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決戦前夜・二

「で……エルネストの動向はどうなっている?」

「今日はロスヴァイセ様とデートの予定ですね」

「暢気なものだな……」

「そうなるように仕向けたんですよ……フランベルジュの戦いで活躍しましたから、ご褒美を与えましょうってセシリア様に。そしてセシリア様からロスヴァイセ様、そしてエルネストに……親からの無関心のせいか自分に自信が無さすぎるのをセシリア様は危惧してましたから乗り気でした。それにしてもエルネストはロスヴァイセ様になんだかんだいって甘いですね。母親の臣下としても世話焼きすぎな気がしますが」

「いろいろとあるんだよ。私も親に売られて奴隷市に並んでいた身だから分かるが、どん底から引き揚げてくれた相手には情を切り分けるのが難しくてな。私はできたが、あいつはできなかった」


 アンヘルが弄ぶようにナイフを放り投げる。

 先程彼はランドルフを介錯した。

 ゴミ同然の相手と思っていたとは言え、数十年の付き合いの人物には彼なりに思うところがあるらしい。


「で、どうします……計画にエルネストは邪魔でしょう。やりますか?」


 どこか楽しげに裁可を問うハインリヒにアンヘルはキツイ目を向ける。


「余計なことはせんでいい……あいつは戦姫だったんだ、決して舐めてかかっていい相手ではない。あの武芸際の日に封印を破って現れた時に心底震えたよ。あの時点でランドルフを殺害されればローベルト様の復活は不可能となっていた」

「今の状態では止められないんですか……」


 そこまで恐れるような相手か……?

 疑問を顔に浮かべるハインリヒにアンヘルはその無知さに顔を殴りたい程だった。

 剣一本で戦うエルネストの真骨頂は奇襲と暗殺。

 ベルンハルトのように事前準備を行う必要がないので火力はないが動きを察知するのが非常に困難なのだ。

 今の弱体化したバウムガルデン家の私兵団では奇襲に耐えきれない。

 その私兵団にアンヘルとハインリヒを加えてもだ。

 もっとも、老齢のローベルトに一度も勝つことができなかった程度の実力なので、彼が復活すれば問題は解決するのだが。


「技術は進歩した。夕暮れにはスヴェンの意識は消え、その身体にローベルト様が復活する。それまで遊ばせておけ。くれぐれも余計なことはするなよ」

「……分かっていますよ」


 ハインリヒに他意がない事を確認したアンヘルは彼に今度は己の父親ベルンハルトの動向を問う。

 ハインリヒは苦笑していた。


「エルネストは信用できない。彼の抹殺に手を貸そう。その後に手を結ぼう……だそうです、親父は」

「あの男は信用できない……郊外に追放された軍をいつの間にか掌握しているし、そもそも奴は王党派という名の反乱軍の首魁ではなかったか? いつ軍に鞍替えした。正直、首を跳ねて安心を買いたいという気持ちしかないのだが」


 まくしたてるアンヘルにハインリヒは含み笑いを抑えきれず、口と腹を抑える。

 どうしてこうも大戦時の重役は同じような評をするのか。

 自分の父親は大戦で何をしたのか。

 それでもその顔に誇らしさがあるのをアンヘルは見逃さず、それを羨ましそうに眺める。


「さすがに親父の殺害には賛成できないっすね」


 砕けた喋り方でハインリヒは反対の意を示した。


*****


 翌日、イルメラの意向で外泊したエルネストはデートの待ち合わせに向かった。

 その右手にはメモ、左手には手提げカバンを持っている。


(一応、人生の初デートになるのか、相手は子供だが……)


 のんびりとリラックスした顔でエルネストはメモを見る。

 時刻は朝方、商店街が目覚めるまでまだまだかかる。

 早めに待ち合わせに行けと書かれていたため、この時間帯となったのだ。


(次は落ち合ったらそこら辺を散策、店が開き始めたらまずは服屋……)


 初めの一行を読んでエルネストはメモをしまう。

 その時若干顔を引きつらせたのは、イルメラに「どうせ初めてはうまく行く訳ないんだから自由にやりな。悲惨な結果になってもあの子なら許してくれるさ」とありがたくない助言を受けたことを思い出したからだった。

