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追憶・四

「我ら王族も戦闘に加えていただきたいのです、ジークルーネ様」


 銀髪翠眼で二十代半ば過ぎ程の青年が連合軍本部にやってきた。

 後ろには幼い顔立ちの十代初めくらいの少年少女が立ち並んでいる。

 ただし、その中で王族特有の銀髪翠眼の人間は一人もいない。


 ジークルーネは徐に何かを紙に書き、その紙を提示した。


―――全員死刑


「な、なにを……」


 だが慌てふためいたのは王族の男一人のみ。

 他の連中はただ首を傾げ、興味深そうにあるいは怯えたように何が書かれているか分からない紙を眺めるばかり。

 彼らは字が読めないのだ。


「ついに血縁者は一人も来なくなったか」


 大きなため息をつくジークルーネ。

 ジークルーネの横にいるローベルトとベルンハルトもまたあきれ返っていた。


「とりあえず名前を……」


 投げやりにそして気だるげに適当な少年を指さす。

 指差された少年はおずおずと口を開いた。


「俺の名前はアルフレ……」


 その瞬間、王族の男の平手打ちがひらめく。

 スナップの利いた一撃は少年を床に倒れ込ませるのは十分だった。

 王族の男は自身の行動に驚いたかのように平手打ちした右手を凝視した。

 少し腫れている。

 彼はとっさの事で腰に装着した乗馬鞭で少年を叩かなかった自分に後悔しているようだった。


「何度言えば分かる……お前の名前はゴットハルト二世。私の息子だ」

「暴力は止めなさい。次は追い出すよ」


 疲れ切った風のジークルーネに、王族の男……ゴットハルトは特に感慨を受けなかった。


 不死王との戦いが始まり、幾分遅れて王族もまた自身の血縁者を戦場に送り出してきた。

 だがその中にヴェルダンディアの苗字を持つ者は一人もいない。

 良くて王族とはとても呼べない遠縁の、しかも次男以降の部屋住みだ。

 しかもこの頃では、スラムやら下層区域から適当な人間を買ったり攫ったりして己の血縁者と名乗らせて送り込んで来る始末。

 無論、そんな人間が戦場で役に立つわけもない。

 彼ら王族の目的は別にあった。


「我々も血を流して戦っているのです。そのことをジークルーネ様はゆめゆめお忘れなきよう」

「大変ですね。何人お亡くなりに……」

「43人です……今の所、ランキング三位の「成績」でして。戦死者への慰労金が今から楽しみです」


 今の王宮では人類の存亡を賭けた戦いなど知らぬげに、戦死者でのマウント合戦が続いていた。

 何人死んだか、多ければ多いほど社交界での花形となる。

 また無残に死んだ「身内」の伝聞も娯楽であった。


 ゴットハルトはまだ何やら喋っている。

 他者にとってはなんの興味も持てないお家自慢……ジークルーネは次第に眠たそうに眼を瞬き始めたが、やはり彼は気づかない。


「父……いえ、ローベルト将軍閣下」

「ゴットハルト卿……今から作戦会議を始めます。申し訳ないが、詳しい事情は後日という事で」


 無駄な時間が十数分ほど続き、天幕にランドルフ親衛隊隊長がやってきた。

 これ幸いにとベルンハルトはおしゃべりな王族を追い出すことにしたのだ。

 件の王族は自慢話を邪魔されて不愉快そうだったが、特に反論せずに引き下がる。


「では、頼みましたよ」


 捨て台詞を吐いていなくなった。

 同時に子供たちも宿舎に移動する。

 そうして人払いは済んだ。


「囮要因がたくさん来たようですね」


ランドルフがどこか無感情にそう呟いた。


*****


 不死者は生者に群がる。

 そして知性という物がない。

 その定説を鑑みれば、囮と言う方法は非常に有効となるのだ。

 落とし穴の上に食べ物か何かを置く……知性ある人ならば警戒するだろうが、不死者はそうではない。

 

 女子供と言った非戦闘員を囮に使って不死者を招き寄せ、囮もろとも大規模破壊魔法で不死者を殲滅する。

 王都防衛戦で使われた「有効な」戦法だった。


「何度も言うが、ランドルフ親衛隊隊長……我ら三人は他者を平然と犠牲にする戦い方を認めるつもりはないのじゃ。剣聖家の中には確かにやっている者もいる、そして戦果を認められて高い地位にいることも知っているが」


 ローベルトは微妙に奥歯に物が挟まった言い方をする。

 囮戦法を是か非かで言えば、軍内では半々と言ったところだ。

 囮を使わなければ、巡り巡って自身の身内が犠牲になる可能性がある。

 元々が争い合っていた剣聖家が中心となった連合軍。

 不死王と言う名の脅威で団結しているに過ぎない。

 ただし、非道すぎると批判が強いのもまた事実だった。

 最高幹部の三人……ローベルト、ベルンハルト、ジークルーネが認めないため辛うじて天秤は人道的な方に傾いている。


 ランドルフは明らかに不満そうだった。

 だが彼はちらりとジークルーネを見やると、不承不承納得する。


「とりあえず、子供たちはエルネストに預けましょう」

「またそいつにですか……どうやらジークルーネ様の従者は小さな子供が好きなようですな」


 あざけるようなランドルフの言い草に、しかし反応する者はいなかった。

 

 王族は子供たちに早く戦死して貰いたいため、活躍すれば家族の生活の面倒を見るなど確約しているのだ。

 よって子供たちは戦場では命令を無視してでしゃばる。

 作戦をかき乱そうが、王族に認められれば良しという考えからだ。

 もっとも、下賤な者との盟約は破っても良いというのが昨今の王族の価値観なので、本当に面倒を見てもらえるか疑問であった。


 平民出身の指揮官の命令は聞かない。

 しかし同じ王族のジークルーネ、ないしその直属の従者の命令は聞いてくれる。

 そのため、子供たちはエルネストに預けられて、後方での業務に従事することが多かった。

 彼らは俗に「年少組」と呼ばれている。

 ちなみに同じ従者のアンヘルは「年少組をお金持ちに奉仕させよう」と提言して以降、預けられる事はなかった。


「十数人で寝ることもあるそうですね、乱れ過ぎてはいませんか?」

「暑苦しくて大変だと言っていましたよ」


 まったく繋がっていないランドルフとジークルーネ。

 だが険悪と言ったものではない。

 むしろランドルフは武芸祭の時と比べれば、精神は安定している。

 事実上の総司令官の息子として大分贔屓されてもらっているとはいえ、動機はどうあれ勇猛に戦う彼は、親衛隊内部でもそこそこに敬意を向けられている。

 ちなみに彼の神剣スキルは「浄化」……対不死者として最高のスキルだった。

 親衛隊というジークルーネの私兵団の隊長を拝命した理由の一つに、他の剣聖家出身者や傭兵隊長らが信用できないという面が大きいにしろ、着任自体に大きな反対は起こらなかった。


「ともかく、貴方は邪な輩を排除して本当に大事な人が誰なのか気づくべきだと思いますよ」

「はい、私は亡きお父様と、ローベルトを尊敬しています」

「いえ、そうではなくて……」


 顔を赤らめてたどたどしく意味を介さない言葉を並べるランドルフ。

 それはジークルーネに通じず、彼は今日もまた時間を費やした。

 後ろではローベルトが困惑したように、ベルンハルトが意地の悪い顔をしていた。

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