第9話 天地幇の再興(中)
集落が完成間近になると、隣の集落へ挨拶に行くことにした。
隣と言っても、山ひとつ超えた向こうにあるのだが。
集落の男手を集め、友好の証となる贈呈品を荷車で運ぶことにした。
険しい道のりを越えて行き、挨拶も無事に終わった。
さあ帰ろうとした時、
「李幇主、あいにくの空模様だ。」
「今日は泊っていかれよ。」
集落の長に言われ、お言葉に甘えようとすると、見知った顔の男が息を切らしてやってきた。
「幇主、大変なことになりました!」
彼は、副幇主の史書賢。
武芸は人並みだが、聡明で皆をまとめる力に優れた男だ。
「集落が襲われました。」
「竹琴たちが守っていますが、いつまで持つか。」
「しかも、どういう訳か襲ってきたのは高衙内。」
「つまり宋軍なのです。」
どうして、高位の者が集落など襲うのだろうか。
「にわかには信じ難いが、ともかくすぐに向かう。」
「皆は後から来てくれ。」
史書賢を休ませると、頭に笠をかぶる。
「飛雲功!」
空中を蹴り続けるように、内力全開で飛び出した。
山の中腹あたりまで来たところで、老婆が襲われているところに出くわした。
襲っている男たちは、腕の立つ武芸者だ。
なぜか、殴る蹴るの暴行を続けている。
「何て酷いことをするんだ。」
「寄り道している場合ではないが、このままでは死んでしまうな。」
「…目の前の命を助けない訳にはいかないか。」
方向転換すると、急いで老婆の方へ向かった。
「何をしているのです。」
「身なりから、五大門派の方とお見受けしました。」
「大の男が寄ってたかって老婆を襲うなど、英雄のすることですか?」
俺の言葉に、男たちは攻撃の手を止めた。
「見ない奴だな。」
「我々は青城派の者だ。」
「俺は顔虎、隣にいるのは司明。」
「青城十人を知らないのか?」
顔虎は髭を貯えた凛々しい容姿の男だ。
司明は整った顔立ち。江湖の者としてはかなり細身に見えるが、英雄の風格を持っている。
青城十人の名は聞いたことがあるが、もう年寄りしか生き残っていないはず。
…よく見れば、二人とも高齢だ。
老人同士の喧嘩か?
「私は虎門鏢局の李海と申します。」
「そんな名門正派が、どうして老婆を袋叩きにするのです。」
「許される行為ではありませんよ。」
天地幇は江湖の一派だから、虎門鏢局を名乗る方が賢明と判断した。
顔虎は胸を張ると、俺の言葉に答える。
「その女を知らないとは、やはり江湖の者ではないな。」
「いいだろう、教えてやる。」
「五悪鬼の三番手、広南隠剣こと呂无花だ。」
「五悪鬼くらいは知っているだろう。」
「分かったら、黙って見ていろ!」
そう言うと、彼らは再び暴行を始めた。
広南隠剣を見てみれば、屈んで丸くなっているが、身を守れているとは言えない。
江南凶忌のこともある、きっと悪事を働いてきたのだろう。
しかし、こう一方的では見ていられない。
「ふんっ!」
右足で地面を強く踏み込むと、その反動でいくつかの石が浮き上がる。
それを瞬時に蹴りだすと、石は男たちに命中した。
しかし、顔虎と司明はすんでのところでかわす。
「これは驚いた。」
「李海と言ったな。江湖の者でもないのに、優れた武芸を身に付けているではないか。」
「いいだろう、お前を先に始末してやろう。」
彼らが身構えたところで、広南隠剣が口を開く。
「李大侠、私が悪いのです。」
「正派の者に武芸を奪われ、今となっては廃人同然です。」
「数々の悪事を働いたのだから、殺されるのが当然。」
「巻き込まれることはありませんから、もう行ってください。」
彼女は涙を流している。
暴行を受けていた時は、涙を見せていなかったのに。
「よく分かりました。」
「余計に放っておくことは出来ません。」
そう言うと、今度は顔虎たちへ言葉を投げかける。