 大戦中も戦闘では突撃しすぎとローベルトらに注意を受け、立ち居振る舞いでジークルーネに「全然、私に似てない……どうやって整合取ろう」と嘆かれたのだ。

 なんか不器用っぽく思われるのはなんか腹が立つ。

 完璧なデートにしてやろうと彼は意気込んだ。

 

*****


「髪よし、顔よし、服もよし……」

「……口紅も薄くつけて……メモはちゃんと覚えた?」

「一文字たりとも忘れていません!!」


 同刻、学生寮内にてロゼが「姉」セシリアと「友人」オフェリアにおめかしをされていた。

 完全に人形扱いだがロゼ本人は満更でもなさそうだった。

 実はイルメラはエルネストに相談を受けるともう片方のロゼにも連絡を取って別なメモを渡していたのだ。

 仲介役はイルメラの孫娘にあたるセシリア。

 結果として妹分の初デートを身内で応援する形になった。

 おふざけもあったが、真面目な理由もあった。

 二人が止めなければ、ロゼは夜が明ける前に待ち合わせ場所に行く予定だったのだ。


「もうそろそろいいかな……戦闘以外ダメダメのエルネストもさすがにもう来ているだろうし」

「……やっぱり女側が遅く行くのが鉄則。わざと貸しを作るのがポイント」


 どこかフラフラとしながら待ち合わせ場所に行くロゼをそうして二人は見送った。


……

……

……


「で……監視体制は万全?」

「あのさ、オフェリア……さすがに妹分の初デートは邪魔できないって」

「……まあ、それもそうか。……ところで私たちは今日の休日どうする、久しぶりに二人で遊びに行く?」


 オフェリアの提案に、しかしセシリアは残念そうに頭を振る。


「なんか本家がすごく怪しいんだよね……スヴェン兄さんには当分は実家に絶対来るなって言われているんだけど、心配だからこっそり探りを入れようかと」


 やや挙動不審なのは躊躇の表れだった。

 兄の配慮は知りつつも、それを素直に享受することができない。

 こっちも心配しているんだと言いたいがそれも言えない。


「……そちらは大変ね」


 追及することなく、オフェリアは黙ってセシリアの他愛もない話を聞き続ける。

 数十分ほどそれは続き、気が済んだのかセシリアは影の差した顔を誤魔化すように笑って寮を出て行った。

……

……

……


「さて、私はギーちゃんを追いかけますか?」

「いい加減にしたら姉ちゃん」


 オフェリアの目の前には中等部の制服を着た15歳くらいの少年が立っていた。

 制服を着ているが、その正体はオフェリアが実権を握る孤児院の子供だった。

 偽装生徒は権謀渦巻くこの学院では珍しくない。

 可能な限り生徒の名前と顔を覚えようとしているスヴェンに見つかれば大事だが、見つからなければ大丈夫。


「姉ちゃんの母ちゃん、戦姫様……女王陛下に贔屓されてたんだろう、その娘を助けたいんじゃなかったの? 余計なことをするのは主義に反するんじゃ」

「……助けたいし恩義は返したいけど、それはそれ。なんか利益になりそうなら甘い汁を吸わせてもらう。……それが私の主義」


 ふふん、胸を張るオフェリア。

 ひどく上機嫌だった。

 自信に満ち溢れている。

 調子に乗っているとも言える。


「またボコボコにされても知らねえからな!!」


 オフェリアが顔を引きつらせた。

 あれは五年ほど前、一応は王女であるロゼを彼女が偵察しようと接触を試みたのだ。

 バウムガルデン家での彼女の扱われ方を知らなかったのが良くなかった。

 そして彼女がセシリアなどの極一部を除いて周囲全部が敵に見えていた時期だったのが不幸だった。

 学院入学前で人間関係が極めて狭い範囲だったことも拍車をかけていた。


 結果、ささいな口論が戦闘に発展してオフェリアは十歳のロゼに散々な目に合わされたのだ。

 当時、十二歳のオフェリアは神剣魔法「治癒」を習得していた。

 それは一般層ではかなり早い習得だ。

 しかしそれはロゼに「強敵……容赦はしない」と決意させるだけだったのだ。

 それ以来、オフェリアは若干ロゼに苦手意識を持っている。

 ロゼに協力的なのは友人だからというのもあるが、「怒らせたらヤバイ奴」とビビっている面もある。


「な、生意気」


 トラウマを刺激されたオフェリアは弟分に呻くように抗議した。

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