったのだけれど…
私はそれを無視して地道にお茶会に参加し、
ルフェリナ姉様が侵攻する気なのかと言う出どころ不明の情報に対して、
何でそんな「意味の無い事」をしなくてはいけないのか。
そもそもルフェリナ姉様がその気ならもう仕掛けてきているはずだと力説した。
ルフェリナ姉様は無駄な事を嫌う。
そしてその情景は留学するまで嫌と言うほど見せつけられていると思うのだ。
ルフェリナ姉様の事を知るのは2~3年生だけだろうけれど説得力あふれる、
行動をしていたのだ。
王子を諫め周囲の動揺を抑え込んでいたのはルフェリナ姉様なのだ。
見切りを付けて2年の途中から留学してしまったルフェリナ姉様はそれだけで、
周囲に動揺?を与えていたっぽい。
だからルフェリナ姉様の事を確認したくてって奴で…
…我が姉はマメなのだ。
週一で隣国のギルグレイザー王子との友情なんだか愛情なんだかよくわからない、
恋愛事情を事細かに伝える手紙が送られてくるのだ…
もうラッブラブな奴が…
それをマイルドにして紳士淑女に教えて差し上げれば、
隣国からの戦争などありえないと言い切れる理由となっていた。
確かにルフェリナ姉様はパックル王子に嫁ぐよりも効果的に戦争の炎を、
消してしまったみたいだった。
ただし王家の第1王子と第2王子と宮廷抗争の火に確実に着火した事だけは、
確かだった。
…貴族対平民みたいな?
う、うわぁ…
卒業後は早急に王都から離れて実家に戻って嫁ぐ準備だけはしとこ。
お父様も私が嫁ぐに際して兵士の一部をフルートルゥフ伯爵家に
常駐させる形にしてくれるとかで…
フルートルゥフ伯爵家側も感謝していたのである。
なんだか…可笑しな事になってきているなぁ。
敵のはずの隣国よりも国内の内乱の方が怖いなんて。
でも仕方がないよね自由恋愛で平民の娘と第2王子が一緒になる事を、
王家が認めたんだから。
広大な穀倉地帯と軍事力が結びつき王家との繋がりが細くなれば、
自身を守る為にしか動けなくなることぐらい解っていたでしょうに。
そうして軋み動くはずの無かった歯車がかみ合って、
国内は荒れ始め保たれていた学園の秩序が崩れ始めたのだ。
私とカラード伯爵は卒業と同時に結婚して、
私はカラード伯爵家へ移り住む事になった。
そして急激に環境が悪化し始めていた。
国が割れ始めたって事なのかもしれない。
まず第一に物が届かなくなった。
交易商人の領地間の移動に制限が掛かったのだ。
それはそのまま第一王子と第2王子の派閥間でも対立として、
浮き彫りに出てきたのだ。
二人の王子はこぞって仲間を集い第1王子派第2王子派、
そしてそれぞれに立場を表明しない者達と別れたのだ。
第1王子も第2王子も支援要請をお父様にしたみたいだけれど…
「我が公爵家は隣国が狙っている穀倉地帯(私が嫁いだ家)を、
守り切るので精一杯であり援軍は送れない」
そう宣言し続けたのである。
内乱に巻き込まれるぐらいなら中立を保つよね。
それに隣国とも関係も考慮する必要があるのが、
隣国と領土を接している家の宿命でしょ。
そしてどっちが勝っても国力は落ちるんだけどなぁ…
その時私達はグランユール王国貴族でいる必要があるのかな?
