六章 後戻りのできない選択
ゆっくりできたからか、次の日はかなり調子がよかった。
「んー!なんか、久しぶりにすがすがしいな!」
夏人が伸びをする。それに合わせて、全員が笑った。
――もしかしたら、笑いあえるのはこれで最後になるかもしれない。
咲と新の胸には、そんな陰りが落ちていた。
――昔、涼恵の研究所で泊まらせてもらった時に暁と悠が話しているところを聞いたことがあった。
「悠、今の状況、どう思う?」
「うん……正直、このまま続くのは難しいと思う……」
「そっか……朝木ヶ丘学園の方は?」
「あそこが設立した研究機関とかはいいけど……この状況を覆すことは出来ないんじゃないかな。ここを乗り越えたらどうにかなるんじゃないかって涼恵さんは言ってたけど……」
二人は考え込んでいた。そこに、涼恵がコーヒーを持って「どうしたの?」と尋ねた。
「涼恵さん、その……この世界は、どうなるんですか?」
悠が質問すると、涼恵は言葉を選んでいるのか少し黙った後、
「……今の私達じゃ、どうすることも出来ない。あの子達の決断次第だ」
そう、答えた。
一瞬だけ、涼恵が幼い新と咲を見た気がした。
リーデルに導かれ、最後に来たのは大きな塔。
「ここに、四人いるみたいだ」
「四人も?」
「あぁ。かなり大きいからおかしくない」
四人もここに閉じ込められているのか……。
とにかく、早く助けようと塔の中に入った。外から見て分かっていたが、かなり広い。
「……早く、階段を見つけよう」
新の言葉に頷き、歩き出す。全員でエネミーを倒していると、声が聞こえてきた。
「へぇ、まさかここまで来ることが出来るとはな。さすが、あいつらの血を引いているだけある」
目の前には黒髪の男。明らかに、今までのやつと比べ物にならないほど強いと分かる。
「……ここはワガハイ達がどうにかするから、ジョーカーとクラウンは先に行っていてくれ」
リーデルの言葉に「本当に大丈夫なの?」と咲が尋ねる。すると彼は笑った。
「もちろんだ。それに、あとの四人はお前らじゃないと助けられないだろうしな」
それを聞いて二人は顔を合わせ、頷きあう。
そのまま、二人は走った。
「……行ったな」
リーデルが目の前の男――モールを睨む。
「先に行かせて良かったのか?まだあの先にルシファーがいるが?」
「……大丈夫、二人なら戦えるから」
月菜が調べながらそう答えた。実涼が「うん、先輩達なら誰相手でも勝てるよ」と頷く。
「あぁ言った手前、あいつらを安心させないとな」
夏人も手を鳴らしながら笑う。
そのまま、五人はモールに立ち向かう。
咲と新は階段を見つけ、駆けあがっていく。そして、一人目を見つける。
「……よかった」
「……あなたは誰?」
その人は占い師のようだった。タロットカードを見たり占いをして悲しい顔をしたりしていた。
「君を助けに来たよ」
そう言うと、「……あぁ、あなた達がトリックスターなんですね」と彼女は笑った。
「私は草木 かい。見て分かる通り占い師なんです」
その言葉とともに「節制」という言葉が浮かぶ。
「……「愚者」に「魔術師」、「戦車」に「正義」に「隠者」……そして「運命の輪」……それに立ちふさがるは「死神」、「刑死者」、「悪魔」、「塔」、そして「月」……あなた達の未来は、あなた達の選択次第で変わってしまいます」
「えっと……?」
「きっと、私がここにいるのはあなた達にこのことを伝えるため。……覚悟を決めておきなさい、あなた達は己の命を失うかもしれないから」
咲と新は顔を見合わせる。かいの方を見ると、彼女は小さく笑っていた。
「……私は大丈夫です。ここは結界のおかげで悪意は来ませんから。あとの三人は四階に閉じ込められています」
「そうか、ありがとう」
その言葉を信じ、二人はさらに駆け上がる。
リーデル達は何とかモールを倒したところだった。
「つ、疲れた……」
実涼が息を切らしていると、「とにかく、あとを追いかけるぞ」とリーデルの言葉にハッとなった。
咲と新の後を追いかけ、二人と合流する。
「かなり疲れているみたいだが……」
「そりゃあ、あいつ強かったし……」
「あらら……」
夏人がはぁ……とため息をつくと咲が苦笑する。
四階には本当にあとの三人が座っていた。
「あれ?あなた達は誰?」
一番幼い女の子が怪盗達を見て首を傾げる。「君達を助けに来た」と言うと、「そうなの?」ともう一人の女の子が目を丸くした。
「本当に?」
「うん。私と一緒に外に出よう?」
男の子が不安そうに見る。実涼は小さく笑って手を差し出した。
