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第一章1―召喚事件

アカバネ・ツルギは、どこにでもいる普通の高校二年生だった。身長は平均的で、少し乱れた短めの黒髪に、黒い瞳。制服は他の男子生徒と同じ、黒いジャケットとズボン、白いシャツに紺と白のストライプ柄のネクタイを締めている。


 ツルギは椅子にもたれかかり、机とほぼ同じ高さまで身を沈め、いかがわしい内容のマンガを堂々と読みふけっていた。


「異星の女神が主人公にベースフォームで倒されたのか……ちょっとがっかりな~ぶっちゃけていうと……」


 特に目立つ特徴はなく、人混みに紛れようと思えば容易にできた。皮肉なことに、かえって彼のぐうたらな座り方が目立っていた。


「ちょっと、ツルギ君!授業中にマンガ読むなって何回言ったの?その姿勢は何?自分の家でいると思っているのか?」


 姿勢を正した右を向くと、彼を叱責する少女の姿が目に入った。


 彼女は眼鏡をかけていて、細い丸型フレームが美人な顔を引き締めている。黒髪はポニーテールにまとめられ、整然とした姿勢と清楚な佇まいが印象的だった。


 少女はツルギの隣に座り、少し口を尖らせながら座った。


「いつも先生から守れるわけじゃないんだからね、分かっているでしょ?」


「まあまあ、いいんちょう。先生まだ来てないんだ。」


 小さくため息をつき、苛立ちを抑えながら教科書を机に並べ始める。


「もう、いいんちょうって呼ばないでって言ったよね。ちゃんと名前で呼んでよ!」

 ツルギは頭を掻きながら、「すまん、マイちゃんの偉そうなモードになる時、そう呼ばずにはいられないんだ。」と軽く謝った。


「そのコメントは聞かなかったことにする……それより、何読んでるの?そのマンガ、知らないかも。」


「――ああ、これ?」ツルギは持っていたマンガを彼女に手渡す。


「〈魔法少女VSエイリアン〉の最終巻だよ。まあ、じつは、結末はちょっと残念だったけどな。」


 それを受け取った彼女はページをめくりながら、徐々に顔が赤く染まっていった。ページを繰れば繰るほど、頬はますます紅潮しっていた。


「あ、あんまり魔法少女っぽくないんだよね……」


「小学生かよ?魔法少女モノはこういうもんって、常識だろ。」


「頼むから、一生《常識》って言葉を口にしないでくれ。ツルギにそんなもん、一滴も残ってねぇんだから。」


「は?俺が持ってないのは《普通》な。《常識》はしっかり持ち合わせてるよ!」


「もういいから、早くそのマンガを隠せって!」 マイはまじめな顔でマンガを閉じて、ツルギに返した。


「まったく、こんなのを人前で読むのが恥ずかしくないの?」


「これ、そんなにヤバくないマイちゃんよ……ちょっとエッチなだけだしぃ。」


「それでも、魔法少女でしょ……」