言葉や強迫による色分けが終ってしまえっば後はつぶし合いが始まるのは、
考えるまでも無かった。
止める人もいないから仕方がないね。
こういう時は国王様が指揮を取って国内を治めるべきなんだろうけれど、
「連合王国」である事が、物すっごーい足を引っ張ったのだ。
王子様のお友達は王子様って奴だったのだと。
誰が上でもなく誰が下でもないと言う建前だから。
第1王子の後ろには貴族連合…なのだけれどその中身は、
いっぱいの王子様を名乗る人達がいる訳ですねぇ…
勿論第2王子も王子様を名乗る部下がいる訳です。
本音と建前が入り乱れて「悍ましい」論争が繰り広げながら、
最期の点火点でパックル王子は堪え切れなかったのだ。
まぁ姉様なしの胆力ではそんなもんじゃないって感じで。
操り人形じゃなくなったパックルは平民に支持される形で、
戦端を開かざるを得ない状況に追い込まれた訳なのさ。
幾ら平民を後ろに付けたって言ったってさ戦える人数として、
数がいるのは貴族のいる第1王子派なんだから。
どれだけ平民に「死ね」って命令できるかって話なんだよ、
パックル王子の始めてしまった戦争は。
みたくないなぁ…
内乱を始める為の兵士が動き始めた時期にルフェリナ姉様から手紙が届いた。
第3王子妃としての立場に既に収まってしまったルフェリナ姉様は、
呆れながら国内の戦力の推移の様子を探っているみたいで、
「何時でも編入出来る手続きを取ってあげる」
と力強い宣言までしてくれる。
レーゼルバルド公爵家とフルートルゥフ伯爵家は、
このままなら隣国に飲み込まれる事になるだろうなぁ。
王国はその総力を挙げて内乱を始めてしまったのだから。
ルフェリナ姉様の嫁いだ隣国と血の流れる戦争をしていたのは既に相当前の話。
お父様世代の話であり公爵家の跡取りがお兄様に切り替わってしまえば、
休戦状態であったが故に血も流れていないから編入も容易だろうしね。
ルフェリナ姉様はどれだけ読んでいたのか解らない。
なによりお兄様のお相手は今だ決まっておらずその相手には、
ガファッシャルドの伯爵令嬢か公爵令嬢が名乗りを上げているらしかった。
え?元のお兄様の婚約者?
公爵家でも「辺境で怖い隣国と接する家に嫁ぎたくない」んだって。
そーなんだ。
それで状況がきな臭くなってきてルフェリナ姉様が悪女に仕立て上げられた事を、
理由に婚約破棄なのだそうですよ。
いざとなったらパックル王子とルフェリナ姉様の間に生まれた子を、
公爵家の跡取りにとまで考えていたのだけれどね?
色々とうまくいきすぎているなぁと思いながら、
ボロボロになっていく母国の様子をのほほんと私は眺めていた。
税を納めてもなんの見返りも寄こせない国に治める物は何もないのだ。
優秀すぎる姉さまに作られた後ろ盾が私達に選択権を与え、
当然見込みの無い母国を切り捨てる判断しかさせてもらえない。
新しい国境線に沿って警備兵が配置され城壁も作られ始めた頃、
遂に王家は真っ二つに割れて本格的な武力衝突を始めてしまったのだ。
大人数が動く町や村が焼かれ潰される悪夢の様な内乱がはじまった。
ギリギリだった。
ギリギリでフルートルゥフ領はグランユールから分断され守られた。
お父様からも兵士を増員してもらって隣国からも王子妃の妹と言う名目で、
兵士が配備されてくるともう不可侵の国境となってしまったのである。
以後私の嫁いだ伯爵家は穀倉地帯を抱えつつ逆に母国を隣国と言う様な、
形になりながら隣接する交易都市として発展する事になる。
安定した治安に憧れて隣国から流れてくる商人も多くなり、
商家の町としても強くなることが出来たのであった。
発展し続ける伯爵領をしり目に王子達の戦いは第2フェーズへと進化していった。
なんとパックル王子の部下だった学園の生徒を中心に新しいネオ王国?
とでも言える勢力として分離してしまい三つ巴の戦いが始まったのかと思いきや、
決めきれない第1王子に苛立ちを覚えた貴族もまた純潔貴族連合と言う、
訳の分からない勢力に分派して混沌とした4大勢力の戦いへと進化したのだ。
ここまで約5年。
城壁は更に強化されこっちに剣が向く事は無いのだけれど…
一体何時まで戦争を続けるつもりなのかねぇ?
わがフルートルゥフ領内は今日も平和。
穀物の生産は予定通りに行われ周囲の領地のお腹を満たし続けている。
無作為な戦果の拡大の所為で悲しい位に兵力差も生まれてしまって、
こっちに剣を向けるだけの兵士も確保できないらしい。
それでもプライドと血が我こそが王となるべきなのだと言いながら戦争は続く。
好きにして良いけどさ…
更に年月が経ち各々の陣営にも限外が当然やってくる。
戦争を継続できなくなった4勢力は自然と休戦して、
次代の戦争の為に内政に力を入れ始めたらしい。
え?今更?っておもったのだけれどね…
アホとバカの協奏曲は続き続けて私達はそれ眺め続ける時間が続くのだった。