第9話 豪商の護衛(後半)
虎門鏢局を再建するため李師師に協力してきたが、一体いつになったら見返りがあるのか。
いくら報酬の銀子を得ても、再建できなくては意味がないのだ。
「さぁ、行くぞ!」
物思いにふけっていたが、趙景の一言で我に返る。
まずは、目の前の仕事に集中しよう。
沈澄の護衛は、趙景、竹琴、菊笛、蘭歌、梅舞、俺の6人だ。
大人数で護衛する方法もあるが、それでは目立ってしまう。
隠れて護衛するには、これが限界だろう。
「刺客がいたぞ。」
「な…まさか。」
「まさか、華林九だったとは…。」
そう言うと、趙景は絶句した。
「どうした、いくら強いと言っても一人なんだろう?」
俺の問いに、彼女は面倒臭そうに答える。
「江湖で殺し屋として悪名高い男よ。」
「銀子さえ払えば、誰であろうと暗殺を請け負う。」
「それに、奴の実力を知る者は少ない。」
「確実に殺されてしまうからな。」
それほどの達人が狙うとは、やはり背後にいる人物もただものではないだろう。
彼女は俺たちから離れ、沈澄へ近づいていく。
すると、今が好機とばかりに華林九が飛び出した。
剣が交わった瞬間、俺ですら力量の差が分かった。
あっと言う間に趙景が押されていく。
「まずい。遠慮はいらないから、必殺の一撃を繰り出してくれ。」
俺の言葉に、竹琴、菊笛が琴と笛の音で奴を幻惑する。
「ちっ、小賢しい技を使う。」
華林九は標的を変え、今度はこちらに向かってきた。
蘭歌、梅舞が迎え撃つ。
「天地真功!」
二人は互いの片手を合わせ、空いた片手を奴へ向ける。
「これは珍しい、霊宝派か。」
そう言うと、奴を中心にグルグルと風が回転して舞い上がる。
さらに、剣はバチバチと電気を帯びたような音を立てている。
「雷風剣!」
蘭歌、梅舞の内功と衝突するも、華林九の内力が上回った。
二人は吹き飛ばされたが、何とか踏みとどまって堪える。
しかし、形勢逆転は難しいだろう。
「皆、ここまでだ!離散して逃げるんだ!」
そう言いながら、俺は沈澄を抱える。
趙景は、任務を遂行しろと叫んでいる。
「命を差し出して良い任務などない。とにかく逃げるんだ。」
そう言うと、飛雲功で一気に飛び去る。
華林九は俺を目指して追ってくるが、空中で方向を変え、さらに加速していくのだ。
さすがの奴も追いつけない。
酒屋に戻ると、皆もすぐに集まってきた。
どうやら、負傷している者はいないようだ。
「これから、どうするつもりだ。」
「ここも奴に見つからないとは限らないぞ。」
皇帝謁見の機会をドタキャンしたのだから、任務は失敗である。
加えて、趙景の言う通り危険が迫っている。
「すぐには見つからないだろう。」
「まずは、李師師に報告する。」
「その後、沈殿を開封から連れ出そう。」
任務失敗が気に入らないのだろう。
翌日になっても、趙景は不機嫌そうにしていた。
そして、さあ沈澄を連れて開封を出ようという時、新たな事件が舞い込んだ。
「大変なことになった。」
「金軍が開封を攻めてくるそうだ。」
「今回は城門でぶつかることになるだろう。」
「皇族などは、もう避難の準備が整っているそうだ。」
そう言うのは趙景だ。
この情報、実はそれほど驚くものではなかった。
もちろん、城門でぶつかることは初めてだから、いよいよ宋の存亡をかけた戦いということは理解できるが、これまで何度も金軍と戦をしている状態だからだ。
「我々は、李師師を護衛する任務を受けた。」
「護衛は付くが、当然禁軍は同行しないからな。」
「非難する皇族は皆、臨安府を目指す。」
「だが、襲撃による全滅を回避するためバラバラに動く。」
「つまり、護衛は少数だから我々の役割が重要になるというわけだ。」