「面白いじゃん?それにさ、前にも言ったが、これって小学生の女の子向けじゃないんだよ。」ツルギはニヤリと笑いながら、マンガの表紙を指差して言った。


 表紙には、露出の多いフリル付きの服を着た2人の少女が、手をつなぎながら頬を寄せ合っているイラストが描かれていた。さらに、彼女たちのパンツがちらりと見えていた。


「頼むから、これをすぐに隠してねぇ」マイは顔を真っ赤にしながらも、なんとか平静を保とうとして叱りつけた。


「はい、はい……」椅子の下に隠そうとした瞬間、誰かが彼の腕にぶつかり、その衝撃でマンガが床に落ちてしまった。


「――おっと、悪いな、相棒!」


 その人物は、地面からそっとマンガを取り出し、ツルギに手渡した。


「ああ、サンキュー、セキさん!」ツルギは苦笑いしながら、と軽くお礼を

言った。


 拾い上げて人は、背が高く、少し乱れた茶色の髪を持つ少年だった。その明るい髪色とは裏腹に、穏やかな雰囲気を漂わせており、優しそうな笑みが浮かんでいた。


「気にしないでアカバネさん。ところで……今日はヒロシの誕生日だから、放課後カラオケでお祝いするん。クラスを全員招待しましたんけど、よかったら俺たちに来ない?」


「悪いけど、ちょっと厳しいかな。試験が近いし、俺の成績があんまり良くないから……もっと勉強しないといけないんだ。」


「ああ、いいよ、分かるさ。でも気が変わったら、招待はいつでもオープンだぜ!」

「――おっ!マイちゃんだ!もここにいた?!」


「それ、別に驚くことじゃないでしょ、アキヒロ君。ここはいつも私の席なんだから。」

「あはは!それは確かに!」


 会話を一時中断して、教室に入ってきたクラスメイトたちに軽く挨拶をする。


「それと……クラブのために陸上トラックの予約なんだけどさ—」またマイの方をちらりと見ながら。


「大丈夫そうと思う。試験が終わった後なら、特に問題ないはずだから—」


 ツルギは、アキヒロとマイが楽しげに話しているのを眺めているうちに、次第に思考の迷路に迷い込んでいった。


 ツルギの思考がふと遠くへ漂い始めると、もしもマイがあれほど粘り強く話しかけ、近づいてくれなかったなら、自分は誰とも一言も交わすことなく学校に通い、去っていくのだろうと、そんな事実が頭をよぎり、少しだけ心がざわついた。


 同時に、ツルギはどうしても考えてしまう――空虚な言葉を交わすことは、時間の無駄ではないか、と。他人の事情や個人的な生活、関係性……そんな日常的な話題はいつだって彼にとって退屈だった。


 だからこそ、ツルギは幻想の世界へと没入することを好んでいたのだ。文学やアニメの熱心なファンというわけではなかった。ただ、日常から解放される手段が欲しかっただけだった。この現実世界には、彼にとって興味を引くものは何一つなかったし、何よりも――周りの人々にも、自分自身にも、特別なものなど見つけられなかったのだ。


