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中の人(1)

すべての非リア充、陰キャ、ボッチ気質、インセルの人々に捧ぐ

 俺はノートPCのディスプレイから目を離すと、ストロングゼロの缶に手を伸ばした。一口飲んで、さっき書いたものを読み直す。今書いているのは、俺の創作したライトノベルの冒頭部分だ。フィクションを書くのは、中学の国語の課題以来だ。

 転生前の主人公は、俺と近い設定にした。その方が書きやすいと考えたからだ。初めての作品なので、難易度を下げるに越したことはない。

 俺は北九州市の高校から、青学に進学した。経堂のアパートに住んで大学に通っていた。経堂から小田急に乗って下北沢に出て、井の頭線で渋谷で降りてそこから歩いて学校へ行った。就職してからも同じアパートに住んで、渋谷から田町にある会社まで山手線で通った。

 その会社は二年前に辞めた。主人公は五年勤めていた設定だが、俺は三年しかもたなかった。毎月のノルマ達成のプレッシャーと上司のパワハラで潰れた。

 ノルマが達成できず、毎月のように上司に詰められた。上司に詰められそうになると、雑談などでうまく追求をかわす要領の良い同僚もいたが、不器用な俺には無理だった。三か月連続で目標未達の俺に、激昂した上司からボールペンを投げつけられた時、辞めることを決意した。あのまま会社に残り続けても、発狂するか、自殺するかのどちらかだっただろう。

 雀の涙のような退職金を受け取り、故郷の北九州に帰って来た。こちらの方が物価も家賃も安いからだ。市内の外れにアパートを借りて、一人暮らしを始めた。実家はこちらにあるものの、会社勤めを放り出した俺に対する家族の風当たりは強く、一緒に住むのは無理だった。地元の公立大学を卒業した市役所に勤めの二歳年下の妹は、家族と同居している。同じ市役所に違う部署で働いている父親は、あと数年で定年だろう。

 帰郷してから人材派遣会社に登録して、契約社員としてデータ入力の仕事に就いた。実質バイトみたいなもので、被雇用者の健康保険には入れるものの、退職金などの保障はない。家賃を払ってギリギリ生きていける程度の給与だ。

 職場は、元は地方銀行の営業所だった建物だ。業務縮小で営業所が閉鎖し、長らく空きビルとなっていた市内の建物だ。元は金融機関の建物だったため、壁の厚い要塞じみた四階建てのビルに入居した人材派遣会社が、電話線とLANケーブルを張り巡らし、PCを配備して、コールセンターやデータ入力センターとしてリユースしていた。

 そこで働いて一年半ほどになる。週五日、PCで関東のインフラ会社の顧客データを入力している。入力欄ごとに半角・全角の文字指定があって入力規則が複雑な上、漢字や日本の地名の知識がないと入力が難しいため、海外のオフショアリング業者には発注できないのだろう。入力するのは、千葉や埼玉などの関東圏の馴染みのない住所ばかりだった。人材派遣会社も中央資本の会社だった。人件費の安い地方に、労働集約型の作業拠点を作っているようだ。

 戻って来て、半年ほど正社員の職を探してみたが、見つからなかった。市内に産業用ロボットの世界的なメーカーがあったが、中途採用はエンジニアの募集のみで文系の俺に務まる職種はなかった。己の無能さを呪ったがしかたがない。数学の成績が壊滅的だった俺には、理系の進路は閉ざされていた。

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