第8話 天地幇の再興(上)
大理の反乱では、目前まで迫った俺を見て、高妙音は恐れをなして兵を退いたそうだ。
反乱の制圧は成功し、俺は大理でも英雄と呼ばれるようになっていた。
そして、その功績を称え、皇帝から大理への招へいを受けた。
しかし、残念ながらそういうことに興味がない。
それよりも夢を叶えたい、と丁重に断った。
「天地幇を再興したい。」
「これは、父上の後を継ぎたいからと言うわけではない。」
「天地幇は誰でも入門を歓迎する。」
「この姿勢には共感するものがある。」
「そして、この天地幇の基盤を使って、貧しい人たちをひと握りでもいいから救いたいんだ。」
南斗司、虎門鏢局の幹部を集めると、酒を断ってからずっと考えてきた夢を語った。
「具体的な方策はこれから説明するが、協力してもらえないだろうか。」
この問いへ、初めに答えたのは薛雷だった。
「南斗司は俺に任せろ。」
「やるべきことを見つけたなら、何も言わん。」
「好きなようにすれば良い。」
続いて口を開いたのは楊宣娘だ。
「虎門鏢局は私に任せて。」
「竹琴たちを伴って行くと良いわ。」
南斗司、虎門鏢局、どちらも今や大規模な組織になり盤石だ。
二人がそう言うなら、全てを任せても良いだろう。
竹琴たちも、ぶんぶんと首を縦に振り、賛同の意を示してくれた。
「皆、ありがとう。」
「それでは方策を説明する。」
次に何を言うのか、皆が固唾を呑んで見守っている。
「方策とは言ったが、試行錯誤しながら進める。」
「口で言うほど簡単なことではないんだ。」
「貴州の西の端に土地を用意した。」
「山林に囲まれたところだが、肥沃な地。」
「ここに集落を作る。」
「西は大理に面しているため、宋と大理、どちらの地も行き来できる。」
「その集落に…」
さきほどから、菊笛が手を挙げている。
「はい、菊笛。」
俺に当てられると、嬉しそうに話し出す。
「どうしてわざわざ、そんな田舎へ行くんでしょうか?」
「開拓も必要でしょうし、都に慣れた若様はお辛いと思います。」
もっともな意見だ。
「俺のことは置いておいて、なぜ田舎へ行くのか?」
「それはね、天地幇は歓迎されない組織だからだよ。」
「身分を問わず、身を寄せ合って生きるんだから、国にとっては何の利益もないさ。」
「しかも、かつては弟子の数で五大門派を上回るほどだったから、下手をすれば討伐されてしまう。」
菊笛は、ふんふん、と頷きながら聞いている。
理解しているのか上の空なのか、相変わらずよく分からない子だ。
「さて、話しを戻そう。」
「その集落には、今も各地に潜伏している天地幇の弟子を呼び集める。」
「初めは、集落を作るために必要な各分野に精通した者を集めるつもりだ。」
「軌道に乗るまでは相当な銀子が必要になるだろうが、皆が楽しく暮らせる場所が出来た暁には、各地のひっそりとした静かな地にいくつもの集落を作っていく。」
ここで竹琴が口を開いた。
「よく分かりました。」
「それで、集落に必要な各分野とは、どのようなものでしょうか?」
これも良い質問だ。
「まず食だろう。」
「作物を育てる知見がなければ、自給自足すらままならない。」
「建築の知識や、衣服の仕立てを初め生活に必要な道具も、全て自分たちで作りださなければならない。」
説明を聞いて皆理解したようだが、同時に容易でないということも感じたようだ。
「話しは以上だ。」
「早速明日から、皆で貴州へ招く弟子への書簡を準備しよう。」
「それが出来たら、俺とそうだな…菊笛は集落の中心となる弟子を迎えに行く。」
「他の皆は、貴州へ向けて出発してくれ。」
菊笛を選んだことに、深い理由はない。
あえて言えば、彼女は特に人当たりがよいからだ。
集落の予定地に着くと、まずは荒地の開墾から始めなければならなかった。
しかし、当然そういうことに長けている者も呼んでいる。
作物の栽培、住居の建築、全てが想定以上の速度で進んでいった。
着々と集落が出来ていく裏では、自警団の育成も進めた。
これは俺が直接指南する。
しかも、奥義を除いて李家の内功と剣術を伝授する。
李空や本物の李海がどう思うか今となっては分からないが、俺の好きなようにやらせてもらう。