 なんてつまらない話題……


 なんて退屈な日常……


 こんなのが悪いわけじゃないのは分かってる……まじで分かってるけど……


 こんなこと思っちゃいけない……俺が悪いよく知っている、でもー


「お~い……?」


 どうにも普通ってやつが嫌で仕方ない……


「――もしもしー?」


 ――


 いつか……どうか何か特別なものを目にすることができればな――


「ツ・ル・ギ・ク・ン~!」


 ぼんやりしていたツルギは、目の前で手を振るマイに気づいて、思わず飛び上がった。彼女がすぐ近くにいることに驚いたのだ。


「いつから――」


「だめでしょう、ツルギ君、こんなにぼーっとしていたらー」


「まぁ、だいじなものを失ったわけでもないし……」


「ついさっきに、アキヒロ君がさよなら言ったの、聞き逃したんですよ。」


「―えっ、マジで!?」ツルギは教室を見渡し、前方で友達と集まっているアキヒロの姿を見つけた。


「ツルギ君……あんまり興味あることが少ないのは分かってるけど、たまには何か新しいことに挑戦してみてもいいんじゃないのか?」


 マイが話している間、少年は目をそらした。


「それに、ツルギ君があんまり勉強してないのも知ってるから、アキヒロ君の誘いに乗らないのか?私も行くので、少なくとも話し相手にはなります――」


 ツルギは少女に無表情で視線を向け、軽く手を振ったが、それとなく無視するような仕草を見せた。


「興味ない、すまん。」


 だが、彼のその冷たい態度にもかかわらず、マイはじっと彼を見つめ続けていた。

「えぇーー」


 「先生は今日やけに遅いな……」


「話題を変えても、忘れませんよ!」


 マイは腰に手を当て、スカートがその動きに合わせてふわりと揺れた。眼鏡を押し上げながら、少し可愛らしくも威圧的なポーズでツルギに顔を近づけた。


「もうちょっと前にかがんでくれない?もう少しだけブラが見えちゃうぞ~」


 少年が何気なくそんな馬鹿げたセリフを言ったのでマイは慌ててしまった。


「今日は本当に私の我慢を試してるんですね!?このガキ!」


 その後、マイは姿勢を正し、教室の時計を確認する。教師は少なくとも10分は遅れて いることに気づいた。


「あれ、中村先生、ほんとに遅いね。」


「だから言ったはずだ……」


「ちょっと確認してきますっ――」


ゴオォォォォー!!


 教室中に雷鳴のような大きな音が響き、生徒たちは反射的に耳を塞いだ。


 マイと他の生徒たちは窓へと駆け寄り、その音が何だったのか、どこから来たのかを確認しようとした。


 外を見ると、赤い稲妻が空を舞うように走り回っていた。それは空高くではなく、窓のすぐ外、手を伸ばせば届くほどの近さで発生していた。


 赤い稲妻の球体が、空中に複雑な模様を描き始める。それは見る者を魅了し、同時に恐怖を感じさせる光景だった。


「皆さん!早く窓から離れてください!!」マイの指示に従って、何人かの生徒は素早く窓から離れたが、他の生徒たちは恐る恐る後ずさりしていった。


 学級委員は教室の後ろの席に向かい、ある生徒を探していた。


 机の下に隠れている少年を見つけた。短い黒髪に眼鏡をかけた小柄な彼は、恐怖に震えながら身を縮め、教科書を頭に載せていた。


「ソウタ君、それが何だか分かりますか?」


「――」


「おい、聞こえるか?」


 マイが問いかけると、少年は震える声で、か細く、ほとんど聞こえない声で答えた。


「は、はい……聞いていました……」


「じゃあ、どう思います?」


「思い浮かぶ自然現象は……レッドスプライトくらいと思います。」


「それが原因なんですか?」


「い、いえ……それは思いませんかもー」少年はごくりと唾を飲み込み、震える声で説明を続けた。


「レッドスプライトは……大気の上層で起こる現象で……そ、それに……え、えっと、これは非常に明白な観察ですが、普通は雷を見てから音が聞こえるはずで……今回は逆ですっ」


 マイはクラス全体に向けて指示を出した。「皆さん、落ち着いてください! 秩序正しく、教室を出ましょう。」


 生徒たちが教室を出始めたその時、さらに大きな衝撃音が鳴り響いた。


ドーコーーーーーン!!!!!!


 耳をつんざくような雷鳴が教室中に響き渡り、建物全体が揺れた。生徒たちを驚かせたのは音だけではなかった。教室のすべての窓が、数秒後に粉々に砕け散った。


 多くの赤い稲妻球が蜂の群れのように教室を飛び回った。ガラスが凶器のように生徒たちに降り注いだ。悲鳴とガラスの破片が散らばる音が入り混じり、教室は一瞬にして混乱に包まれた。


 生徒たちはぶつかり合い、デスクや椅子にぶつかりながら、危険から身を守ろうと必死だった。それに、素早く動けなかった者たちは、鋭い破片により体中に切り傷や裂傷を負い、痛みに耐えていた。


