第6話 不正な銀子の流れ(中)
「李海だ。今日は楽しもう。」
そう言うと、俺は金華猫の能力を発動する。
「あら、李公子。何故だか、あなたとは初めて会った気がしないわ。」
「今日は返さないんだから。」
魅了の術にかかった彼女は、べったりと俺にくっついて離れない。
そして、料理を勧めながら酒を杯に注ぐ。
「ところで、どうしてこの妓楼は神出鬼没で移動するんだい?」
こんな怪しい質問にも、すっかり虜になっている陳蓉蓉は二つ返事で答える。
「ここは高俅様の妓楼よ。」
「収益はもちろんのこと、賄賂を隠れて受け渡しするためにあるの。」
「そんなこと、もういいじゃないの。」
「それより早く楽しみましょう。」
そう言うと、俺の衣服を脱がせていく。
「その前にもう一つだけ。」
「他にも目的があるんじゃないの?」
いくら移動するとは言え、わざわざ妓楼のような目立つ場所を選択する必要はなかったはずだ。
「実はね、高俅様の邪魔をする者をここへ呼び出して命を奪う。」
「それが隠された目的よ。」
「妓楼なら、大抵の者は疑いもせず喜び勇んでやって来るわ。」
「でも、このことは内緒にしてね。」
さらに陳蓉蓉が何かを話そうとしたその時、
「そこまでだ!」
窓の外から、覆面で全身黒ずくめの男が乱入してきた。
と同時に、彼女の腹には剣が突き刺さっていた。
「李海とやら、ここへ何をしに来た。」
「生きて出られるなどと、思わないことだな!」
男は、続けて俺に襲い掛かってくる。
失敗した。
こんなことなら、竹琴だけでも連れて来ればよかった。
「飛雲功!」
焦った俺は、とにかく軽功で逃げようとした。
しかし、密室空間で軽功は有効な手段とは言えない。
そのまま扉を蹴破ると、外へ転がるように飛び出した。
「李海、無事か!」
ほとんど同時に、趙景も飛び出してきた。
彼女の方にも、別の覆面の男がいたようだ。
軽功で一瞬のうちに俺のところまで飛ぶと、その勢いでこちらにいる覆面の男を斬り捨てる。
竹琴の言う通り、趙景の剣法は間違いなく達人の域だ。
「ここまでだ、妓楼から出るぞ。」
軽功なら俺も負けない。
彼女の言葉に従い、風のように妓楼を後にした。
宿に戻ると、互いの成果を共有する。
「妓楼の収益だけでなく、賄賂の受け渡しも事実だった。」
そう言うと、趙景は眉一つ動かさず、杯の酒を飲み干した。
「それだけじゃない、高俅に逆らった者を始末するための場所だった。」
「妓楼が移動していたのは、その痕跡を消すため…」
俺の話しを聞くと、彼女は「ふんっ」と鼻を鳴らす。
そして、話し終わる前に割って入った。
「明日もう一度向かう。」
「女将なのか、他の者か。ともかく、妓楼を仕切っている者を捕えてやる。」
一体、俺の何が気にいらないと言うんだ。
まぁ良いか、この任務が終わるまでの辛抱だ。
翌日の夜、俺たちは再び妓楼へ足を運んだ。
「どういうことだ?」
何と、数日は開かれるはずの妓楼は、一夜にして消えていたのだ。
「騒ぎが起きたから、急いで撤収したというところか。」
「さすがは高俅の手下だ。」
趙景、感心している場合ではないぞ。
これでは、任務完了とは言えないのだから。