それぞれ「星」、「太陽」、「力」が浮かぶ。三人が実涼のところに行くとその後ろから誰かが襲い掛かってきた。
「危ない!」
間一髪、咲が光呪文で庇う。それに「おやおや」と笑う声が聞こえてきた。
「守り神の孫達だな。本当に強い力を感じる……」
笑い声が聞こえているのに、殺意を感じ取って背筋が震えた。それほどの恐怖が襲ってくる。
新が思わず闇呪文を放つ。しかしそれが当たることはなかった。
「そうカリカリすんなよ。ちょっとぐらい話し合いしようぜ?」
「そんなこと出来るわけないでしょ?「ニュクス」」
咲も光呪文を唱えるが、それも避けられてしまった。
「オイオイ、光呪文なんて当たったら死んでしまうだろ」
「そのために唱えたの」
「おー、怖いなぁ」
クスクスと目の前の男は余裕そうにしている。
「そっちから仕掛けてきたんだし、このままここで殺しても文句は言われねぇよな?だって、フィクサー様が支配できるもんな」
「させると思ってる?ルシファー」
ケラケラ笑っていると、後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、そこにはピースとガーディがいた。
「……おやおや?守り神様と従者様のお出ましか」
「お前達が余計な気を起こしているから、だろ。支配できるというなら、このボクを倒してからにしてほしいね」
「人間どもが怠惰を望んだのにか?」
「……ボク達は任せられた以上、何があっても人間の味方でいないといけないんだよ」
ピースはルシファーを睨み、そう答える。その声は冷たく、いつも咲や新と話しているあの優しい雰囲気はどこにもない。
「本当に、役目に忠実だねぇ?」
「うるさいな、お前達が大人しくしていてくれたらこっちだってこんな役目を負わされる必要ないんだっての」
そう言うが、ルシファーはニヤニヤ見ていた。ピースはため息をついて、仮面を取った。
「……え?おばあちゃん?それに、おじいちゃん?」
それを見た咲が目を丸くする。
それもそのハズ、その顔は紛れもなく、行方不明だった祖父の愛良と祖母の蓮だったから。
蓮は小さく笑って、
「ここは任せて」
そう言いながら、仮面を握る。そして、
「おいで、「ミカエル」」
そう言うと、蓮の後ろに白い天使が現れた。
「おー、怖い怖い。さすが守り神様」
「悪いけど、この子達と話したいからすぐに地獄に帰してあげる」
蓮は目の前の男に光呪文を放つ。
「……え……?」
その強力な呪文に、ルシファーは口から血を流していた。
そのままその場に倒れ込み、消えていく。まさかすぐに倒せるとは思っておらず、全員が呆然とする。
「蓮、そこまで本気出すな」
「いいじゃん。こっちの方が早いし」
あっけらかんと言い切る蓮が恐ろしく見えた。
蓮が咲と新の方を振り返り、尋ねた。
「……それで、二人はここまで見てきたんだけど。どっちがいいと思う?」
「え……?」
「言ったでしょ?この世界を「存続」させるか「再構築」するべきか選べって。……涼恵の過去も見たし、この世界だってこの状態だ。二人はどう思う?」
突然言われ、二人は見合わせる。
リーデルは不安そうだ。そういえば、二人に作ってもらったと言っていたなと思い出す。
「ボクは、二人の決定にしか従うことは出来ない。……どっちを選んでも、最終的な責任はボクと涼恵が背負うことになるけど」
「なぁ?涼恵」
愛良が声をかけると、「それが私達の役目だからね、仕方ない」とため息をつきながら涼恵と佑夜が出てきた。
「え、涼恵さん?」
「聞いたでしょ?私は贖罪の巫女なの。だから二人が選んだ道に対する責任を負うことになる」
「ただ一つ、忠告しておくことがある。
存続するとなった場合、二人は死ぬことになる」
蓮の言葉に、ハッと顔をあげた。
冗談を言っているようには思えない。いや、むしろ涼恵も、佑夜まで寂しげな雰囲気を宿していた。
「……その……私としては、二人にも生きてほしい……」
涼恵が呟く。佑夜が彼女の背中をさすっている。
「でも、存続させる方がいいのではないんですか?」
リーデルが蓮に尋ねると、「そうだね、再構築するとなったら、ボク達も「女神」として過ごしていかないといけなくなるから」と目を伏せた。
「でも……ボクからしたら可愛い孫だからね。生きていてほしいっていうのは確かにあるよ」
蓮は顔をあげることが出来なかった。
咲と新は顔を見合わせる。そして――。
八章とエピローグはそれぞれの選択を書いています。
好きなように読んでください。