 時間が止まったかのように感じられた瞬間、窓際に座っていたツルギは、目の前で繰り広げられる異常事態を真っ先に目撃した。


 二度目の雷鳴が響き渡ると、その雷球の一つがツルギに向かってまっすぐに飛んできた。彼にはもはやなすすべがなかった。


 焦げるような熱が顔を襲い、同時に暗闇を引き裂くほどの眩しい光が放たれた。それは単なる恐怖ではなく、本能を直撃する恐ろしさだった。


 ツルギは反射的に目をぎゅっと閉じ、両腕で顔を覆った。その光はあまりにも強烈で、閉じたまぶた越しにさえ浸透してくるようだった。


 赤熱した光と灼熱の感覚が全身を包み込んだ瞬間、世界は黒に包まれた。時が静かに流れ去り、ツルギは暗闇の渦へと吸い込まれていった。


 まるで、何もない無限の海を漂っているかのような感覚だった。思考すらも遠のいていく。自分の存在が砂のようにこぼれ落ち、虚無の中に消えていくようだった。


 どこから自分が始まり、どこで闇が終わるのかさえわからなかった。湧き上がるはずのパニックも、どこか遠く、別の現実にあるように感じられた。


 散り散りになっていた思考の断片が、少しずつ集まり始め、徐々に元の場所を取り戻していく。まるで真っ暗な中でパズルを組み立てているかのような、遅く、手間のかかる作業だった。

※※※※※※※


 意識を取り戻し始めたツルギは、見知らぬ風景の中に立っていた。足元は柔らかく、まるで苔の上に立っているかのような感触があった。そして、空気にはどこか異世界的な香りが漂っており、この場所の異様さを示していた。


 頭上には、見慣れた青空が広がっていたが、どこか幻想的な色彩が混じり合い、現実離れした雰囲気を漂わせていた。彼の前には広大な草原が広がり、見たこともない鮮やかな色の花々が咲き乱れていた。草は青みがかり、膝丈ほどの高さで、風が吹くたびにまるで水面のように波打ち、美しい模様を描き出した。奇妙な発光する蝶のような生き物たちが空中を舞い、きらめく粉をまき散らしながら飛び回っていた。


 ツルギは周囲を見渡し、この新しい現実を理解しようとしたが、彼の頭の中には疑問が渦巻いていた。彼が経験したことを説明できるものは何一つなかった。


アカバネ・ツルギは異世界に転移していた。


 それにもかかわらず、ツルギは驚くほど冷静だった。未知の世界にいるにもかかわらず、彼の心には不思議なほどの静けさがあった。


 普通なら、この状況で絶望に陥るか、少なくとも不安を感じるはずだろう。しかしツルギは、そう感じる必要がないと考えていた。別れを告げることなくこの世界に来たことには一抹の寂しさがあったが、振り返ってみても、彼が本当に大切にしていたものは何一つなかった。


 両親のことを嫌っていたわけではないが、特に親密な関係があったわけでもない。ツルギはほとんど彼らに会うことがなかった。両親は常に仕事で忙しかったからだ。友達もいなかった。最も近い存在はマイだったが、彼女がいなくなった時も、それほど気にしていなかった。


 今、ツルギはこの美しい草原に立ち、自分が置かれた状況を理解しようとしていた。そして、強い日差しを遮るために反射的に手をかざしたその瞬間、予期せぬ出来事が起こった。


 彼の目の前に、突然透明なメニューが現れた。まるで空中から現れたかのように浮かんでいた。


 メニューには複雑な記号や数字が並び、最初は何が書かれているのか全く理解できなかった。しかし、次第にそれらは読める文字へと変化していった。ツルギはおそるおそる手を伸ばし、その謎めいたインターフェースに触れようとした。指がオプションに触れると、目の前に映し出されているものが現実だとは信じられなかった。



『ステータス』

レベル : 1


HP: 41/41

SP: 53/53


『アトリビュート』

ストレングス : 23..…………………………………..………..…………ATK: 24


アジリティ : 31………………………..………………………..………SPD: 32


デクステリティ : 25………………………………………………………DEF.P: 26


ビタリティ : 20………………………………………………..…………DEF: 21


インテリジェンス : 26..………….…………………………………………S.ATK: 27


『スキル』


Bランク:……………………………………………………『ブラッドスペル・ブレード』


スキル・ポイント : 100



『タイトル』

『異世界人』

『召喚された者』

『呪われし者』


――――――――――――――


「まるでゲームみたい……」とツルギは呟き、異世界に転移してきたという現実を受け入れ始めた。彼の中で徐々に興奮が湧き上がり、この新しい世界でどんな可能性が待っているのか、心を巡らせた。そして、ステータスや数値が何を意味するのか、より深く理解しようと集中していたその時——。


