真実
「反則ま……」
審判がエルネストの敗北を告げようとした時、武装した軍の兵士が会場になだれ込んでくる。
「ベルンハルトか……?」
エルネストは思わず弛緩しかけた身体を無理に動かして臨戦態勢に入った。
即座にロゼ達の元へ向かう。
そしてその下で呻くローベルト。
まるで見捨てられているかのようだった。
「消える……わしが消える。まだだ……まだわしは。バウムガルデンを守らねば……」
その瞬間、周囲の空間が歪んだ。
遠くに見える本殿、かつてジークルーネ女王が執務を取っていた……を中心に景色が波打っている。
精巧な絵画を握りつぶしたような、あまりにも不可思議で、現実離れした光景。
エルネストですら一瞬、思考を停止させた。
「こっちに来い!!」
異変の中心が本殿と分かった以上、そこから離れるのが先決。
呆然事実のロゼ達はエルネストの声に我に返って駆けてくる。
「今だ……固定化!!」
ベルンハルトの号令が周囲に鳴り響く。
散開した部下らが何事か魔法を行使した。
幻のように消える王城…… そして真実は現れる。
*****
瓦礫と化した城に君臨するように「巨人」はいた。
がっしりとした右腕、胸から下はないが、代わりに数えきれないほど多い触手が伸びて瓦礫を覆っている。
左腕は肘の部分まで、そして頭部は辛うじて目の部分はできているが、脳を収める部分は未完成だった。
その禍々しい姿……エルネストは知っていた。
「不死王か……」
「そうだ……」
ベルンハルトが義足と言うのが信じられないほど軽やかな歩みでエルネストの隣に立つ。
「お前の空間魔法と同じ……規模は桁違いだが、王城の裏に25年間隠れ潜んでいたのだろう。王族を食い漁り、王城にやってきたかつて自分を打倒した英雄たちを一人ずつ自分に取り込みながら再生していったのだ」
「不死王に知性なんかあるのか?」
「本人に知性はないが、取り込んだ人間を利用して人間の真似事はできる……見ろ、右腕を」
ベルンハルトの差し示す方向を見ると、そこには「九つ」のミイラが腕にのめりこむ様に存在していた。
よくよく見れば、胸のあたりが動いている。
死体ではない……彼らはまだ生きている。
「ローベルト含む、九剣聖家の当主達だ……。体の乗っ取り、何のことはない……単に遠隔操作で人形のように子孫を操っていただけに過ぎない。遠く離れていても会話できたのも、単純に本体が融合していたからだ」
「おぞましい……」
エルネストは口元を抑えている。
何もかも邪神の所業と言う訳だ。
人に神を操れる訳がなく、神はただ人を翻弄するばかり。
「で……このまま決戦か? 冗談ではないぞ。いくら大戦時よりも未熟とはいえ今会場にいる戦力では全滅は必至だ」
「今の不死王は羽化を待つ脆弱なサナギのような物。急所を突けば滅び去る」
不死王の手前に巨大なクレーターがあった。
大釜のようなその中には醜悪なる死者のオブジェが敷き詰められていた。
絶望の中で少しずつ消化され、不死王の養分となった者たち。
実のところ、王城に侵入したエルネストが見た「彼らは」不死王の生み出した人間の真似をした人形に過ぎず、とっくの昔に本物は大釜で茹でられていたのだ。
大釜の中心付近に泥人形のように溶けかけた人型。
豪奢な服装の片鱗から、エルネストはその人物を正確に把握した。
「やっぱり……死んでいたのか、うちの姫さんは」
「お前の封印はジークルーネの魔力で維持されていた。花束はその中継、彼女が死んだ所で封印は解ける、逆に言えば生きている間は決して解けない」
「もう会うことはない……その意味はそれか」
疲れ切ったようにエルネストは蹲る。
その肩に手を置くベルンハルト。
だがエルネストは迎撃した。
「エルネスト、トドメは俺が差すが……構わないな」
「やれよ……それが今後にとってお前には必要なんだろう?」
大釜と不死王を繋ぐ大人が十人は囲めそうな極太な触手。
それにベルンハルトは紅炎を放つ。
焼き尽くされる触手。
同時に不死王が砂でできているかのように崩れ始めた。
埋め込まれていた剣聖家の当主達もそれに巻き込まれる。
不死王の力で生かされていた彼らは、もはや自力で生存は叶わないのだ。
どれだけの時間が過ぎたか。
気づけば幻のように何もかもが消え去っていた。
後には廃墟。
大釜の中は厚く砂が堆積しているばかりだった。
「聖戦は人間の勝ちか?」
「いや、たとえチリに変えても神は滅びない。何百年後か何千年後にまた不死王は復活する」
「そんなの俺の知ったことじゃないね」
エルネストは嘆息する。
決戦はこうして締めくくられた。




