エピローグ・二 新たな世界の創世
咲と新が目を開くと、蓮と涼恵が何かを話していた。
「あ、起きた?」
蓮が気付いたようで、声をかけてくる。起き上がりながら頷くと周囲が白い空間だと気付いた。
「今から、新しい世界を作るところなんだ」
涼恵の言葉に二人は彼女の方を見た。
涼恵は巫女のような服装をしている。それに蓮も、白い髪に青い目で白い服を着ていた。
「ちょうど、生き残った人間達の記憶を変えていたんだ。どんな違和感もないようにね」
「記憶を……」
「ボク達は消さないけどね。……二人はどうしたい?」
蓮の質問に考え込む。
きっと、忘れた方が人として生きていけるのだろう。……でも。
「オレ達も、消さないよ」
――それ以上に、みんなと過ごした日々を忘れたくない。
「……分かった。それじゃ、始めようか――」
蓮が本を持つと、周囲が光に満ちた。
人々が、何事もなかったかのようににぎやかに過ごしている。街並みは中世のヨーロッパに似ているが、ところどころ違うとこともあり見ていて飽きない。
咲と新がフードを被って街を歩いていると、「そこの旅の方」と声をかけられた。
「どうしました?」
「これを持っていきなさい」
そう言ってパンを渡してくれた。お礼を言って、二人は再び歩き出す。
「……本当に変わったんだね」
「あぁ……」
すべてが変わってしまったこの世界には、あの頃の面影はない。
「先輩!」
しかし、それでも。
「実涼、どうしたの?」
「えへへ……見かけたから呼んだだけです」
後ろから抱き着いてくる実涼は嬉しそうに笑っている。
「み、実涼ちゃん。あんまり先輩達を困らせたらダメだよ?」
「まぁまぁ、いつものことじゃんか」
「夏人、お前な……まぁお前は実涼と同類の人間だもんな……」
「どういうことだよ、義久」
「そのままの意味だろ」
「なんだと、リーデル」
この賑やかな仲間達と一緒に過ごせるだけで、二人はうれしかった。
「蓮」
愛良が蓮に声をかける。
「どうした?愛良」
「本当によかったのか?……確かにあいつらは幸せだろうけど」
その質問に、蓮は小さく笑う。
「……確かに、あの子達の命で封印した方がよかったのかもしれないけどね。でも、それだともしかしたらまた生贄が必要になってしまうかもしれない。……そうなるぐらいなら、今の方がよかったと思う」
「……そうか」
愛良は蓮の肩を抱く。
「お前がそう思うなら、オレも同じように考えておこう」
「……うん」
「蓮、今大丈夫か?」
その時、涼恵がやってくる。彼女の手には何かの資料があった。
「一応、この世界のことを調べた結果だ。……異世界や元の世界と混ざっているみたいだが、問題ないと判断した」
「そうか、それならよかった」
「ただ一つ、懸念点が。……早速、悪意がはびこっているらしい」
涼恵の報告に二人の顔は引きつる。
「……そうか。ありがとう、涼恵」
「これぐらい朝飯前だ。情報屋だしな。……とにかく、気を付けた方がいい」
そう言って、涼恵はもう少し情報を得たいからとすぐに去っていった。
涼恵は佑夜と合流する。
「涼恵さん、どうだった?」
「特に問題なし、ですけど悪意の種が出ているみたいですね」
佑夜にも報告し、涼恵は彼を連れてもう一度地上に足をつける。
「……まさか、ゲームみたいな世界になるなんて思っていませんでした」
「仕方ないよ、ボク達はもともと神様じゃないんだから」
そんな会話をしながら、旅に出る。
――これは、神となった者達と祝福を受けた者達による物語の序章。
「この世界は徐々に狂っていく」
そう言葉を紡いだのは、誰だっただろうか。
彼女は物語を綴っていく。
この世界が創世される前の物語を。
時が経ち、それは伝説として語り継がれていく。
「嗚呼、どうかこの世界に祝福を」