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祝賀会・四

 ロゼがゆっくりと髪をかき上げる。

 いつもは隠れている左目が露出する。

 本来ならば右と同じ翠のはずが……朱色。

 スキル発動の影響か、わずかに光を帯びていた。


「見たのでしょう、この呪われた目を……貴方と同じ」

(ごめん……全然見えなかった)


 恐る恐ると言った感じで本人的には隠したい秘密をさらけ出したところだが、エルネストは特に感銘を受けなかった。

 朱色の瞳は不死者の証とされ、人の身で持つ者は「ハーフデッド」として蔑まれる。

 ロゼはその片目で辛い目にあったのだろう。

 エルネストも同様の目に合ったと思っているのだろうが、残念ながらそうではない。

 確かにエルネストは朱色の目のせいで親から捨てられたが、北部に売られて以降は大きな差別はなかった。

 

 なにせ当時は不死王が復活しなければ革命が起こっていたと言われるくらい王族が腐りきっていた。

 王族への憎悪の高さゆえに、基本的に下層階級のハーフデッドに対する差別はそれなりだったのだ。

 大戦時はさらに人類滅亡がかかっていたこともあってジークルーネの側近として最前線で戦い続けていたエルネストはむしろ敬意の方が多かったと思わなくもない、確か。

 彼の頭は本来の頭を空間魔法で収納して、索敵に特化した魔道具扱いの偽頭を乗っけているが、つまりは顔を変えているということ。

 己の童顔を気にしていたエルネストは大人っぽい顔にしているが、朱色の目は意地でも変えなかった。

 製作者のベルンハルトには揶揄われたが、基本的にエルネストの方針は俺のために世界の方が変わるべき……である。

 朱色の目に難癖をつけてきた輩は時にはぶちのめすこともあり、ようは傲慢な性格なのだ。


「その話は後でしよう……今は」


 肩を押してやんわりとエルネストは拒絶した。

 ロゼが今度は羞恥で顔を赤くする。

 ついつい「チャンス」を見つけてお喋りになったことに今更ながら気づいたらしい。


*****


 不死竜は神剣魔法による攻撃で身動きが取れない……ように見える。

 この場にいる大多数はそう考えているようだった。

 正規軍の攻撃が始まって大分経ってからも剣聖家らの私兵も援護射撃を始めた。

 それは正規軍と遜色ない火力、とはすなわち正規軍が弱いということだ。


(スヴェンが単独で呼べたのは二軍までと言うことか……)


 基本的に剣聖家を正規軍は疑いの目で見ている

 殺し合う剣聖家がライバルを排除するのに正規軍を騙して片棒を担がせてきた自業自得な理由からだ。

 さらには優秀な人材を金や権力などで引き抜くこともある。

 当主ランドルフならともかく、その息子で「次期当主」でしかないスヴェンでは相手にしてもらっただけ僥倖というもの。

 

「あ、オフェリアがいます……」


 ロゼが正規軍に交じった黒制服を指さす。

 長い髪で、黒ワカメ髪の17くらいの少女。

 治癒スキル持ちの彼女は後方にて待機している。

 魔法戦が終わり、白兵戦に移行したときに援護する役割なのだろう。

 だが問題は、しょせん学生でしかない彼女が戦列に加わっているという事だ。

 素人が混じっている正規軍部隊。

そんな部隊……二流とか三流のレベルではない。


(一軍が来なければ話にならないな)


 エルネストは跳躍、大回りしてバウムガルデン家の元へ向かう。

 そこにはスヴェンが大剣を構えて正規軍同様に魔法戦の後の白兵戦に備えていた。

 ちなみに拘束に特化したセシリアもいつのまにかこっちに戻っていた。


「今からでも遅くはない。王宮に仕えを出して一流どころを連れて来い……不死竜が出たとなれば文句は言うまい」

「お前がいればそんな必要はないのではないか……いや、なんでもない」


 やつれたようなスヴェンはどこか拗ねた様に呟くが、すぐに正気に返った。

 だがその後に明かされた事実はエルネストを暗澹とさせるものだったのだ。


「正規軍は既に王宮から排除されて、王都から徒歩数日の郊外都市に拠点を移している。今、王宮を守っているのは剣聖家の私兵の連合軍だ。一応は正規軍の三流どころが許されて王都に常駐しているがな」

「三流どころか学生が混じっているみたいだが」

「予算の面で大分締め上げられている。そのため正規軍だけでは人員を確保できずにやむなくアルバイトで不足分を補っているのだ」

「嘆きたくなる現状だな」


 つまりは首都ミスティルハイムには事実上、まともな正規軍は存在しないという事だ。

軍と呼べるものは権力争いにかまけた剣聖家の私兵のみ。

つまり欲にまみれた権力者を止める組織自体が首都にはないということだ。


 なぜ人間同士でそこまで足を引っ張り合うのか……不死王との決戦で、一応は国民が団結した頃を知っているエルネストからすれば卒倒しそうな内容だった。


「お前が大分、不死竜を弱らせたのだからこのままいけば討伐できるのではないか?」

「拗ねるな、バカが……俺がしたのはただの足止めだ。不死竜はほとんど弱っていない。奴が今動かないのは、対処するべく肉体を改造しているだけだ」


 エルネストは不死竜を見やる。

 猛撃で身動きできないその姿を、勝利を確信していた正規軍。

 だがここにいて部隊に不安が立ち込め始めた。


―――なぜ破壊できない

―――これほど攻撃魔法を打ち込んでいるのに原型を留めている

―――こちらは魔力を使い尽くしつつあるのに


 魔法の応酬がついに息切れを起こしつつあった。

 魔力切れにはまだ猶予があるが、精神的な動揺が攻撃に切れ目を生じさせてしまったのだ。

 経験が足りない、我慢が足りない、なによりもこの方法で打倒できるという自信が足りなかった。

 そこを……人外の魔物は寸分違わずに突いたのだ。


 不死竜の頭部から首筋にかけて人型が浮かび上がった。

 人間……されど首から上に奇妙な魔道具を嵌めた異形。

 エルネストは驚愕した。

 それはこの戦いののろしを上げた魔導機械……25年前はついに完成しなかった「空間転移」。

 二体いたのだ……そして二体目は不死竜の身体に埋め込まれていた。

 

 歪んだ空間の展開は一度目よりも早かった。

 対峙した正規軍は突如として消えたと混乱することになる。


 転移の居場所はバウムガルデン家席の目の前。

 エルネストにトドメを刺すがごとく、巨大な質量は唐突に表れた。

 周囲にはバウムガルデン家と他二家の血縁と従者がいる。

 転移と同時に不幸な十数人が押しつぶされて死亡した……否、押しつぶされて見えるがよく見れば吸収されている。

 生きながらに不死竜に飲み込まれる様は底なし沼に落ちるかのようだった。


「ほう……再戦希望か」


 ロゼや、周囲の人間がいるためにことさらに強がったものの、エルネストの心情は絶望の一言だった。

 単純な戦力差だけではない。


(正規軍の集中砲火が止まった……剣聖家らを巻き込むのを恐れているな)


 まさかそれを見越して包囲確定のど真ん中にワープした訳ではあるまい。

 不死者に知性はない。

偶然だとしても厄介なことだと、エルネストは背筋を凍らせる。

 

(あの世に言ったら、とりあえず意外に面倒くさいローベルトのジジイに死ぬほど文句をつけてやる)


 そう虚勢を張るのが彼の精一杯だった。

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