表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

別の世界ではただの日常です

作者: 茅野榛人

 俺は中学校を卒業して間もなく、引きこもりになった。

 理由は単純過ぎて、自分でさえも時々恥ずかしくなる。

 勉強をするのが、非常に面倒臭く、嫌いだからである。

 理由はこれだけだ。

 今は親の金を貪り食いながら、悠々自適な引きこもり生活を送っている。

 社会に何の貢献もしない、無駄な時間を送っている。

 しかし、俺自身は非常に幸せである。

 勉強にも、社会にも触れずに自分勝手に生きると言うのは、想像を絶する快楽を与えるのである。

 ただ、俺は引きこもり生活を続けていく内に、ある事が非常に恋しくなってしまったのである。

 それは、他人とのコミュニケーションである。

 身内との会話は何時でも出来るが、赤の他人との会話は、この引きこもり生活をしている俺には非常に難しい事なのである。

 何か方法は無いかと頭をフル回転させた末に辿り着いた結論は、ボイスチャットが可能なSNSを利用する事だったのである。

 俺は速攻行動に移し、ボイスチャットが可能なSNSの利用を開始し、オープンチャット等で着々とインターネット友達を作った。

 これにより、赤の他人とコミュニケーションを図る機会が大幅に急増、それどころか赤の他人と喋りながらゲームをすると言う新たな経験をする事が出来、非常に楽しい毎日をスタートさせる事が出来たのである。

 しかし時が経つにつれ、俺のインターネット友達は、殆どが受験や就職活動と言った、人生の岐路に立つ人達ばかりになり、過疎化してしまったのである。

 なので俺は、誰かが『暇』と言う文字を打った瞬間、すぐさまその文字を打った人の暇潰しに付き合うような生活を始めたのである。

 今の俺にとって、暇と言う文字は、魔法のような存在になっている。


 今、俺はアルバイトをしている。

 俺は、あの引きこもり生活から抜け出す事に、成功したのである。

 アルバイトに行くようになってから月日は流れ、もう既にあの頃の生活が懐かしく思える。


 あの頃の生活が懐かしいと思うようになってから、何だか様子がおかしい。

 ついついスマートフォンを取り出し、SNSを見てしまうのだ。

 そして暇と言う文字が無いかを確認してしまう。

 確かに俺がまだ引きこもり生活を続けていた頃は、暇と言う文字を見つける事だけが生き甲斐になっていた。

 しかし今の俺は引きこもりではない、アルバイトに行っているのだ。

 アルバイトに行くようになってからは、暇と言う文字を探す習慣は薄れていたのに、今になって突然その習慣が強まりつつある。

 何故だ? あの頃の生活が羨ましくなっているのか? いやそれは違うはずだ……それは違う……。


 暇と言う文字を探す習慣が、あの頃の生活をしていた時以上に強くなってしまった。

 後で良い、後で良いでは無いか、今じゃなくて良い事だ! と自身に言い聞かせても、抑えきれずにSNSで暇と言う文字が無いか確認してしまう。

 アルバイトにも身が入らなくなって来ている。

 せっかく慣れて来たアルバイトなのに……昔の俺の習慣の所為で全てが壊れる……。


 あの子が、長続きしていたアルバイトを辞めてしまった。

 そしてまた、引きこもってしまった。

 スマートフォンを決して手放さず、狂ったように『暇な人いないか』と呟き続けている。

 赤の他人とお喋りが出来るのならと、SNSやボイスチャットをする事を許していたけど、それは間違いだったかもしれない。

 ごめんなさい……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