 突然、背後から足音が近づいてきた。


 ツルギは反射的に身構え、心臓が早鐘のように打ち始めた。草むらの向こうに、ゆっくりと影が現れた。


 その生物はツルギがこれまでに見たことのないものだった。体は鱗と羽が入り混じり、獰猛な光を放つ目がギラギラと輝いていた。長い爪は太陽光を反射し、四足で歩くその姿は、まるでトカゲとオウムが無理やり融合したかのような異形だった。


 ツルギは一瞬逃げようと考えたが、生物がゆっくりと彼に近づいてくるのに気づいた。それは彼を攻撃しようとするのではなく、興味を持って観察しているかのようだった。


 少年は、怪物が近づいてくるのを見ながら、できるだけ不意な動きをしないように注意した。生物は頭を左右にかしげ、ツルギにじっと目を向けていた。


 それは、何かを測るような仕草だった。


 ツルギはじっと息を潜め、指先が震えるのを感じながら、相手の動きを見極めようとした。しかし、その緊張を楽しむかのように、怪物はわずかに首を傾け、鼻先で空気を嗅ぐような仕草を見せた。


 ――待っている。


 ツルギは直感的に理解した。これは遊びではない。相手は彼の次の動きを測り、狩る準備をしている。


 その予感が確信に変わる前に、怪物は地面を蹴った。


 突然、生物は速度を上げ、一瞬でツルギとの距離を縮めた。爪が土をえぐり、羽ばたくように広げた前肢が空を裂く。ツルギの顔には汗が滲み、逃げることが不可能であることを悟った。


 怪物の足が大地を叩くたびに、振動がツルギの足元に伝わってくる。


 次の瞬間、影が覆いかぶさる。


 ツルギの視界は、鋭いくちばしと獰猛な眼光で埋め尽くされた。


 刹那、彼の体が反射的に動いた。


 目の前の脅威を完全に理解する前に、ツルギは横へ飛び、怪物の攻撃をかろうじてかわした。


 大地に叩きつけられるように転がる。手のひらに小石が食い込み、荒い息が喉を焼いた。

 ツルギは転がりながら立ち上がり、できるだけ遠くへ逃げようと必死に走り出した。全身が走れ、怪物から逃げろと叫んでいた。


 しかし、背後の獣はすぐに軌道を修正し、爪を大地に突き立てながら滑るように方向を変えた。


 ツルギの鼓動がさらに速くなる。


 それでも恐怖に圧倒されそうになるのを拒み、少年は深呼吸をし、モンスターが攻撃を失敗して立ち上がる隙を狙って精神を集中させた。わずかな時間だったが、この一瞬が命取りになることは彼も分かっていた。


 その瞬間、ツルギは先ほど見たメニューに載っていたスキルと能力を思い出した。

 クリーチャーは再び立ち上がり、獰猛な速さでツルギに向かって突進してきた。少年は、先ほど見たスキルを発動しようと必死になった。


 だが、何も起こらなかった。期待していた力が発動しない。


 モンスターが迫り、ツルギの心に再び恐怖が押し寄せた。その姿は太陽を覆い隠すほどに大きく見えた。


 必死に生き延びようと、ツルギは再び避けようとしたが――


もう遅すぎた。


 怪物のくちばしが胴体を貫いた。鋭い痛みが走り、骨が砕ける音が耳に響く。容赦なく、肉が引き裂かれた。激痛が全身を焼き尽くし、意識を奪い去っていった。


 彼は叫び声を上げようとしたが、痛みがすべてを遮った。ツルギは自分が意識の底へと沈んでいくのを感じた。


 骨が砕ける音が耳元で響き渡り、その音は世界が暗闇に包まれる前、最後に聞いた音。


意識が完全に途絶えた。




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